第18話 お礼参りに行ったら、皇帝陛下が土下座して待っていた ~ついでに通販カタログを置いてきたので、もう戦争は起きないでしょう~
巨大兵器をフライパンの素材にしてから数時間後。
俺は捕虜にした将軍と、従業員たちを連れて『転移陣』の上に立っていた。
「よし、それじゃあ行くか。帝国城へ」
「あ、アレン様……? 本当にその格好で行くんですの?」
リリアが引きつった顔で俺を見る。
俺の服装は、いつものエプロン姿。手には手土産の菓子折り(村で採れたフルーツの詰め合わせ)。どう見ても、近所へ回覧板を持っていく恰好だ。
「正装する時間も惜しいしな。それに、今回はあくまで『将軍の返還』と『素材のお礼』に行くだけだ。喧嘩しに行くんじゃない」
「ニャー……(親分、それは相手が信じないと思うニャ……)」
クロが呆れたように耳を伏せる。
俺は気にせず、転移魔法を発動させた。
「座標指定:ガレリア帝国、玉座の間。――転移!」
シュンッ!
ガレリア帝国、玉座の間。
そこは、お通夜のような静けさに包まれていた。
最強の飛竜部隊が全滅し、最終兵器『魔導巨神』が一瞬で消滅した報告を受け、皇帝と重臣たちは絶望の淵にいた。
「へ、陛下……どうすれば……」
「アレンという男、もはや人の形をした天災です……」
「くっ……! 余は……帝国はここで終わるのか……!」
皇帝が頭を抱えた、その瞬間。
パァァァッ!
玉座の目の前の空間が歪み、光が溢れた。
警備兵が槍を構える間もなく、そこには四人の男女と一匹の狼、そして縛られた将軍が現れた。
「やあ、こんばんは」
エプロン姿の青年――アレンが、友人の家に来たような軽さで手を挙げた。
その背後には、伝説の神獣フェンリルが「グルル……」と喉を鳴らし、元・帝国最強の暗殺者『黒猫』が短剣を弄んでいる。
皇帝の目には、それが「処刑人の到着」に見えた。
「ひ、ひぃぃぃぃッ!?」
「で、出たァァァ! アレンだァァァ!!」
重臣たちが腰を抜かし、衛兵たちが武器を取り落とす。
皇帝は玉座から転がり落ち、ガタガタと震えながら後ずさった。
「ま、待て! 命だけは! 命だけは助けてくれ! 国ならやる! 財産も全部やるからァ!!」
大陸全土を震え上がらせた覇王の威厳は、どこにもなかった。
俺はぽかんとして、リリアに耳打ちした。
「おい、なんかすごい怖がられてるぞ。俺、なんかしたっけ?」
「巨大ロボットをバラバラにして、王城の結界を無視して転移してきたら、誰だってこうなりますわ!」
まあ、確かにアポなし訪問は失礼だったか。
俺は努めて紳士的な笑みを浮かべ、皇帝に歩み寄った。
「陛下、落ち着いてください。今日はこれを返しに来たんです」
俺は後ろ手に縛られた将軍を前に出した。
「お、おぉ……将軍! 生きていたか!」
「へ、陛下ぁ……! この男、化け物ですぅ……! カレーが美味かったですぅ……!」
将軍が泣き崩れる。
そして俺は、もう一つの用件を切り出した。
「それと、さっき頂いた『オリハルコン』のお礼です。おかげで良いフライパンが作れました」
「お、お礼……だと……?」
「はい。なので、これからは仲良くしましょう。……というわけで、これにサインを」
俺が懐から取り出したのは、一枚の羊皮紙。
皇帝はそれを見て、ゴクリと唾を飲み込んだ。
(こ、これは……『奴隷契約書』か!? それとも『領土割譲条約』か!? どちらにせよ、断れば殺される……!)
皇帝は震える手で羽ペンを取り、涙ながらにサインをした。
「……書いたぞ。これで満足か……」
「ありがとうございます! これで陛下も『プレミアム会員』ですね!」
「……は? ぷれみあむ……?」
キョトンとする皇帝に、俺は分厚い本――『アレン雑貨店・総合カタログVol.1』を手渡した。
「それは通販の契約書です。プレミアム会員になったので、今後は全商品が10%オフ、かつ送料無料で王城までお届けします」
「つ、通販……?」
「ええ。ポーションでも魔剣でも、美味しいご飯でも。欲しいものがあれば、そのカタログの絵を押してください。戦争なんかするより、ウチで買い物した方が安くて安全ですよ?」
皇帝は呆然とカタログを開いた。
そこには、『不老の秘薬』や『伝説の武具』、そして見たこともない『極上のスイーツ』が並んでいた。これらを手に入れるために、帝国は何十年も戦争をしてきたのだ。
それが、ボタン一つで買える?
「……余が欲しかった『育毛剤(Sランク)』もある……だと……?」
「あ、それ人気商品です。即効性ありますよ」
皇帝の手が震え、そして次の瞬間、猛烈な勢いで注文ボタンを連打し始めた。
「か、買う! これも! あれもだ! 戦争などやめだ! 余は今日から通販生活を送るぞォォォ!!」
こうして。
ガレリア帝国と王国の間に、平和条約が結ばれた。
条約の内容はただ一つ。
『アレン雑貨店の配送ルートを妨害しないこと』。
俺は将軍を解放し、フルーツ盛り合わせを置いて、意気揚々と店に帰った。
「ふぅ、これで商圏が広がったな。忙しくなるぞ」
「主よ……お前、ある意味で世界征服をしてしまったことに気づいておらんのか?」
「ニャー。(世界経済を握ったら、実質支配者だニャ)」
呆れるフェルとクロを他所に、俺は今日の夕飯の献立を考えるのだった。
平和が一番。ご飯が美味い。
これにて、帝国編――完!




