第16話 裏庭を掘ったら『美肌の秘湯』が湧いたので、みんなで入ることにした ~空からドラゴンが来てるけど、湯気で見えないからヨシ!~
『魔法通販』の開始から数日。
アレン雑貨店の売上はうなぎ登りだったが、従業員たちの疲労も限界に達していた。
「……もう動けませんわ……。王族の手が腱鞘炎になりそうです……」
「ニャー……。肉球がすり減って無くなるニャ……」
リリアとクロが、リビングのカーペットの上で死体のように転がっている。
フェルもカウンターで液状化していた。
「主よ、我はもう働きたくないぞ。美味しいものは食べたいが、労働はしたくない」
「お前はニートか。……まあ、確かにみんな頑張ったな」
俺も肩が凝っている。
ここらで一つ、福利厚生としてアレを作るか。
「よし、みんな。裏庭に集合だ。疲れを一発で吹き飛ばすものを作ってやる」
店の裏庭。
俺は地面を見定め、スコップ(ミスリル製)を構えた。
「この辺りに水脈があるな。よし、掘るぞ」
「アレン様、まさか井戸掘りですか? 水なら魔法で出せますけど……」
「いいから見てろって」
俺はスキル【地形操作】を発動し、スコップを一突きした。
ズドォォォン!!
地面が爆ぜ、地下深層から熱い水柱が噴き上がった。
硫黄の微かな香りと、白い湯気。
そう、温泉だ。
「お、お湯ですわ!?」
「ただのお湯じゃない。地下のマナだまりを経由した『魔力温泉』だ。これを……こうして!」
俺はインベントリから『檜の巨木』と『平らな岩』を取り出し、高速で加工する。
岩を組んで露天風呂の浴槽を作り、檜で壁と屋根を作り、脱衣所を完備。
仕上げに『竹筒』でお湯を引き込めば――。
わずか十分で、情緒あふれる『源泉かけ流し・檜の露天風呂』が完成した。
「す、すごいニャ……! 旅館みたいだニャ!」
「リョカン? 分かりませんが、とても風流ですわ!」
「よし、まずは入ってみよう。あ、当然だけど『男湯』と『女湯』は分けたからな。真ん中の岩壁は超えちゃダメだぞ」
ちゃぽん。
俺は一番風呂に浸かり、大きく息を吐いた。
「くぅ〜〜っ! 生き返る……!」
42度の適温。肌に吸い付くような泉質。
檜の香りが鼻孔をくすぐり、日々の疲れがお湯に溶けていくようだ。
これぞ日本人の心。異世界に来て一番やりたかったことが叶った瞬間だった。
壁の向こうからは、キャッキャと楽しげな声が聞こえてくる。
「きゃあ! 何これ、お肌がトゥルントゥルンになりますわ!」
「すごーい! 尻尾の毛並みがサラサラだニャ!」
「うむ、悪くない湯だ。……おいリリア、背中を流せ」
「はいはい、フェル様はじっとしててください」
うん、平和だ。
俺は手ぬぐいを頭に乗せ、青空を見上げた。
雲ひとつない快晴。……ん?
「……なんだ、あれ?」
空の彼方から、黒い点がいくつも近づいてくるのが見えた。
鳥の群れ? いや、にしてはデカい。
俺は目を細める。
翼竜だ。
数十匹の編隊を組んで、一直線にこちらへ向かってきている。
背中には武装した兵士が乗っていた。
「ガレリア帝国の紋章……? なんであんなところに」
俺が首を傾げていると、先頭のワイバーンに乗った隊長らしき男が、拡声器のような魔法具を使って叫んだ。
『告げる! 我らはガレリア帝国、飛竜騎士団である! 貴様らの拠点は完全に包囲した!』
バリバリバリッ! という大音量が空気を震わせる。
せっかくの静寂が台無しだ。
『アレンとかいう店主! 及びその技術! 全て帝国が接収する! 大人しく投降せよ! さもなくば、この村を火の海に……』
「……うるさいな」
俺は眉をひそめた。
今は神聖な入浴タイムだぞ?
壁の向こうからも、不機嫌そうな声が聞こえた。
「おい主よ。空にハエが湧いておるぞ。耳障りだ」
「せっかくお肌のケアをしていましたのに……無粋な方々ですわね」
リリアとフェルもかなりお怒りのようだ。
俺は湯船に浸かったまま、インベントリから『とあるアイテム』を取り出した。
以前、花火大会用に作っておいた『自動追尾式・打ち上げ花火(対空用)』だ。
「悪いけど、他所でやってくれ」
俺は花火の筒を空に向け、スイッチを入れた。
シュパパパパパパッ!!
美しい光の尾を引いて、数十発の花火玉が一斉に発射された。
それは生き物のように空を駆け、ワイバーンの群れに向かって殺到する。
『な、なんだこの光は!? 迎撃魔法か!? 回避……うわぁぁぁッ!!』
ドォォォォォォン!!
タマヤァァァァァ!!
空中で盛大な爆発音が連続し、色とりどりの火花が散った。
直撃を受けたワイバーンたちは黒焦げになり(※死んではいない。たぶん)、きりもみ回転しながら森の向こうへと墜落していく。
『ひ、飛竜部隊が全滅だとぉ!? ば、馬鹿なァァァ……!』
隊長の悲鳴と共に、空は再び静寂を取り戻した。
残ったのは、昼間の空に咲いた綺麗な煙の花だけ。
「ふぅ……。静かになったな」
「アレン様ー! 今の音、花火ですか? 綺麗でしたわー!」
「今度また見せてくれニャ!」
壁の向こうから拍手が聞こえる。
俺は再びお湯に肩まで浸かり、極楽気分を味わった。
帝国軍の先遣部隊が、入浴中の店主に「ついで」で壊滅させられたことを知る者は、まだ誰もいなかった。




