第14話 帝国の暗殺者が「ターゲットの隙を見て殺すニャ」と企んでいたら、ダンジョンのボスが一瞬で素材になっていた件
翌朝。
『アレン雑貨店』のリビングは、朝から修羅場……ではなく、妙な緊張感に包まれていた。
「……アレン様。この猫耳の女性はどなたですか?」
リリアーナ王女が、ジト目で俺とクロを交互に見ている。
クロは俺の膝の上で丸くなり、昨晩あげた『チュール・オブ・ゴッド』の余韻に浸ってゴロゴロと喉を鳴らしていた。
「ああ、昨日の夜に拾ったんだ。名前はクロ。今日からうちで働くことになった」
「拾った!? 人材採用の基準が雑すぎませんか!? しかもあざとい! その耳と尻尾は反則ですわ!」
リリアが「むきー!」と嫉妬している。
クロは片目だけを開け、リリアを挑発するように「ニャッ」と鳴いた。
(フン、ちょろい小娘だニャ。このターゲット(アレン)に取り入るのは私の任務。邪魔するなら排除するだけ……と言いたいところだけど、この家の朝ご飯も美味しそうだから我慢してやるニャ)
クロは内心で舌を出した。
彼女はまだ諦めていなかった。アレンのペットに甘んじているのは仮の姿。隙を見て拉致し、帝国へ連れ帰るつもりなのだ。
「さて、クロ。働くと言っても、まずは装備を整えないとな」
俺はクロが腰に提げている双剣を見た。
帝国の制式採用武器のようだが、刃こぼれが酷い。
「それじゃあリンゴも剥けないだろ。新しいのを作るから、材料を取りに裏山へ行くぞ」
「ニャ?(ダンジョン?)」
数十分後。
俺とクロは、店の裏にある『魔の樹海』の奥地、地下迷宮へと足を踏み入れていた。
(フフン、チャンスだニャ。こんな人気の無い場所に来るなんて。魔物と戦っている背後から、首をカッ切って気絶させてやる……)
クロが殺気を殺し、アレンの背後に忍び寄ろうとした、その時。
ズズズズ……ッ!
地響きと共に、行く手を巨大な影が塞いだ。
全身が黒い岩石で構成された巨人、『アダマン・ゴーレム』だ。物理攻撃を無効化し、魔法すら弾く鉄壁の魔物。Aランク相当のボス級である。
(ゲッ!? アダマン・ゴーレムだニャ! 私の短剣じゃ傷一つ付けられない……一旦撤退して……)
クロが即座に退避行動に移ろうとする。
だが、アレンは歩みを止めなかった。
「お、ちょうどいい鉱石が歩いてきたな」
アレンは散歩のついでに石ころを見つけたような口調で言った。
そして、人差し指をゴーレムに向ける。
「対象指定:アダマンタイト鉱石。――【自動収集】」
シュンッ!
一瞬だった。
高さ5メートルはあろうかという巨人が、一瞬で光の粒子となって消滅した。
後には何も残らない。音も、衝撃もなく。ただ「最初からいなかった」かのように。
「……ニャ?」
クロは目を点にして固まった。
(い、今、何が起きたニャ? 魔法? いや、詠唱も魔力波動もなかったニャ。ただ指を向けただけで、ボスモンスターが消えた……?)
アレンは気にした様子もなく、ポップアップしたログを確認している。
「よしよし、『純度100%アダマンタイト』ゲット。これでクロの剣を作ってやるよ」
「ニ、ニャー……(こ、こいつ、化け物か……?)」
クロの背筋に冷たいものが走る。
もし、自分が昨晩襲いかかった時に、彼がこの力を使っていたら?
自分は「生ゴミ」として処理(収集)されていたのではないか?
「どうしたクロ? 早くしないと置いてくぞ」
「ニャ、ニャッ!(い、行きます! ついていきます親分!)」
クロは必死にアレンの後を追った。
もう「暗殺」なんて考えは消し飛んでいた。この男を敵に回してはいけない。本能がそう叫んでいた。
店に戻った俺は、早速回収したアダマンタイトを使って鍛冶を行った。
と言っても、スキルで一瞬だが。
「はい、完成。使ってみてくれ」
俺が渡したのは、漆黒の刀身を持つ二振りの短剣だ。
『宵闇の双剣』。
重さは羽のように軽く、だが硬度はダイヤモンド以上。さらに『自動修復』と『斬撃の風圧を消す(消音)』効果を付与してある。
「……!」
クロは震える手でそれを受け取った。
握った瞬間、魔力が全身を駆け巡る感覚。
帝国の皇帝が持っている宝剣すら、これに比べればただの「なまくら」だ。
「ど、どうだニャ……?」
「切れ味を試してみるか。そこの鉄の廃材を切ってみて」
クロが軽く腕を振るう。
ヒュッ。
手応えすらなく、分厚い鉄板が豆腐のように両断された。
「ニャァァァァッ!?(すっげぇぇぇぇ!)」
クロは目を輝かせ、尻尾をピーンと立てた。
こんな国宝級の武器を、拾ったばかりのペット(?)にくれるなんて、この男の器はどうなっているのか。
「気に入ったか? 大事にしてくれよ」
「ニャン!(一生ついてくニャ!)」
クロはアレンの足にスリスリと抱きついた。
彼女は心に決めた。
帝国への報告書には、こう書こう。
『ターゲットは極めて危険。当面の間、潜入(という名のペット生活)を継続し、監視(餌待ち)を行う必要がある』と。
「よしよし。じゃあ昼飯にするか。今日はマグロが手に入ったからな」
「ニャーッ!!」
最強の武器よりも、アレンの「マグロ」という言葉に反応して、クロのテンションは最高潮に達した。
こうして、帝国の最強戦力は、名実ともにアレンの忠実な「飼い猫」となったのだった。




