第12話 国王陛下が「捕らえろ!」と叫んだ直後、伝説の魔獣に睨まれて土下座寸前になり、最後はオムライスを食べて泣いた件
「ええい、問答無用だ! 者ども、その不届き者を捕らえよ!」
国王ルークスの号令一下、白銀の鎧を纏った近衛騎士たちが一斉に抜剣した。
シャララン! という金属音が響き、殺気が俺に向けられる。
「リリアーナを返してもらうぞ。抵抗するなら容赦はせん!」
国王が叫ぶ。父親としての焦りと、王としての威厳がないまぜになった迫力だ。
普通なら、ここでひれ伏して命乞いをする場面だろう。
だが、俺が動くよりも早く、隣にいた銀髪の少女が一歩前に出た。
「……ほう。我が主に刃を向けるか、人間風情が」
フェルが静かに呟く。
その瞬間、彼女の全身から黄金のオーラが噴き出した。
ズゥンッ――!!
大気が悲鳴を上げ、重力が数倍になったかのような重圧が場を支配する。
騎士たちが乗っていた馬が一斉に嘶き、恐怖で暴れだした。
精鋭であるはずの騎士たちも、ガチガチと歯を鳴らして動けなくなっている。
「な、なんだこのプレッシャーは……!? 貴様、何者だ!?」
国王が脂汗を流しながら叫ぶ。彼も歴戦の戦士だが、本能が警鐘を鳴らしていた。目の前の少女は、人が触れていい存在ではないと。
フェルは冷酷な笑みを浮かべ、その背後に巨大な銀狼の幻影を顕現させた。
天を衝くほどの巨大な狼。その姿は、この国の王家の紋章にも描かれている「建国の伝説」そのものだった。
「我はフェンリル。この店の番犬だ。……王よ、その首、胴体と繋がっている必要はあるか?」
「フェ、フェンリルだと……!? 神話の魔獣が、なぜこんな場所に!?」
国王の顔からサーッと血の気が引く。
伝説級の魔獣(Sランクオーバー)が相手では、一国の軍隊でも壊滅しかねない。
「フェル、やめなさい。お客様を脅しちゃダメだろ」
俺がフェルの頭をポンと軽く叩くと、殺気が霧散した。
「むぅ……。主がそう言うなら。だが、こやつら礼儀がなっておらんぞ」
「まあまあ。とりあえず陛下も、武器を収めてください。腹が減ってるんでしょう?」
俺の能天気な言葉に、国王は呆然としていたが、やがてゴクリと唾を飲み込み、震える手で剣を鞘に収めた。
「……分かった。騎士たちよ、剣を引け」
十分後。
店内には、奇妙な光景が広がっていた。
カウンター席に、国王ルークスとリリアーナ王女が並んで座り、その前には湯気を立てる『特製オムライス』が置かれている。
「……アレンと言ったな。余に毒など盛っておらんだろうな」
「そんなもったいないことしませんよ。冷めないうちにどうぞ」
国王は疑わしげにスプーンを手に取ったが、漂ってくるバターと卵の香りに抗えず、一口運んだ。
瞬間。
カッ! と国王の目が開かれた。
「――っ!?」
言葉が出ないようだった。
彼は無言で二口、三口とスプーンを動かし、最後には皿を持ってかっこみ始めた。
王族としてのマナーなど吹き飛んでいた。
「うまい……! なんだこれは、うますぎる!!」
「でしょう! お父様!」
リリアが得意げに胸を張る。
「それだけではない……! 食べるたびに、古傷の痛みが消えていく……!?」
国王が肩を回す。若い頃の戦争で負った古傷が、嘘のように軽くなっていた。
当然だ。このオムライスの卵はコカトリス(滋養強壮)、米は黄金米(魔力回復)、野菜は世界樹の近くで栽培したものだ。そこらのポーションより効く。
完食した国王は、深い息を吐き、そして俺に向き直った。
「……完敗だ」
国王の目には、先ほどまでの敵意は消え、代わりに敬意……いや、崇拝に近い光が宿っていた。
「フェンリルを従え、国宝級のアイテムを量産し、王宮料理人を裸足で逃げ出させる料理を作る……。アレン殿、そなたは一体何者なのだ?」
「ただの雑貨屋ですよ」
「……ふっ、ただの雑貨屋か。傑作だ」
国王は豪快に笑うと、真剣な表情で頭を下げた。
「非礼を詫びよう。そして頼みがある。……リリアーナを、しばらくここで修行させてやってくれんか?」
「えっ? 連れて帰らないんですか?」
「ああ。城に閉じ込めておくより、そなたの元で学ばせた方が、よほど良い女王になれるだろう。……それに」
国王はちらりと空の皿を見た。
「余も、視察と称してちょくちょく通いたいのでな。……おかわりはあるか?」
こうして、アレン雑貨店は「国王公認」の店となった。
最強の番犬に加え、国家権力という最強の後ろ盾まで手に入れてしまった俺のスローライフは、ますます騒がしくなりそうだ。
一方その頃。
王国の隣に位置する軍事国家『ガレリア帝国』。
「……ほう。王国に、伝説の錬金術師が現れたと?」
薄暗い謁見の間で、皇帝が密偵からの報告を聞いていた。
「はい。勇者パーティーを追放された男だとか。その男の作る道具は、戦況を一変させるほどの力を持つそうです」
「面白い。我が帝国の覇道に、その力……利用させてもらおうか」
皇帝の背後で、黒い影が揺らめいた。
「行け、帝国最強の暗殺者『黒猫』よ。その男を誘拐し、我が元へ連れてくるのだ」
「御意ニャ」
新たな火種が、辺境の店に迫ろうとしていた。




