第8話 氷結の廃坑
「ここから少し東方面に迂回しても良い?」
「良いけど、何があるんだい?」
「『氷結の廃坑』というものがあるの」
アイナは、前世の記憶の中のゲームの詳細を思い出していた。スターリー家の顛末のことを描いた絵本には記載していなかった、隠しアイテムの場所などの知識だ。
オースティン子爵領の地図を見た時、隣接する領の地名を見て思い出したのだ。
「氷結の廃坑」は後にダンジョンに変化するのだが、ダンジョンになる前に行くと、フロアボスを倒さなくても、アイテムが得られるのだ。ゲームの攻略本にも書かれていない、制作スタッフしか知らない裏知識だ。ほぼチートである。
「アイナは氷結の魔剣を手に入れた!」
「え? 魔法鞄がある?」
「上級ポーションの材料の薬草の宝庫じゃないか?」
「氷結の廃坑」がある場所の領主には、廃坑に入ることや、中に入るの魔獣を討伐したり、廃坑内の物を得る許可を得ている。
廃坑に住む魔獣を無料で討伐すると言ったら、二つ返事で許可をもらえたのだ。
父がかつて勇者パーティの一員だったということや、勇者の次男もいるということも、唐突に現れた冒険者パーティに対して、領主の許可がすんなり降りた要因かもしれない。
領主の許可を得たのだから、廃坑の中で見つけたものは取り放題なのだが、想像以上に沢山のアイテムを入手することができたので、領主にはお礼に元スターリー伯爵領産の高級ワインを贈った。廃坑で取れたものの一部を贈ろうかという案も出たが、それだと、廃坑に隠しアイテムがあることが知られてしまうから却下となったのだ。
その後も、アイナは前世の知識で、ゲームの隠しアイテムを次々と集めた。スキルの素、強い武器、魔力増強アイテム。冒険者パーティとしての装備も揃っていく。ランクも順調にアップしていた。
湖の辺で、折り畳み式のキャンプチェアに身を預けながら、フリードはアイナがこの世界のことを説明する為に描いた絵本を眺めていた。フリードには一緒に旅に出てすぐにゲーム本編の話はしてある。
話を聞いたフリードは最初は信じられなかったが、アイナは、勇者の家系の設定も知っていた。勇者の家系の設定担当自体はアイナではなかったが、会議の中で担当者が披露していたのを覚えていたのだ。思えば、そういった詳細設定にどれだけ時間を費やしたのだろうか。
残業が減らなかったわけである。
アイナは勇者の父や母の名前、幼馴染の女の子の名前。フリードの母と幼馴染の女性の勇者ジークをめぐる争いも知っていた。ある程度は勇者パーティに参加していた父から聞いたとも思えるが、詳細過ぎた。ジークの執務室に飾られた、祖父と祖母、ジークと兄弟の絵をフリーハンドで描いて見せたのを見て、確信した。未来の事を知っているかはともかく、少なくとも、スターリー一家をジークの執務室には案内はしていないし、誰も知らないハズのことをアイナが知っているということは信じられた。
そして、次々に隠しアイテムを探し当てる状況に、おそらく未来もアイナが言ったことが起きるのだろうと思った。
そう考えながら、何度も眺めた「未来絵本」のページを改めて捲る。




