第5話 家族の決断
議論は夜通し続いた。アイナの心は高鳴った。一人で画策するより、一家で知恵を寄せ集める。それが正しいと信じていた。
マリナがキリっと鋭い目をしながら提案した。
「国外脱出よ。一家揃って、新天地へ。こんな国に残って、お家取り潰しなんて耐えられない!」
理由は熱く語られた。公爵令嬢の家は、父の勇者パーティーの仲間、魔導師の家系。元伯爵家だったのに、王女のお気に入り(ただ顔が良いだけ)で過大評価され、公爵に昇格。父の功績を横取りしたようなものだ。
その事だけでも国に不信感がある。
レオーナの件はまだ遠い未来。未来に絶望はするが今はまだ国を責めることは出来ない。
しかし、大切にしていたロザリオも、自分達の子孫も、家も何もかも奪われる未来についても、無視は出来ないし、腹が立つ。
レオーナの件とて、国外追放して家を取り潰す程の罪だろうか?
婚約者を蔑ろにしていた王子を諌めなかった国にだって責任はあるはずだ。
家の取り潰しなど、王家の過失の擦り付けではないか?
魔導師の陞爵の件と合わせると、国への不信感が募る。
父は苦笑しつつ、頷いた。
「確かに……マリナの言う通りだ。家族の未来を守ろう」
こうして、スターリー伯爵家は国外脱出することを決める。
外国にいる遠い親戚を頼ろう。この国の貴族ではなくなるが、家族で力を合わせて乗り越えよう。
幸い、今はまだ、レオーナが王子の婚約者候補になったみたいなしがらみはない。時間も十分ある。国外への移住の準備。国への爵位の返上手続き。返上後、スターリー伯爵領がどうなるかは国が決める事だが、国は特に非常時などでもないので、穏便に手続きを進められるだろう。
マリナは提案を口にしながら、心の中で計算を巡らせる。
「公爵家は、お父様の仲間だったはず……なのに、あの魔導師の顔の良さだけで昇格? ふざけるな」
苛烈さは、嫉妬や怒りではなく、家族の誇りを守るための鎧。内面では、妹アイナの純粋さに触れ、柔らかな感情が芽生える。
「アイナのこの勇気が、私を変えるかも……一緒に、戦おう」
父は同意を口にしながら、内なる葛藤を抱く。
「国外脱出……。先祖代々守ってきたこの家を、領地を手放せるか。私の勇者パーティーとしての誇りを捨てるのか? いや、しかし、家族のためなら……。そして子孫の為でもある……」
母は議論を聞き、内面で夫と娘たちを思いやる。
「みんなの決意が、強い……。私は、家族の心が、バラバラにならないように、支えなければ……。大丈夫、夫も、娘達も強いから、きっと、大丈夫よ」
心の奥で、過去の夫の戦いの孤独を思い出し、優しい覚悟を新たにする。
「これからも、みんなの帰る場所を守るわ」




