第4話 家族への未来開示
「……やっぱり、私一人でどうにか出来るものじゃないよ」
アイナは孤独を恐れ、家族を巻き込む道を選んだ。前世の作画スキルで、ゲームの本編を絵本に描き上げる。筆を走らせるたび、内なる葛藤が筆先に宿る。
「これを信じてくれるかな……馬鹿げた話だって、笑われるかも」
しかし、家族の集まりで絵本を広げた時、声は震えなかった。
ページをめくるたび、レオーナの悲劇が鮮やかに描かれる。苛烈なマリナの表情、公爵令嬢の陰謀、断罪の場面。家族の夕食後の集まりで、アイナは震える声で絵本を広げた。「お姉様、お父様、お母様、…これを見てください。これは、未来の予言のようなものなのです」
最初、家族は戸惑った。マリナの目が鋭く細まる。
「アイナ、何を馬鹿なことを。こんな絵物語が本当だなんて」
父は、断罪シーンの舞台である王城内のホールの光景をじっと見つめていた。
「この装飾。壁のタペストリー、シャンデリア。見覚えがある。かつて私が勇者パーティーで、凱旋したときに開かれた祝賀会の会場にそっくりだ。アイナが知るわけがないのに……」
父は顔を上げ、アイナを見つめて、難しそうな顔をしながら頷いた。そして再び、絵本に目を落とし、ページをめくった途端、顔色を変えた。
そのページには、レオーナが身につけていたロザリオの鎖が引きちぎられ、踏み付けられて破壊される画面が描かれていた。
描いていたときも、アイナは涙が溢れて仕方なかった。
アイナにとっても、家族にとっても、ロザリオは特別な宝だった。
マリナが立ち上がった。
「こんな理不尽な末路……私たちの子孫が、そんな目に遭うなんて!」
彼女の声は怒りに震え、瞳に涙が光った。苛烈な性格が、家族愛として爆発した。
アイナの心は安堵と喜びで満ちた。
「信じてくれた……。信じてくれたんだ」
マリナの内面は、絵本のページをめくるごとに嵐のように荒れ狂った。レオーナの姿に、自分の面影を見つけ、胸が痛む。
「これは……私の血を引く子が、そんな目に?」
苛烈な性格の裏側で、家族への執着が燃え上がる。幼い頃、父の不在が多かった日々を思い出し、心が締め付けられる。
「お父様のように、守れなかったら……」
彼女は表面では冷静を装うが、内なる声が叫ぶ。「絶対に、こんな未来を許さない。家族を、失うなんて耐えられない」
父は絵本を眺め、顔を青ざめさせる。内面では、勇者時代の記憶が蘇る。
絵本には、第二王子の婚約者となった公爵令嬢の実家の来歴も記載されていた。公爵令嬢の祖先は、父が参加していた勇者パーティーのメンバーだった魔導師で、勇者パーティーが魔族を退けた功績とパーティーへの貢献が認められて、公爵まで陞爵した男だった。
勇者パーティーが活躍する前、父も魔導師も伯爵家の嫡男だった。しかし、魔導師の家は公爵家となり、スターリー家は伯爵家のままだった。もちろん少なくない報奨金などは受け取っていたが、どこか釈然としないものがあった。
だが、アイナが記載した裏の設定には、魔導師の男は顔が良かったので、第三王女に気に入られ、将来第三王女の輿入れ先にしようという思惑もあり、過剰な程、高く功績が評価されて公爵に大躍進したのだった。
「公爵家の魔導師……あいつは、顔だけで昇格したのか。私の功績を、踏み台に……。本人が意図したわけではないだろうが」
魔導師の陞爵の件は、嫉妬というより、そんな国に対応について、呆れた気持ちになる。
「子孫の未来を、そんな理不尽に奪わせない。私の責任だ」
ロザリオのシーンで、胸が締め付けられる。
「あの品が、壊されるなんて……絶対に、防ぐ」
母は絵本の悲劇を読み、内面で胸を痛める。
「子孫が、そんな目に遭うなんて……。それも,マリナにそっくりな女の子が」
穏やかな性格の裏で、家族の調和を保つための努力を思い出す。
「いつも、みんなの笑顔を守ってきたのに……これからは、もっと強く支えなければ」
心の奥で、静かな決意が芽生える。アイナが前世で見たという未来の絵を見せられた時、最初は「どうかしちゃったのかしら」と、娘の行動が奇行にしか思えなかった。今思えば、アイナも、そう言った反応は想定していただろう。でも、子孫達の未来、この家の未来の為に、勇気を振り絞ってくれたのだ。
「アイナのこの勇気に、応えたい」




