第18話 魔族の隠れ里
スターリー一家は馬車と徒歩で北へ向かった。
旅の目的は明確だった。ゲーム本編で魔族が再び侵攻してくるより、数十年も前の今のうちに、魔王復活の兆しを絶つこと。
父が参加した勇者パーティーは、魔族の主力軍を壊滅させ、残党を北の果ての「氷霧の荒野」へ追いやった。あの戦いで魔族は弱体化し、寒冷地で細々と生き延びているはずだ。
雪深い山道を進む中、父の内面が揺れる。
「あの時、魔族を完全に滅ぼせなかったのが心残りだ。娘たちを危険に晒すなんて……だが、今なら。それに、今何とかしないと、子孫達が……」
マリナは苛烈な視線で周囲を警戒し、心の中で誓う。
「家族の未来を、絶対に守るわ。アイナが絵本に描いた前世の記憶が本当なら、なおさら……」
母は皆の体力を回復させる支援魔法をかけながら、静かに祈る。「みんな、無事で帰れますように……私の力で、支えるだけでも」
フリードは、元勇者の父から譲り受けた短剣の装飾を眺めた。父ジークは、勇者パーティで活躍した時に使用した剣を、長男のアーサーに譲り渡した。フリードが受け取ったのは、父親が予備で装備していた短剣だ。
兄が父の後継者なのだから当然だ、とフリードは思っていた。でも、心の奥底では、少しだけ不満に思っていたのかもしれない。だが……、良く手入れをされていた短剣はずっしりと重く、その切れ味は、アイナがあちこちで見つけ出してきたアイテムにも負けていない。フリードは目を閉じ、息を吐いてから、再び目を開け、短剣を見つめた。
「次男だからとか、そんな事はもうどうでも良い。父上が守ってきたものを、僕も守るんだ!」
アイナは馬車に揺られ、普通に座席に腰を下ろしていたが内心では祈るような気持ちだった。
未来に魔族が再び侵攻することを阻止する、それは何としてもやり遂げたいことであると同時に、アイナの前世の瞳と仲間のスタッフ達が作り上げてきたストーリーを崩壊させるようなものだった。前世の自分を思うと、心のどこかで葛藤してしまうのだ。
だが……。アイナは、馬車の中を見回し、家族の一人一人を見つめた。
今のアイナにとって大事なのは、間違いなくスターリー家の家族だ。そしてフリードだ。
フリードがふと顔を上げた。目が合うと、人の良さそうな表情でニコリと微笑んできた。ほんわりと、気持ちが温かくなる。
フリードは一緒に戦ってきた仲間だから……。今は家族と仲間を守ることが最優先だと自分に言い聞かせて覚悟を決めた。
「原作崩壊は、今更よ……。私は、私の家族と仲間を守る為に全力を尽くす!」
ついに、氷霧の荒野に到着した。
吹雪の中、魔族の隠れ里を発見した。粗末な洞窟集落で、痩せ細った魔族たちが暮らす。
フリードの従魔であるシャドが、偵察に行く。シャドウウルフであるシャドは闇魔法を使って闇の中に紛れ、聞き耳を立てる。
『龍晶石に血を捧げよ! 魔王様の復活と、我ら魔族の繁栄の為に!』
シャドを通して届いた言葉を、フリードはスターリー一家に伝えた。
皆の顔が強張る。
「やはり……」
「速攻で、その龍晶石を奪いに行きましょう!」
「ダメよ。慎重に行動しないと!」
魔族の隠れ里から少し離れた崖下の洞窟に、スターリー一家は居た。
モフモフの結界で、凍てつく吹雪の寒さからは逃れていた。
フリードが従魔を使って聞いてきた内容を知らされて、マリナは立ち上がった。今すぐにでも、魔族の隠れ里に殴りこみに行きたい気分だった。
「……今は、魔族は弱体化している状態なんでしょう? 私達が力を合わせれば……」
「龍晶石を持って逃げられたらどうする?」
「でも……」
マリナはグッと唇を噛み締めた。父の言う通り、魔族の里に住む魔族の大半を倒したとしても、魔晶石を何とかしないことには、目的は達せられない。




