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ゆいこのトライアングルレッスンB 〜3つのハート〜

作者: こぐま
掲載日:2025/09/05

「ゆいこの誕生日って、夏の終わりって感じするよな」


公園のフェンスに背中を預けながら、たくみがぽつりとつぶやいた。


「あの時も暑かったけど、風は少しだけ冷たくてさ。今でも毎年、思い出すんだよな」


「それ、あれだろ?」


「あぁ……」


――

それは、俺たちがまだ小さかった頃の話。

ゆいこの誕生日、プレゼントを買うお金なんてなくて、俺とひろしは「一緒に遊ぼう」とだけ伝えて、ゆいこを連れて近所の原っぱへ向かった。


ただ意味もなく笑いながら空き地を走り回って、RPGのマネをして「いい感じの棒」を振り回して。

そのとき、ゆいこが草むらでふと立ち止まった。


「見てこれ!なんか風船みたい!」


緑のツルにぶら下がった、小さな風船のような実。

ゆいこはそれを、小さな両手でそっと包み込んだ。


「それ、フウセンカズラだよ。中にハートの種が入ってるって、ばあちゃんが言ってた」


「うそ!? ハート見たい!」


目をきらきらさせるゆいこに、ひろしが茶色くなった実をひとつ取って、そっと割って見せた。


中から出てきたのは、小さな黒い種が三粒。

そのうちのひとつには、たしかに白いハートの模様がついていた。


「すごい! 可愛いね! 誕生日にこんなの見つけるなんて、嬉しい!」


「お、こっちには二つ入ってたぞ!」


負けじと俺もフウセンカズラの実を割り、出てきた種をゆいこの手のひらに乗せる。


「わぁ、可愛い。なんか、今お願いごとしたら、叶いそうな気がする」


「ゆいこは何お願いするの?」


「ひみつ〜」


そう言って、ゆいこは三粒のハートの種を大切にハンカチで包み、ポケットにしまった。


――

「結局、あいつのお願いって何だったんだろうな……」


「さぁ? もう十年以上前のことだし、ゆいこのことだから忘れてるんじゃねぇの」


「それもそうだな。覚えてるのは、俺たちだけか」


「そういうこと」


思い出がたくさん詰まった原っぱは整備され、公園になっていた。

芝生とベンチと遊具。あの頃の面影は、ほとんどない。


「フウセンカズラ、まだあるのかな?」


「どうだろうな。さすがにもう……」


「あるよ!」


その声に振り返ると、ゆいこがあの時と変わらぬ笑顔で立っていた。


「ついてきて!」


ゆいこの後を追うと、公園の片隅、目立たない場所に、それは咲いていた。


風に揺れる、小さな風船。

変わったのは景色だけで、それは変わらずそこにあった。


「お前、よく知ってたな」


「フウセンカズラは、私の誕生花だから。こうして3人で集まると、あの頃と同じだね」


ゆいこは、あの時と同じように、フウセンカズラを両手でそっと包んだ。


「……“大好きな二人と、ずっと一緒にいられますように”って、あの時、お願いしたの。

今思えば、すごく都合のいい願いだったなって思う。大人になったら、どっちかを選ばなきゃいけないのに。私には……まだ、できそうにないや」


少し俯いたゆいこに、たくみが静かに言った。


「いいんじゃねぇの、無理に選ばなくても。

ここが原っぱから公園に変わっても、このフウセンカズラだけは残ってた。……俺たちも変わらずそれでいいんじゃね?」


「そうだな。ここの種、持ち帰って育ててみようぜ。来年ハートの種が一番多くできたやつが勝ちだ」


「ふふっ、絶対負けないんだから!」


3人は、あの夏と同じように笑い合った。

変わったものと、変わらないもの。

風に揺れるフウセンカズラの中で、それぞれの気持ちはまだ種のまま、静かに息づいていた。


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― 新着の感想 ―
フウセンカズラにまつわるストーリーに、読後感が爽やかでした。 幼い三人がRPGのまねをしていい感じの棒を振り回して、のくだりにクスッとしました。 やっぱり変わらず3人でいてほしいですね。
フウセンカズラ、懐かしいですね すっかり忘れていた子供の頃を思い出させてもらいました
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