第7話 夏祭りのすれ違い
夏休みに入って最初の週末、地元の商店街で開かれる小さな夏祭りは、毎年中学生たちのちょっとした楽しみのひとつだった。
夕方、提灯に灯が入りはじめた頃、藤城祐希は浴衣姿で人混みを歩いていた。
(先輩、来てるかな……)
事前に知っていた。村田洋一が、男友達ふたりと来ると。わざわざ調べて、偶然を装って出向いてきたのだ。
けれど、祭りのにぎやかさと、人の多さのなかで、声をかけるタイミングが掴めない。
やっとのことで、射的の屋台の前で彼を見つけた。
「村田先輩!」
声をかけると、先輩は明らかに驚いたように目を見開き、そして、ほんの一瞬、周囲を気にするように視線を泳がせた。
「あ……あぁ。藤城さん……浴衣、なんか……その、似合ってる、けど」
「ありがとうございます」
笑って答えたその声も、どこか少し力が入っていた。
だけど——そのあと。
「……ここ、友達と来てて……あんまり、目立つと、なんか言われそうで……」
その言葉は、予想していたけれど、胸にひどく刺さった。
「……そう、ですよね。ごめんなさい」
祐希は精一杯、笑顔を作った。
心のどこかで分かっていたのだ。先輩は、こういう空気が苦手なこと。周りの目を気にすること。まだ、そういう関係ではないこと。
だけど、たった一言の「ありがとう」や「嬉しい」が、聞きたかっただけなのに。
視界が滲みそうになるのを誤魔化すように、彼女はその場を離れた。
洋一は、その背中を見送りながら、胸の奥に小さな痛みを抱えていた。
あんな言い方、なかったよな。
自分が悪い。
それはちゃんと分かっているのに、どうしても、うまく言葉にできなかった。
提灯の明かりが揺れていた。 夏の夜の空は、少しだけ遠く感じた。