第6話 終業式、またね
終業式の朝。体育館には生徒たちのざわつきと、湿気を含んだ夏の空気が満ちていた。
式が終わると、あっという間に人波がばらけていき、それぞれが通知表や宿題の話をしながら教室へ戻っていった。
村田洋一は、その流れとは少し違う方向へ歩いた。 向かったのは、旧校舎と新校舎をつなぐ渡り廊下。昼前の光が白く差し込む静かな場所だ。
その先に、藤城祐希がいた。
「あ……来てくれたんですね」
柔らかく笑って、少しだけ安心したように彼女が言う。
「うん。……昨日、言ってたし」
「ほんとに、来てくれるとは思ってなかったです」
その言葉に、洋一は視線をそらした。照れているのがわかって、自分で少し恥ずかしくなる。
「……昨日の、ありがとな。キーホルダー。……あれ、ちゃんとカバンにつけた」
そう言って、肩にかけたバッグの端を指差す。 小さなキャラクターのキーホルダーが揺れていた。
「……うれしいです。似合ってます」
祐希は、笑って言った。
数秒だけ、ふたりの間に風が吹き抜けた。
「夏休み……予定とか、ありますか?」
ふいにそう訊かれて、洋一は少しだけ戸惑った。
「バドミントンの合宿、あるけど……それ以外は、特に。遊ぶっていうより、練習ばっかかな」
「じゃあ……またどこかで、会えたらうれしいです」
その言い方は、軽いようでいて、どこか本気だった。 村田は、うまく返せないまま、小さく頷いた。
「……うん、そうだな」
祐希が笑う。
その笑顔は、昨日とは違って、少しだけ距離が近いように感じた。
夏が始まる。 ただそれだけなのに、どこか胸がざわつくような気がした。