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第2話 追いかける理由

 梅雨入りを目前にしたある日、部活動見学期間が終わり、各部には新入生が本格的に加わっていた。


 バレーボール部の体育館には、活気ある声が響く。


「藤城ー!ナイスレシーブ!」


「ありがとうございまーすっ!」


 藤城祐希は、笑顔で返事をしながらも、心のどこかで違和感を覚えていた。小学生の頃から打ち込んできたこのスポーツ。全国まで行った経験もある。けれど、好きとはもう言えない気がしていた。


 ──でも、やっぱり楽しい時もあるし。


 そう自分に言い聞かせながらも、思い浮かぶのはあの人の後ろ姿。


 村田先輩。


 あの春の日から、毎日がほんの少しだけ色を変えた。朝の登校、すれ違う廊下、ふとした体育館の隅……。


 気づかれないように目で追っては、いつも仮面の笑顔で誤魔化す。


 先輩と同じ体育館にいられるバドミントン部を選ぶこともできたのに、祐希はそうしなかった。


 ──だって、隣に立つ理由がほしいから。


 追いかけてばかりじゃなく、いつかちゃんと並びたい。


 そのためには、自分の場所でちゃんと輝いていたかった。


 放課後、校門で偶然にも先輩を見つけた。


 男友達とふざけあって笑っている。


 少し離れてその様子を見ていた祐希の胸に、小さな棘が刺さる。


「……かっこよすぎるんだよ、もう」


 聞こえないように呟いた声。


 そのまま踵を返し、歩き出そうとした時だった。


「おーい、神田さーん!」


 呼び止める声に振り返ると、同じクラスの男子──橋本くんが手を振っていた。


「これ、プリント渡すの忘れてたって、先生が」


「あ、ありがとう」


 受け取った紙を見ながら、もう一度校門の方を見る。


 ──いない。


 すでに先輩の姿は消えていた。


 ほんの少しだけ、胸がぎゅっとなる。


 けれど、それでも前を向いて歩く。


 まだ始まったばかり。


 ちゃんと、自分の足で追いつくんだ。



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