第6話: 「村の平和と新たな不安」
魔物退治が終わり、村にようやく静けさが戻った。俺たちは村人たちに見送られながら、王都への帰路につく準備を進めていた。
「勇者様、本当にありがとうございました!」
「これで安心して暮らせます!」
村人たちの感謝の言葉に囲まれる中、俺は内心、複雑な気持ちを抱いていた。
(……助けるのが嫌いなわけじゃない。でも、俺はこんなことのために異世界に来たわけじゃないんだよな)
何度も同じような依頼を押し付けられていたら、いつか逃げ出すタイミングを失うかもしれない。早く資金と状況を整えて、逃げる準備を本格化させる必要がある。
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王都への帰り道、エリスが隣にやってきた。彼女の顔は穏やかだが、その瞳には何か探るような光が宿っている。
「勇者様、少しよろしいですか?」
「なんだ?」
エリスは馬を歩かせながら、静かに切り出した。
「今回の魔物退治、とても見事でした。でも、勇者様の戦い方を見ていて、どうしても気になることがあるのです」
「気になること?」
「ええ。あれほどの技術と力を持っているのに、なぜ普段はそれを隠しているのですか?」
その言葉に、俺は一瞬答えに詰まる。
(やばい、この子鋭すぎるだろ……)
適当に取り繕うしかない。
「いや、俺みたいな素人が、できる範囲でなんとかしてるだけさ。訓練で身につけた程度のもんだよ」
そう言うと、エリスは納得したのか微笑んだ。
「そうですか。ですが、無理はしないでくださいね。あなたはこの国にとって、とても重要な存在なのですから」
彼女の言葉にはプレッシャーを感じたが、どうにか笑顔を返す。
「ありがとな、気をつけるよ」
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王都に戻った俺たちは、早速国王に報告を行った。
「勇者よ、よくやってくれた。そなたの活躍に、村人たちも感謝していることだろう」
国王は満足げに言い、報酬としてさらに金貨を数枚手渡してきた。この金貨は、俺の逃亡資金の重要な一部となる。
「ありがたく頂きます」
そう答えると、国王は微笑みながら続けた。
「次の任務も期待しているぞ、勇者よ」
その言葉に、俺は心の中で舌打ちした。
(次、次って、どれだけ働かせるつもりだよ……!)
だが、口には出せない。この場では耐えるしかない。
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その日の夜、俺は王宮の一室で作戦を練っていた。
(とりあえず、逃げるには金がもう少し必要だ。それと、地図や安全に移動できる手段も確保しないと……)
考え込んでいると、部屋の扉が軽くノックされた。
「誰だ?」
「私です、エリスです」
エリスがそっと部屋に入ってきた。その顔にはいつもの穏やかさはなく、どこか真剣な表情をしている。
「どうしたんだ? こんな時間に」
「勇者様、実は……お伝えしなければならないことがあります」
彼女の声には緊張が滲んでいた。
「なにかあったのか?」
「はい。村を襲っていた魔物ですが、あれは単なる群れではなく、何者かが操っていた可能性があります」
「……操っていた?」
予想外の言葉に、俺は眉をひそめる。
「どうしてそう思うんだ?」
「調査の際、森の奥に奇妙な魔法陣の跡を見つけました。あの魔物たちは、自然発生ではなく、何者かが意図的に送り込んだものかもしれません」
エリスの言葉を聞きながら、俺はますます面倒な事態に巻き込まれた気分になった。
(最悪だ……これじゃ逃げるどころか、もっと厄介な任務に巻き込まれるかもしれないじゃないか)
だが、この場で何かを言っても無駄だ。俺はとりあえず話を合わせることにした。
「なるほどな。もしそうなら、早めに原因を突き止めたほうがいいな」
「ええ。そのためにも、勇者様のお力が必要になります」
エリスはまっすぐに俺を見つめてそう言った。その瞳の中には、強い信頼と決意が宿っていた。
「……わかったよ。とりあえず、様子を見よう」
そう答えながら、俺は逃げるタイミングをどこで作るか、改めて頭を悩ませるのだった。




