第45話 封印の間の襲撃と囁かれる真実
王城の廊下を歩きながら、俺は深く息を吐いた。選択、決断、責任。そんな言葉が頭の中でぐるぐると回る。封印の間での出来事が王に報告された今、俺は次に何をすべきなのかを考えなければならなかった。
「勇者様、少しお疲れのようですね」
エリスが俺の横で心配そうに言う。
「まぁな……なんか色々考えてたら、頭が重くなってきた」
「無理をなさらないでください。勇者様は一人ではありませんから」
「ああ、わかってる」
そう言いながらも、俺の中のもやもやは消えなかった。俺がこの国をどうするのか、封印をどうするのか、それを決めるのは俺自身。エリスや王様が助言をくれるとはいえ、最終的には俺の決断次第だ。
「なぁ、エリス」
「はい?」
「もし、封印が本当に意味をなさなくなったら……どうすればいいと思う?」
「……それは……」
エリスは少し言葉に詰まり、考え込んだ後、静かに口を開いた。
「私個人の意見としては、できる限り封印を守り続けるべきだと思います。封印が破れた時、何が起こるのか予測できませんし、国を守るためにも安易に封印を解くのは危険です」
「そうだよな……」
「ですが、もし封印を解かざるを得ない状況になった場合は、勇者様が最善の方法を選ばれると信じています」
「……俺にそんな大層な判断ができるかはわからねぇけどな」
「勇者様は、どんな状況でも最善を尽くそうとする方です。だから、きっと大丈夫です」
エリスの真っ直ぐな言葉に、少しだけ気持ちが楽になった。
その時だった。
「勇者様、大変です!」
城の廊下を駆けてきたのは、一人の兵士だった。息を切らしながら、俺たちの前で膝をつく。
「どうした?」
「封印の間の監視をしていた兵士たちが襲撃されました!」
「……何だと?」
「敵の数は少数ですが、戦闘の痕跡があり、兵士たちは気を失っていました。封印自体には異常はありませんが……何者かが侵入した可能性があります!」
俺はエリスと顔を見合わせた。
「すぐに向かう!」
「はい!」
俺たちは急いで封印の間へ向かった。
廊下を駆け抜け、地下へと続く石造りの階段を降りる。封印の間の入り口には数人の兵士が待機していたが、確かに様子がおかしい。
「勇者様! こちらです!」
兵士の一人が扉を開くと、封印の間はひんやりとした空気に包まれていた。石造りの部屋の中央には、問題の赤黒い宝玉が浮かんでいる。封印自体に大きな変化はなさそうだったが、何か違和感を感じる。
「侵入者は?」
「すでに姿を消しており、現時点では発見できておりません」
「痕跡は?」
「こちらへ」
兵士が指し示したのは、床に刻まれた奇妙な模様だった。赤いチョークのようなもので描かれており、何かの儀式に使われたようにも見える。
「……この紋様、何か心当たりはあるか?」
エリスがそれを見つめ、顔を曇らせる。
「これは……古代魔法の一種かもしれません。私の知識では詳細まではわかりませんが……」
「魔導士たちに解析を頼めそうか?」
「はい、すぐに手配します」
俺は再び宝玉を見上げた。
「……もしかすると、封印が少しずつ侵食されているのかもしれないな」
「え?」
「わからないが……こうして襲撃を仕掛けてきたってことは、何かを試そうとしているはずだ」
「それは……」
その時、背後でガタリと音がした。
俺は反射的に剣を抜き、振り向く。
「誰だ!」
闇の中から現れたのは、黒装束に身を包んだ男だった。
「フフ……さすが勇者様だな」
「貴様、何者だ」
「名乗るほどの者ではない。ただ、お前に伝えたいことがあってな」
「……伝えたいこと?」
「お前が今守っているその封印……果たして本当に正しいものなのか?」
「……何が言いたい?」
「封印の奥に眠るもの、それが何か知っているのか?」
「……」
俺は答えられなかった。実際、封印の向こう側に何があるのか、俺はまだ知らない。
「知らない、か……。ならば、いずれ知ることになるだろう。その時、お前は何を選ぶのか……楽しみだ」
「待て!」
俺が剣を構えると、男は煙のように掻き消えた。
「……今の、なんだったんだ」
エリスも困惑した表情を浮かべていた。
「勇者様……封印の奥にあるもの、やはり調べるべきでは?」
「……そうだな。何も知らずにこのままでは、選択なんてできねぇ」
俺は赤黒い宝玉をじっと見つめた。
「……王に報告した後、封印について詳しく調べる」
「はい」
この封印の奥には、一体何が眠っているのか。そして、それを知った時、俺はどんな選択をするのか――。
俺は深く息をつき、剣を鞘に納めた。




