第42話:「赤の月の影」
王城の廊下を歩く俺とエリスは、先ほどの戦いの余韻を引きずっていた。黒装束の刺客たちは倒したものの、俺の中には不安と疑問が渦巻いている。
「勇者様、考え込んでいるようですね」
エリスが静かに問いかける。
「……あいつらが言ったことが気にかかるんだ」
俺は思い出す。最後に倒した黒装束の男が、息も絶え絶えに呟いた言葉。
『赤の月が昇る時、王国は裁かれる……封印の鍵は、勇者の選択次第……』
「赤の月が昇ると何が起きるのか……封印の鍵とは何なのか……」
俺は自分の胸を押さえながら呟く。
エリスは小さく頷くと、俺の目を真っ直ぐ見つめた。
「勇者様……おそらく、それがあなたに与えられた運命の試練なのでしょう」
「運命……か」
俺は苦笑する。
「こんな重いもん、背負うつもりなんてなかったんだけどな」
「それでも、あなたはここにいる。戦い、答えを見つけようとしている。だから、私はあなたを信じるんです」
エリスの言葉には迷いがなかった。
俺は深いため息をつきながら、王城の一室へと向かった。そこには、王と側近たちが待っている。
王は静かに口を開く。
「勇者よ……お前の戦いぶり、そして先ほどの襲撃の件、全て報告を受けている。よくぞ王城を守ってくれた」
「別に、王国を守るために戦ったわけじゃねぇ。ただ、自分の身を守るために戦っただけだ」
俺は正直に答えた。
「それでも、この国にとってお前の存在は重要だ。今こそ、我々も真実を知る時なのかもしれぬ」
王は側近に目配せし、一冊の古びた書物を差し出した。
「これは……?」
俺は受け取った本を開く。そこには、見覚えのある言葉が並んでいた。
『赤の月が昇る夜、封印の鍵が試される。選択せよ、開くか、閉ざすか……』
俺はエリスの顔を見る。彼女も驚きを隠せない。
「これ、記録庫で見た文書とほとんど同じじゃねぇか」
「そうです……でも、この本には、もっと詳しいことが書かれているようですね」
ページをめくると、さらに恐ろしい事実が記されていた。
『封印を解けば、封じられし魔神は目覚める。封印を守れば、王国は安寧を得る。しかし、鍵となる者が誤った選択をすれば、世界は混沌へと堕ちる』
「……つまり、俺が間違えた選択をしたら、この国どころか世界がやべぇってことか」
俺はぞっとしながら呟いた。
王は静かに頷く。
「そして、その封印が眠る場所こそ……この王城の地下深くに存在するのだ」
「なんだって……?」
「すべての答えは、そこにある」
俺は思わず息を飲んだ。まさか、王城の地下にそんな秘密が眠っているとは。
「今すぐ、そこに行かせてもらう」
俺は強く言い放った。
王は少し考えた後、ゆっくりと頷いた。「よかろう。案内をつけよう」
こうして俺とエリス、そして数名の騎士たちは、王城の地下へと向かうことになった。
◆ ◆ ◆
地下へ続く階段は、石造りの古びたもので、長い年月を感じさせる。
「まるでダンジョンだな……」
俺は呟く。
「おそらく、かつての王がこの場所を封印の間として造らせたのでしょう」
エリスは慎重に足を進めながら答えた。
やがて、一行は巨大な扉の前にたどり着いた。扉には複雑な紋様が刻まれ、中央には奇妙な鍵穴があった。
「これが……封印の間?」
俺は思わずゴクリと唾を飲み込む。
「はい……この扉の向こうに、真実があるはずです」
扉には何かが封じられているような、不気味な気配が漂っていた。
「勇者様……あなたが選択する時が来たのかもしれません」
エリスは真剣な眼差しで俺を見つめる。
俺は剣を握りしめ、扉の前に立った。
「俺が……この運命を決めるのか」
選択肢は二つ。
扉を開け、封印を解くか。
それとも、このまま封じ続けるか。
俺は深く息を吸い、目を閉じた。
「俺は……」
決断の時が迫っていた。




