第32話: 「神殿の外で待つ影」
緋色の神殿での戦いを終え、俺たちは外へと続く道を慎重に進んでいた。魔法陣を破壊し、黒装束の連中の計画を一つ阻止したとはいえ、これで奴らが大人しくなるとは思えない。
「勇者様、先ほどの封印の力……異様なほど強かったですね」
エリスが静かに口を開く。
「ああ、あれが本当に封印の力の一部だとしたら、全部解放されたらとんでもないことになるな」
俺は剣を肩に担ぎながら答えた。
「お前はどう思う? 奴ら、封印を解いたら何をするつもりだと思う?」
エリスは少し考え込んだあと、険しい表情で言った。「封印を解くことで、この世界そのものの仕組みを変えようとしているのかもしれません。異世界の法則を持ち込むなどして……」
「異世界の法則ね……それって俺が召喚されたことと関係があるのか?」
「その可能性は否定できません。勇者様がこの世界に召喚された理由がまだ解明されていない以上、何らかの繋がりがあると考えるべきでしょう」
「……だとしたら、ますます嫌な話だな。俺は帰りたいだけなのに、そんなデカい話に巻き込まれるなんてよ」俺はため息をつきながら道を見下ろした。
「それでも、勇者様がいてくださるおかげで、私たちは戦い続けることができます。この世界を守るためには、どうしても勇者様の力が必要です」
「お前ら、よくもまぁ俺みたいな適当な奴を頼りにできるよな……」
エリスは少し微笑みながら答えた。
「適当ではありません。勇者様はいつも最善を尽くしてくれています。それだけで十分です」
「おいおい、それって褒めてるのか?」
俺は冗談めかして言ったが、エリスは真剣な顔のままだった。
神殿を抜け、外の渓谷に出ると、夕日が岩肌を赤く染めていた。俺たちはしばらく歩いていたが、周囲の静けさが逆に不安を煽る。
「何かおかしいな……静かすぎる」
俺が剣を握りながら辺りを見回すと、エリスも眉をひそめた。
「確かに。何かが潜んでいるのかもしれません。注意してください」
その言葉が終わるか否か、岩陰から数人の黒装束の者たちが現れた。
「待ち伏せかよ……」
俺は剣を構え、奴らを睨んだ。
「また出てきたな。今度は何を狙ってる?」
一人の男が冷ややかな声で答える。
「あなた方が封印を守ろうとする以上、我々が止めに来るのは当然でしょう。勇者様、あなたにはいずれ我々の側に立っていただく必要があるのです」
「はぁ? 俺がそっち側に立つわけねぇだろ!」
「ふふ、そう言い続けるのは今だけです。あなたが鍵である以上、いずれ選択を迫られる時が来るでしょう」
「お前ら、本当にしつこいな! 選択なんかする気はねぇんだよ!」
俺が怒鳴ると、男は手を上げ、周囲に魔法陣を展開した。すると、霧の中から複数の魔物が現れた。
「またかよ……いい加減にしろ!」
俺は剣を抜き、魔物に向かって突っ込んだ。
「お前らはエリスと騎士たちが抑えろ! 俺は先に魔法陣を潰す!」
「了解しました!」
エリスが光の魔法を放ち、騎士たちが盾を構えて魔物を引きつける。
俺は魔法陣に向かって突進し、剣聖の力を解放した。「これで終わりだ!」剣を振り下ろし、魔法陣を破壊する。その瞬間、魔物が霧となって消えた。
「ふぅ……また手間をかけさせやがって」
俺は剣を鞘に戻しながら息をついた。
「勇者様、お疲れ様です! 無事に魔物を撃退できました」
エリスが駆け寄ってきた。
「ああ、でも、奴らの話が気になるな。『選択』ってなんだよ……」
俺は渋い顔をしながらエリスを見た。
「きっと、封印に関わる何か重要な決断を迫られるのでしょう。ですが、それが何なのかはまだわかりません……」
「まぁ、考えても仕方ねぇか。とりあえず、帰るぞ」
俺たちは王都への帰路を進みながら、次の戦いに備える準備を心の中で決めていた。(第33話につづく)




