第31話: 「緋色の渓谷の神殿」
渓谷を進むにつれ、周囲の空気が次第に重くなっていく。岩壁から染み出す赤い光が、不気味に道を照らしていた。
「……この光、気味悪いな。まるで何かを誘ってるみたいだ」俺は剣の柄を握りしめながら呟いた。
「この渓谷には魔力が満ちているせいで、自然現象も異様に見えるのでしょう。それに、この先にある神殿が原因である可能性も高いです」
エリスが真剣な表情で答える。
「神殿か……黒装束の連中がすでに中に入ってるとしたら、また厄介なことになりそうだな」
「ええ。ですが、私たちが急げば、彼らの計画を阻止できるはずです。慎重に進みましょう」
騎士たちも周囲を警戒しながら進む中、不意に岩陰から低いうなり声が聞こえた。
「待て……何かいる」
俺が手を挙げて皆を制すると、霧のような魔物が岩の隙間から現れた。
「また霧の魔物かよ! あいつら、本当にこれしか出してこねぇのか?」
俺は剣を抜き、魔物を睨みつける。
「勇者様、これまでと同じく、魔法で霧を浄化できます! 援護します!」
エリスが素早く魔法を詠唱し始めた。
「わかった! お前ら、エリスが魔法を放つまで守りを固めろ!」
俺は騎士たちに指示を出しながら、迫り来る魔物を迎え撃った。
エリスが光の魔法を放つと、霧の魔物は一瞬で消え去り、渓谷に静寂が戻った。
「ふぅ……毎回このパターンは疲れるな」
俺は剣をしまいながらため息をついた。
「無事に進めただけでも良かったです。魔物を早めに排除できたのは大きいですね」
エリスが微笑みながら答える。
「ま、そうだな。じゃあ次は神殿か? さっさと行こうぜ」
やがて渓谷の奥に、目的地の神殿が見えてきた。それは赤黒い石で作られた巨大な建物で、入口には古代文字が刻まれている。
「ここが……緋色の神殿か」
俺はその異様な威圧感に思わず息を呑んだ。
「どう見てもただの遺跡じゃないな」
「おそらく、この神殿自体が封印の一部になっているのでしょう。黒装束の者たちが狙う理由も頷けます」エリスが入口を慎重に調べながら言った。
「それで、開けられるのか?」
「はい。ただ、魔法陣が動いているので、解除に少し時間がかかります」
「わかった。その間、俺たちで周りを警戒しておく。お前は任せたぞ」
俺が剣を握りしめて周囲を見渡すと、騎士たちもそれぞれ配置についていた。
エリスが魔法陣を解除し終えると、重々しい音を立てて神殿の扉が開いた。その中からは冷たい風が吹き出し、古びた空気が流れてきた。
「さぁ、行きましょう。おそらく、黒装束の者たちがすでに中に入っています」
エリスが緊張した面持ちで言った。
「了解だ。気を引き締めて進むぞ」
神殿の中は薄暗く、壁には古代文字が浮かび上がっていた。どこかで聞いたことのあるような呪文のようにも思えるが、俺には意味がわからない。
「これ……何て書いてあるんだ?」
「おそらく、封印に関する警告だと思います。『力を解き放つ者、滅びを招く』といった内容でしょう」
エリスが文字を読みながら答える。
「滅びを招く、ね……奴ら、そんなものを解き放とうとしてるのかよ」
俺は剣を握り直しながら歩を進めた。
しばらく進むと、大きな広間に出た。その中央には巨大な魔法陣が描かれ、その上に黒装束の男が立っていた。
「やっぱりいたな……!」
俺は剣を構え、男を睨みつけた。
「お前ら、何をしてやがる!」
男は振り返り、不敵な笑みを浮かべた。
「あなたの登場を待っていました、勇者様。この場所で封印された力を解放するために、あなたの力が必要なのです」
「またその話かよ! いい加減にしろ!」
俺が男に突っ込もうとしたその瞬間、魔法陣が光を放ち、周囲に巨大な魔物が召喚された。それは全身が炎に包まれた獣のような姿をしていた。
「こいつは……!」
俺は驚きながら剣を握りしめた。
「勇者様、あれは封印の力の一部が形を成したものです! 非常に危険です!」
エリスが焦った声で叫ぶ。
「わかった! だが、こいつを倒さなきゃ進めねぇだろ!」
俺は剣聖の力を解放し、光をまとった剣で魔物に立ち向かった。
魔物との激しい戦闘が続く中、エリスが叫んだ。
「勇者様! 魔物は魔法陣から力を得ています! 魔法陣を破壊すれば弱体化するはずです!」
「またそれかよ! じゃあ、こいつを引きつけてくれ! 俺が魔法陣を壊す!」
「わかりました! 任せてください!」
エリスが光の魔法を放ち、魔物の注意を引きつける中、俺は魔法陣に向かって突進した。
剣を振り下ろして魔法陣を叩き壊すと、魔物の動きが鈍くなり、やがて消滅していった。
「……終わったか?」
俺は剣を収めながら息を整えた。
「はい、魔法陣は完全に破壊されました。でも、黒装束の者たちはまだ完全に止められていません……」
エリスが不安そうに呟いた。
「わかってるよ。でも、これで少しは奴らの動きを遅らせられたはずだ」
俺たちは次の行動を考えるため、神殿を後にする準備を始めた。




