第30話: 「次なる指令」
朝日が差し込む王城の一室、昨夜の休息で体の疲れが少し取れた俺は、窓辺でぼんやりと外を眺めていた。街の喧騒が微かに聞こえ、王都がいつも通りの一日を迎えているのがわかる。
「勇者様、おはようございます」
エリスが部屋に入ってきた。彼女はすでに準備を整えた様子で、朝から張り詰めた表情をしている。
「おう、おはよう。もう準備万端かよ?」
「もちろんです。ですが、勇者様は少し休み足りないのではないですか?」
「大丈夫だ。これ以上寝てると逆にだるくなりそうだしな」
俺は軽く伸びをして立ち上がった。
「で、今日はどうするんだ? また黒装束の奴らを追うのか?」
「はい。実は、昨夜遅くに新しい情報が入りました」エリスが真剣な顔で話し始める。
「南東の山岳地帯にある『緋色の渓谷』で、不穏な魔力の発生が確認されています」
「緋色の渓谷……また厄介な場所っぽいな」
俺は額に手を当ててため息をついた。
「で、そこにも黒装束の連中が絡んでるのか?」
「はい。調査隊の報告によれば、黒装束の者たちがその周辺で活動しているとのことです。そして、渓谷には古い神殿の遺跡があるそうです。封印に関わるものが眠っている可能性が高い場所です」
「神殿か……また面倒な封印を守らなきゃならねぇのかよ」
俺は剣を背中に装着しながらぼやいた。
「で、出発はいつだ?」
「すぐにでも出発できます。陛下からの正式な許可も下りていますので、準備が整い次第出発しましょう」
「わかったよ。まぁ、行くしかねぇんだろうな」俺は肩をすくめながら部屋を出た。
城門前では、すでに数人の騎士たちが待機していた。その中には見慣れた顔もいれば、初めて見る新顔もいた。
「勇者様、お待ちしておりました!」
隊長格の騎士が俺に挨拶をする。
「私たちが今回の同行部隊です。精鋭を揃えましたのでご安心ください」
「精鋭ねぇ……無事で帰れるように頼むぜ」
俺は軽く手を挙げて答えた。
エリスが騎士たちに指示を出しつつ、俺の隣にやってきた。
「勇者様、出発の準備は整いました。今回は渓谷まで馬で向かいます。距離は少しありますが、途中で補給地点も用意していますので、急ぎましょう」
「了解だ。じゃあ、行くか」
俺たちは馬に乗り込み、緋色の渓谷へと向かった。
道中、俺たちは険しい山道を進んでいた。岩場が多く、足元には注意が必要だ。馬を慎重に進めながら、エリスが口を開いた。
「勇者様、どうしてこうも黒装束の者たちは封印を狙い続けるのでしょうか?」
「俺が知りたいくらいだよ。でも、あいつらの言い方だと、封印を解けばこの世界がどうにかなるとか言ってたよな」
「ええ。それに、勇者様が鍵であると言い続けているのも気になります」
「鍵だのなんだの……俺が召喚された理由がそこにあるのかもしれねぇけど、そもそも勝手に呼ばれた俺からすりゃ迷惑な話だよな」
エリスは苦笑しながら頷いた。
「確かにそうですね。でも、勇者様がいなければ、この世界はすでに危機に陥っていたかもしれません」
「そりゃそうかもしれないけど……なんか釈然としねぇな」
俺はため息をつきながら空を見上げた。
やがて、渓谷の入り口にたどり着いた。眼前には深紅に染まった岩肌が広がり、異様な雰囲気が漂っている。
「ここが緋色の渓谷か……確かに不気味な場所だな」
「勇者様、慎重に進みましょう。何が待っているかわかりませんから」
エリスが鋭い目で周囲を見渡しながら言う。
「お前が言わなくてもわかってるさ」
俺は剣に手をかけながら歩き出した。
少し進むと、遠くから低い音が響いてきた。
「……何の音だ?」
俺が警戒して足を止めると、エリスが耳を澄ませた。「何か大きなものが動いているようです。注意してください!」
その瞬間、岩陰から巨大な魔物が姿を現した。それは岩でできたゴーレムのような姿をしており、目は赤く光っている。
「来たか……!」
俺は剣を抜き、騎士たちが盾を構えるのを見て叫んだ。
「お前ら、散開してこいつを囲め! 俺が注意を引く!」
「了解しました!」
騎士たちは素早く動き、エリスが後方から魔法を準備する。
「勇者様、弱点を探してください! ゴーレムは硬いですが、必ずどこかに隙があります!」
「わかってる!」俺はゴーレムの動きを見ながら剣を振るい、一撃を加えたが、硬い岩に弾かれてしまう。「ちっ、効かねぇ……!」
「目を狙ってください! 光る部分が魔力の核かもしれません!」
エリスの助言に従い、俺はゴーレムの赤い目を狙って飛び込んだ。
「これでどうだ……!」
俺の剣が赤い光を貫いた瞬間、ゴーレムが大きな音を立てて崩れ落ちた。
「やったか?」
「はい、ゴーレムは停止しました! でも、まだ油断しないでください!」
エリスが周囲を警戒しながら答える。
俺たちはさらに渓谷の奥へと進む準備を整えた。目指すは神殿――そこに黒装束の連中がいるのは間違いない。
「さっさと終わらせて帰るぞ。今度こそ、奴らを止める!」
「はい、全力で支えます!」
エリスが力強く答えた。俺たちは渓谷の奥深くへと向かい、次の戦いに挑む準備を整えた。




