第11話「試される覚悟」
黒装束の男が姿を消し、俺たちは廃村に取り残された。魔物の消滅、謎めいた魔法陣、そして異世界の力に執着する黒装束の連中――状況はどんどん悪化している。
「勇者様、ここは一旦戻りましょう。このままでは危険すぎます」
エリスの提案に、俺は黙って頷いた。王都に戻れば、国王や魔法師たちと協力してさらに調査を進めることになるだろう。だが、その前に自分自身と向き合わなければならない。
(俺はこの状況をどうするべきなんだ? 本当に逃げられるのか?)
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王都への帰路、俺たちは暗い森を抜けて街道に入った。道中、エリスや騎士たちは魔法陣のことや黒装束の男について話し合っていたが、俺はその会話にほとんど耳を傾けていなかった。頭の中では、自分の力とこの世界の現実について葛藤していた。
「勇者様、大丈夫ですか?」
エリスが心配そうに声をかけてきた。
「ああ、ちょっと考え事をしていただけだ」
「そうですか……。ですが、あまり無理はなさらないでください。勇者様の力は、この国にとってとても重要ですから」
その言葉に、俺は内心で苦笑した。
(重要? 俺の力なんて使いたくないのが本音だ。それに、俺がこの国のために戦う義務なんてないだろう)
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その夜、野営地での休憩中、俺は一人で焚き火の前に座っていた。周囲は静寂に包まれ、他のメンバーはそれぞれのテントで休んでいる。
「結局、どうするべきなんだろうな……」
焚き火の揺れる炎を見つめながら、つぶやいた。その時、不意に後ろから声がした。
「迷っているのですか?」
振り向くと、エリスが立っていた。彼女は俺の隣に腰を下ろし、焚き火を見つめる。
「あなたは、何かを隠している気がします。無理に言わなくてもいいですが……私は勇者様を信じています」
「信じる?」
「はい。勇者様がこの世界に召喚されたのには、きっと何か意味があるはずです。そして、私はその意味を一緒に見つけたいと思っています」
その言葉に、俺は少しだけ心が揺れた。
(俺が召喚された意味か……。そんなの、ただの偶然だと思っていたけど、もしかして本当に何か理由があるのか?)
「ありがとう。お前がそう言ってくれると、少しだけ気が楽になるよ」
エリスは静かに微笑み、それ以上は何も言わなかった。
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翌朝、王都が見えてきた頃、エリスが騎士たちに声をかけた。
「皆さん、ここで一度作戦会議を開きます。今後の行動を確認しましょう」
俺たちは王都の手前にある小高い丘で馬を止め、簡単な会議を始めた。エリスは地図を広げながら説明する。
「まず、魔法陣について王都で詳しい調査を行います。それと同時に、黒装束の男たちの情報を集めましょう。彼らがどの国や組織とつながっているのかを突き止める必要があります」
「了解しました!」
騎士たちが力強く返事をする中、俺は少し離れた場所で彼女たちの様子を眺めていた。
(みんな真剣だな。俺だけがこの世界に対して消極的で、逃げることばかり考えている。でも、これで本当にいいのか?)
その時、ふと遠くの空に黒い影が現れた。
「なんだ……あれは?」
黒い影は次第に近づき、大きな翼を広げたドラゴンの姿がはっきりと見えてきた。
「ドラゴン!? なぜこんなところに……!」
騎士たちが慌てて武器を構える。ドラゴンはまっすぐこちらに向かってくる。
「みんな、警戒しろ!」
俺も剣を構えたが、内心は冷や汗をかいていた。
(ドラゴン相手に戦うのかよ……。こんなの、逃げるしかないだろ!)
しかし、ドラゴンは俺たちの目前で急に動きを止め、大きな声で吠えた。そして、その背中から黒装束の男が姿を現した。
「またお前か……!」
男は冷ややかな笑みを浮かべながら言った。
「お待ちしておりました、勇者様。あなたが次に試される場を用意しました。どうぞ、力を存分に振るってください」
そう言うと、ドラゴンが地面に降り立ち、俺たちを見下ろした。その目には、異様な光が宿っている。
(くそっ、こんなの勝てるのかよ……。でも、ここで逃げたら、本当に全てを失う気がする)
俺は剣を強く握りしめ、覚悟を決めた。




