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C県U市T湾沿いの国道に特害隊2課の対高次元害獣多目的戦闘機、ジェットパンサー3号機が到着していた。


操縦席には火畑乙女(ひばたおとめ)三位隊員、後部複座に坂下博(さかしたひろし)四位隊員が搭乗していた。


「アレねぇ」


「火畑さん、隔壁を早く上げ過ぎたせいで先であちこち逆流しだしてて、この先の封鎖、手間取ってます。国道で追い込んでも藪蛇(やぶへび)ですよ?」


「ん~、学生でしょ? ドローン壊しちゃってるから、洗脳されてたってことにしよっか?」


「またそんな適当な・・警察相手だとややこしいですよ?」


「公僕が、調子に乗るからだよっ」


火畑はジェットパンサー3号機を傾け、高度を1機に下げた。


「おっほっ? 我々も公僕ですからねーっ!」


3号機はバーニアの出力を絞り、合わせてエアブレーキとスラスターも使い減速し、国道を爆走する藤子と颯太の原付とバイクに海側の宙から並んだ。

2人とも、特に颯太は仰天している。


「依然、原付のリアボックスです。攻撃思考の検知無し。現時点では安定的な幼体です。まぁ概念型の場合、攻撃の意思が無くても我々人類にとっては致命的だったりはしますが・・」


「あたしも博君も今日は素寒貧(すかんぴん)で来たし、イケるっしょっ!」


火畑は機体のスピーカーを入れた。


「はいそこのっ、青春暴走族の2人! その辺にしときなさーいっ!! 今ならお姉さんがお尻ペンペンするだけで許して上げるよぉ??」


「火畑さんっ、2つくらいハラスメント踏んでますしっ、明らかな嘘はやめて下さい! きっちりウチで預かった後、警察ですからっ」


藤子はキッとジェットパンサー3号機を睨むと、防風林を抜ける道幅の狭い横道へと急右折していった。

颯太はバイクで通り過ぎてしまい慌てて追う。

当然ジェットパンサーもあっという間に先へと飛び進んでしまったが、


「小回りっ」


「火畑さん?」


火畑は若干高度を上げつつさらに機体を減速させた上で可変(かへん)レバーを引き、ジェットパンサーを慣性がついたまま落下させながら概ね4頭身の人型格闘モードに変形させた。

コクピットの位置とも激変する。


「うわあっ?! 飛行しながら変形しないで下さいっ、頭オカシイんですかっ!」


「設計が追い付かなくても、コレはこういうモンでしょっ?」


スラスターとフットバーニアと背部の重力場展開器だけで、陸側の上空に変形したジェットパンサーを移動させる火畑。


「側に防風林っ、高度は保って下さい、火災になりますよ!」


「わかってるってっ、いたいた。生体反応は捕捉済みっ。博君は菱沼(ひしぬま)さん達のナビよろしく!」


「やってますよっっ」


「怖っ。さぁ~て、どうしてくれようか? ふっふっふっ」


藤子達は防風林を抜け、食品工場の多いエリアに向かいつつあった。


それを、ジェットパンサーの死角になら近く建物の物陰からも見ている者達がいた。


体調1メートル50センチメートル程度、タイツとウェットスーツの中間のような黒井衣服を纏い、歪なブーツと4本指の手にグローブを嵌め、左腕には抽象的な腕輪型の機器を身に付け、それによって何らかの力場を発生させ、ジェットパンサーの探知を避けていた。

頭部は金属質のチューリップのようであり、地球の人類からすると奇妙な形状の目が3つと鼻らしき穴があった。

口、及び耳にあたる形状は見当たらない。


狭い物陰にはその者達が十数体潜んでいた。先頭の数体を除いて狭い物陰に、先頭の個体に近付いた形で収まる為に奇妙に折り重なってその場にいる。

必死で逃げてゆく藤子とそれに続く颯太を密かに見送るその者達。


「・・間違いない。この反応、先程の力の顕現。あれは、価値を書き換え増殖させ、その事実を喰らう摂理顕現体(せつりけんげんたい)


「我々が探し求めていた摂理顕現体だ」


テレパシーで会話するその者達。


「ここは狭い、出たい」


「地球の原チャーによって移送されている」


「ポンダの原チャー」


「特害のジェットパンサーがいる。火畑乙女が搭乗している。アイツは面倒だ」


3号機は一定の高度を保ちつつ、フットバーニアの出力を下げ、代わりに重力場の出力を上げ、ゆるゆると藤子達と間合いを計っていた。


「車両を停めなさーいっ。トラクタービーム使っちゃうぞぉ?」


警告しつつ、進行方向を誘導している気配もあった。


「1課は西日本。2号機と1号機は出払っている。ロウガオンだけで陽動は可能」


「ロウガオンはヨムタ星人に売約済みだ」


「ヨムタ星の内戦等どうでもよい。こんな原始的な辺境の、摂理顕現体の漂着地で星間協定(せいかんきょうてい)の隙間を狙っての底辺密猟生活。うんざりだ。あの顕現体さえ手に入れば、我らポポルワッカ星は星間連盟上位国への復権も夢ではない」


「大事の前の小事か。納得した」


「異議無し」


「異議無し」


「ロウガオンをT湾に放て。我々は原チャーを追う」


ポポルワッカ星人達は決定してしまえば行動は早かった。


比較的近い、反発障壁の外側の海上上空に円形の転送ゲートを発生させると、蝦蛄とイカの中間のような超巨大高次元害獣、ロウガオンを呼び寄せ、着水させた。


轟音と共に津波も発生したが、反発障壁に激突し、激しく蒸発し、爆発的に海霧を発生させて、その向こうにシルエットのみを映すロウガオン。


「チャアアァーーーッッ!! ンチャアアアァーーーッッッッ!!!!!」


吠えるロウガオン。


火畑達は慌てた。


「ちょっ?! ロウガオン? いきなり過ぎっっ、幼体の親とかじゃないよね??」


「いえ、ロウガオンは概念型じゃないです。ですが、他の高次元害獣を積極的に補食しようとする傾向はあります。増えますからねっ、この害獣!」


「もうっ、菱沼さん! 避難誘導と幼体の方は任せるわっ」


「まっかせろぉーーいっ!! 学生達はふんじばってやるっっ。ガハハハっ」


「大丈夫でしょうか? また訴訟沙汰になっちゃうかも?」


「それより、こっちはこっちの仕事ぉ! 回避サポートよろしくっ」


「了解ですっ!」


ジェットパンサー3号機は高度を上げ、海霧の中のロウガオンへ向けて加速しながら、M78式対高次元存在弾を連射し始めた。



街の人達もだけど私はもう本格的に混乱してた。特害のジェットパンサーが来ちゃうし、ロボットに変形するしっ、超大型高次元害獣出て来ちゃうしっ!


「颯太っ、どーなってんのコレ??」


「俺に聞かれても! というか無理だってっ。藤子、拾ったの高次元害獣だからワケわかんなくなってるけど、ライオンの赤ん坊を拾ってもこんなことしないだろ? 落ち着けよっ」


「ライオンの赤ちゃんだったら、捕まえてから酷いことされないじゃん!」


「だからっ・・だからソレ、ライオンの赤ん坊じゃないんだってぇーーっっ!!!」


「ゴン?」


どうやって中から開けたのかわからないけどっ、リアボックスを少し開けて、ゴンちゃんが顔を出しちゃった!


「ゴンちゃんっ、危ないからっっ」


私が益々大慌てしていると、


「っ?!」


「おおっ??」


海側から生温かくて磯臭い、濃い海霧が押し寄せて周囲を包み込んで視界がほぼゼロになったっ。


「藤子! ライトと減速っ、減速っ! 他の車両もあるからっ」


「わかったっ、ゴンちゃん大人しくしてて!」


「ゴーンっ」


ライトを点けて減速した側から、前の方で車両が激突して音と振動が伝わってきたっ。

海の方でもドンパチやってるしっ、私達は生きた心地が無いまま原付とバイクを歩道側に寄せて、後ろの方でも事故があったっぽい中、柵のある所までなんとか移動して停め、一旦柵の内側に移動した。

私はゴンちゃんを毛布ごと抱えてる。


「海側もヤバいけど、しばらくは車道の側もヤバい。単車は置いて、一旦車道から離れよう」


「この仔」


「わかったから! 連れてっていいからっ、離れようっ!」


「・・うん」


「ゴぉン」


ゴンちゃんは海側の争いを気にしてるみたいだった。

私達は海霧による交通事故に巻き込まれるのと特害機体やドローンなんかを避ける為、近くの路地に入って、3階建てくらいのビルの壁に背中を預けて2人で座り込んだ。


「保護団体とかに預けられないかな?」


「民間は権限無いし、あんまりいい話聞くとこないなぁ」


「う~ん、確かにこの間も黙って保護した害獣をその会で食べてて、特害が施設に踏み込んだら会員全員、高次元害獣混じりになってて酷いことになったって・・」


「キノコの高次害獣を食べようってのが気が知れないな」


「ゴンゴン」


じっとしているのに飽きたゴンちゃんが私の腕から肩、肩から頭の上に移動した。

避難誘導のアナウンスも始まった。パトカーや警察ドローンのサイレンも響きだす。


住宅街や繁華街ってワケじゃないから工場の方に行かないと人が多いワケじゃないけど、路地の霧の向こうの表通りの方を走って逃げてゆくいた人達もいた。


「じゃあ、海外の機関、とか?」


「海外政府系のとこは結局そこの政府に持ってかれるだけだろ? 国連も結局主要国の機関に持ってかれるだけだし・・」


「ん~っっ、じゃあ環境省の保護施設っ!」


「あそこで保護されてんの殆んど動物みたいなのばっかじゃん。コイツ、概念型だし、どうかな??」


「普通の動物の餌代くらい、お金を変えさせてあげるだけでいいじゃん! 害無いよっ」


「いや~、そんな単純なことかなぁ。コイツって本気出したら1つの国の経済パンクさせられるんじゃないか? 今は対策技術が発達したから、江戸時代みたいに害獣混じりの巫女さんに味方の害獣を操ってもらわなくても、大抵の害獣に対抗できるようにらなってる。攻撃するパワーだけで1つの国をどうこうするってもう早々無いと思うんだよ。でも、コイツの力なら」


「コイツコイツ言わないでよっ、ゴンちゃんだから!」


「ゴン?」


「・・OK、ゴンちゃんな。だったら下手に逃げ回るより特害に渡した方がいいよ。言質を取ったら、速攻マスコミとかに環境省に渡すって言ったって言えば研究機関だかで小間切れにはし辛くなるだろ?」


たられば、が多い気がした。記憶操作処置されるかもしれないし。


「そんな上手くいくかな?」


「さっきのジェットパンサー、2課だった。自衛隊系の1課の方が優秀っぽいけど、民間選抜の2課はちょっとは話通じるんじゃないか? さっきの呼び掛けもなんか、ポンコツっぽかったし」


「・・・」


渡すしか、ないかぁ。私は頭の上に乗ってたゴンちゃんを両手で掴んで霧の中で、よくよく見てみた。


「ゴンゴン?」


可愛いことは可愛い。でも、見れば見る程ヘンテコだ。体温はあったかい。匂いはアーモンドとココナッツの中間くらい。柔らかい。皮膚はゴムっぽい。めちゃ軽い。脈も有って、脇の下とかトクトクしてる。


「・・お尻、ペンペンされてみる?」


「よし! 俺の伯父さんの奥さんの弟の同級生が確か弁護士で、爺さんの妹さんの旦那さんの従兄弟の幼馴染みが確か検事だっ。なんとかなる」


「どっちも他人だよ」


「へっへっへっ」


私達は腹を決めた。昭和の若者だったらもっとやみくもに反逆するのかもしれないけど、令和の高校生なんで実利や実現性を重視したいっ。


「ゴンちゃん、ちょっと走り回っただけでヘタれてゴメンね」


「ゴンっ」


「考えるのに必要な時間だった。考えずにまんま渡すより良かったよ」


「最初と言ってること違くない?」


「考える時間があった!」


「・・・」


颯太、そういうとこあるよね。

とにかく立ち上がった私達は海霧は晴れないけど、海の方のドンパチは全然収まってないど、交通事故はそろそろ収まった気がする車道の方に戻ろうとした。

颯太のは大変だろうけど、単車は押せるしね。と、


「え?」


「なっ」


路地を抜けた海霧の先、車道側に警官が7~8人駆け込んできたっ。

後ろを見ると表通り側には警官が5~6人駆け込んできた!


「走ってきた? こんないきなり??」


「警察官の人達に渡すのはちょっと予定がっ」


なんか、変な気がした。警官の人達、無表情過ぎるし、無言。速攻で大勢集まってきたのもちょっと・・

私と颯太が背中合わせになって焦りだした。その時、


「ゴォーーーンっ!!」


ゴンちゃんが叫び、警官の人達のポケットが盛り上がって財布の中身がたぶん偽札と偽硬貨に変えられて増やされて噴出した!

何も反応しない警官の人達っ。


ゴンちゃんはお金を増やしたのに今のはお腹が膨れた感じはなかった。目付きがちょっと険しい気がする。顔のグルグル模様もぼんやり光って点滅している。怒ってる?


「オカシイよ、この人達っ」


「おお、気を付けろよ!」


「・・素晴らしい。価値の変換、価値の増殖。捕食以外に使う自在性」


警官の1人が無表情でそう言い、全員、ポケットから偽金をバラ撒きながらにじり寄ってきて、拳銃を構えた。


「地球原生人(げんせいじん)2体は不要。排除」


「藤子!」


颯太は私とゴンちゃんを抱えるように庇い、ドラマとかで聴くよりずっと軽い感じの銃声が一斉に鳴り響いた。

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