夕飯
【夕飯】
夕食の時間になった。
あれだけ魚を食べたというのに、
やっぱりお腹が空いていた。
子供だからかな。
メニューはパンと魚入スープ。
パンはとても固い。
そのままでは食べられないぐらい固い。
だから、パンはスープに浸して柔らかくして食べる。
味も少し酸っぱいしほんのりと苦い。
色も黒い。
「このパン、ちょっとヘン」
「えー、普通の黒パンだろ?」
「黒パン?」
「ライ麦パンだよ」
「ライ麦って。小麦じゃないの?」
「小麦パンなんて金持ちが食べるパンだよ。おまえ、いいとこのお嬢さんだったんか?」
ライ麦パンなんて初めて聞いた。
正直、美味しくない。
これは自作すべきか。
前世では自宅にホームベーカリーがあったから、
パンを焼くのは苦じゃない。
でも、私は超がつくメシマズ女。
舌がおかしいのではない。
だって、自分が作ったのものは自分でも食べられなかった。
飯マズの原因はいろいろある。
ホームベーカリーの場合は、
単純にレシピを守れない。
作る前はレシピを守るつもり。
でも、作ろうとするとレシピを変えたくなっちゃう。
その誘惑に抗えない。
で、思いっきり失敗する。
レシピの変更は量だけじゃない。
材料を投下すれば自動的に焼き上がるはずなのに、
オートを拒否する。
時間も守れないし、変な材料も入れちゃう。
まともに焼き上がったことなんてない。
それでも、忘れた頃にチャレンジする。
そして、後悔する。
そのお陰で、どうすれば美味しいパンが焼けるか。
大まかには掴んでいる。
ただ、自分でそれを実行できないだけで。
孤児院では仲間がたくさんいる。
彼らにやらせよう。
いや、まず紙に書いて。
そのとおりにやってもらおう。
私が直接指示すると、元のもくあみになる。
「ねえ、黒パンは誰が焼いているの?」
「シスターたちが焼いているよ」
「私も手伝えるかしら」
「できると思うよ。シスターに頼んでみたら?」
翌日、私はシスターにお願いして
黒パンを焼く工程をみせてもらった。
まず、ライ麦を粉にする。
これが大変そう。
大きな石臼でゴリゴリライ麦を挽いていく。
そして、次が不思議な工程だった。
普通は酵母菌を育てる。
黒パンのも発酵させるから似た工程なんだけど、
ものすごく酸っぱい匂いがする。
「サワー種っていうのよ」
シスターはいう。
変わった酵母菌なのかしら。
「ライ麦を使うと、小麦用の種は使えないのよ」
シスターはそう説明してくれた。
小麦用の種だと膨らまないそうだ。
ただ、サワー種でもフカフカというわけにはいかないらしい。
それと、サワーというだけあって、
できあがりは酸っぱい。
黒パンの黒さはライ麦の表皮を混ぜ込むせい。
蕎麦と同じね。
苦味はライ麦の味だという。
うーむ。
私の出る幕じゃない。
で、少し考えた。
ライ麦を挽く工程。
あれは私の魔法でできるんじゃ。
やってみた。
何度もチャレンジするうちに、
コツをつかんできた。
「まあ、エミリ。なんて粉が滑らかなの」
「風魔法で挽くから力いりません」
「助かるわ、エミリ」
粉だけは私が挽くことになった。
表皮を取り除けば、多分パンは白くなる。
でも、表皮に栄養が詰まっていると思う
これは米や小麦がそうだから。
ライ麦だって同じだろう。
だから、黒パンのままでいく。
砂粒とか未発育の種とかも弾いていく。
かなり高品質のライ麦粉になる。
「パンがすっごく美味しくなったね」
「うん。砂でジャリジャリしないし」
味は良くなったと思う。
でも、固いのは変わらない。
これは仕方がないのかな?
ただ、焼き立てを食べるとそれほど固くない。
でも、焼いてから数日たったパンを出してくる。
これが味気なくてとっても固い。




