夫の駆け込み寺
【夫の駆け込み寺】
「信じられん。なんて美しい世界なんだ」
「だろ?」
「ああ。」
「私達に感謝を示してくれる。ただそれだけのことなのに、
なんて心が温まるんだ」
「おまけに、僕たちに忖度を示してくれる。大昔にこういう言葉があった。おもてなしって。意味がよくわからなかったが、ここにきたらはっきりと理解できた」
バーナは仲のいい魔人をつれて
王国にやってきた。
バーナが魔石を簡単に得られるようになったからだ。
魔族の国でも魔石は得難い産物だ。
魔物や極端に魔素の濃い場所からしか
魔石を得ることができない。
毎日の生活において魔法に依存することの多い
魔人たちは、より魔石の価値が高い。
バーナはその魔石を与えることで、
魔人の魔力をブーストしていた。
普段ならば魔族の島と大陸の間にある海峡でさえ
飛び越えることのできない魔人も、
なんとか飛んでいけるようになったのだ。
「それにしても、あんなに簡単に魔石が与えられるなんて」
「うん、それは僕も非常に不思議に思っている。秘密の方法があるようだけど」
「それは教えてくれないのだろうな」
「ああ。この件は秘密にしてくれよ。彼女も僕を信用して秘密を打ち上げてくれているんだ。信用をなくすことは絶対にしたくない」
「もちろんだとも」
「うん。でも、ここに来るともう島に帰りたくなくなるな」
「ああ、君が週末になるといなくなるのには気づいていたんだが、天国のような場所に来ていたなんてな」
「僕はね、こちらに移住するつもりでいるんだ」
「なるほど。で、幸せを私達にも分け与えたいと」
「ああ。正直に言おう。僕は魔族の男たちを救いたいんだ」
「救う、か。この国を見なくては、意味のわからない言葉だな」
「確かに、この国にもいろいろなことがある。でも、少なくとも、女性に関しては素晴らしいだろ?」
「ああ。天使ばかりだ」
「料理を作っただけなのに、感謝を示してくれる。そればかりか、わたしたちに料理を作ってくれる」
「笑顔付きでな」
「あんなに大歓迎を示してくれると、島の女性たちと比較せざるをえん」
「僕はね、極力島から男たちにこの国を紹介しようと思っている」
「うん。島の男全員に紹介したいぐらいだ」
「ああ。それが理想なんだけど」
「島の女性たちはどうなるんだろう」
「正直いうと、僕の心の中には島の女性たちへの忠誠心が消えている。だから、近々領主は辞職するつもりなんだ」
「そうか。私もいろいろと考えてみるよ」
「あとね。魔族の国で駆け込み寺というのを組織化したいと思っている」
「駆け込み寺?」
「この国には女性の駆け込み寺というのがある。男からの様々な暴力から逃れるための避難所だ」
「男が暴力を振るうのか」
「物理的・精神的・経済的、様々な暴力をね」
「男の風上にも置いておけないな」
「ああ。魔族の国なら、即刻厳しい処罰を受ける」
「その男版か」
「魔族の国では男は女性の圧政に結諾々と従っている。行き過ぎたハラスメントにも気づかず、むしろ自分への責めとして捉える男たちばかりだ」
「そこからか」
「男たちの目を覚まさせる。そして当面は避難場所に駆け込んでもらう」
「極めて危険だな」
「ああ。バレたらあっという間に弾圧されるな」
「だが、男たちを救わねばならない。私も今なら理解できるよ」
「同士を増やしていかないとね」
「まあ、君の魔力に対抗できるような魔人は滅多にいないが、まずは力をあるものを引き込みたいね」
「だね」




