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魔族2

【魔族2】


 女性たちの称賛の視線は心地よかった。

 日々疲れた男の心を癒やしてくれた。


 ただ、男は少し天狗になっていたかもしれない。

 この国では称賛を受けるのが当たり前。

 そう男が感じ始めていた頃、

 男に目もくれない女性がいた。


 ちょっとした怪我を治すために訪れた教会で

 治療にあたってくれた薬師だ。



 驚くべき魔力の持ち主だった。

 こともなげに神聖回復魔法を使ったのだ。

 しかも「ちちんぷいぷい」なる不可思議な詠唱で。


 回復魔法を使えるものは魔族でも少ない。

 使える人も聖回復魔法になる。

 複雑で高度であるため、

 通常魔法で無詠唱で魔法を発動できる人でも

 回復魔法は詠唱を必要とする。


 その上位互換魔法である神聖回復魔法は

 古代に廃れたと思われていた。


 その神聖回復魔法をこともなげに発動した。

 しかも、彼女によると詠唱は関係ないという。


(とんでもない逸材がいた!)


 男は会話を続けようと試みた。

 ところがその回復師はけんもほろろだった。


 男にまるで興味がない。

 治療が終わったら追い払われそうになった。



 男がその回復師に興味を持ったのは

 容姿であった。


 特段美しいといえる容姿ではなかった。

 しかし、なんとも魅力的だった。


 特に切れ長でやや腫れぼったい目は、

 エキゾティックでチャーミングだった。


 男はとっさに前回この教会に来たときに配った

 お菓子を渡した。

 喜んでくれるといいんだが。



 その次に来たときには、

 魔族の国でも評価の高いものを

 マジックバッグに詰め込んできた。


 男は料理が得意だった。

 料理であの回復師を楽しませよう。


 回復師に白ワインを渡してみた。

 彼女がぶどう生産にチャレンジすると聞いたからだ。


 男は耳がよかった。

 ちょっとした噂話には耳がいく。


 それは魔族の国で鍛えられたスキルだ。

 ちょっとした周囲の変化に気を配らないと、

 いつ女性からの叱責が始まるかわからない。


 白ワインには格別な反応を見せなかったが、

 次におつまみとして渡したものに回復師はくいついた。



「それはフライドポテト!」


「ポテト?私の地元ではブランボリーっていいます」


「それって、地中にある丸くてゴツゴツしたもの?」


「ええ。このあたりにもありますか?」


「このあたりでは見たことはない。文献で知ったのよ」


「なるほど」


「しかも、油で揚げてるのね」


「ええ。それに塩と胡椒」


「素朴だけど、実にお金のかかった食べ物ね。油も胡椒も王国では高級品よ」


「地元ではありふれた食材なんですが」


「はー、なんだか嫌味に聞こえるわ。ひょっとしたら、あなたの地元って物凄く裕福か、それとも農業先進地?」


「普通だと思いますよ」


「全然、普通じゃない。でも、せっかくもってきてくれたんだから、フライドポテトと一緒に白ワインも飲んでみましょう」


 ああ、良かった。

 こんな素朴な料理で喜んでくれるなんて。

 でも、意外と料理に詳しそうだ。


 と思ったら、白ワインに対しても

 鋭敏な感想を述べてくれた。

 こんなに感度の高い味覚の持ち主は

 魔族の国でも少ない。


 マジックバッグにも驚いていた。

 魔族ではみんな持っているものだが、

 王国では羨望の対象となるのか。

 気をつけておこう。



 男はさらに押してみた。


「いかがでしょうか。台所を貸していただければ、私の地元で評判の高い料理を作ってみましょうか?」


「へー、あなたって料理もするんだ」


「地元の男性は誰でもしますよ」


「素晴らしいわね。王国の男どもにも聞かせてあげたいわ」


「じゃあ、さっそく台所をお借りしますね」


 男の国では女性を喜ばせるために、

 すべての男は料理を研鑽する。

 男はその中でも料理が上手だった。

 

 作った料理はさほど凝っているわけではない。

 だが、素材の美味しさの光る一品揃いだ。


 イカと彩り野菜のマリネ

 生ハムとクリームチーズ巻

 白身魚のカルパッチョ


 特に鯛を1日ほど寝かした状態であることを

 すぐに見抜いた。

 しかも昆布で締めたことにも


 この技法は魔族の国でも水産物に長けたエリアのみに

 伝わる秘伝だ。


 私の料理に他の教会のスタッフも称賛を惜しまなかった。

 しかし、すでに私には彼らに気を配る暇がなかった。

 回復師への関心がぐっと高まっていたからだ。



 彼女が男の出身地を問うときには

 少し心に影がさした。


「あなたの地元が食の先進地域だってことがわかるわ」


 男は女性を楽しませるために

 寸暇を惜しんで料理を研鑽に励む。

 でも、美味しいとかいってくれることは極めて稀だ。


 それどころか、ひたすら苔下ろすことに精を出す。

 メシマズといわれることも頻繁にある。


 男はそのような暴言にも耐え、

 さらなる料理の研鑽に励むのであったが、

 この国にきて、料理に喜んでくれる人々を見て、

 疑念がよぎった。


 なぜ、魔族の女性たちは男の料理をコケ下ろすのだろう。

 それほど、彼女たちは舌が肥えているのか。


 いや、そうは思えない。

 彼女たちは白ワインの知識も舌ももっていない。

 仕事をした鯛の美味しさに気づく女性など極めて少ない。


(彼女は僕達の拘りに反応してくれる)


 彼女にはますます関心が深まるのであった。


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