魔族1
【魔族1】
開拓村の東方には果てしない森がある。
数百kmに渡ってずっと森。
それでようやく大河が現れる。
その大河の向こう側も森。
やはり、数百kmに渡ってずっと森。
その森の果には何があるのか。
絶壁が迫り、その向こうには
見渡す限りの海が横たわる。
穏やかな海ではない。
1年の殆どが非常に荒れた海だ。
風はときに暴風となり、豪雨となることも多い。
その海を突き抜けると、
大陸と見紛うばかりの大きな島がある。
島の岸壁は急峻な山脈が走り、
容易に人を寄せ付けない。
その山脈の向こう側の一角に
広大な盆地がある。
多くのエリアを森で覆われている。
盆地であることもあって、魔素密度が濃い。
その森の開けたところには、
人が住み着いていた。
全部で数万人ほどいるだろうか。
彼らはこの魔素密度の濃いエリアに適合していた。
その御蔭か、彼らは魔法の得意な種族であった。
自分たちのことを魔族と自称しているが、
勇者に打倒されるような邪悪な存在じゃない。
単に魔法が得意、という意味でしかない。
自然環境が横たわっているために、
魔族とエミリたち人族との間には
交流はない。
男は魔族の国のある地方領主であった。
彼には飛行魔法が発現していた。
魔法の得意な魔族と言えども、
彼ほどの強力な飛行魔法を発現したものは他にいなかった。
少なくとも、山脈を超え荒れ狂う海を渡ったものは
過去には一人もいなかった。
男はその海を渡ってみることにした。
いつでも引き返すことができるよう、
魔力のマージンを探りつつ、
男は海の乗り出した。
2時間ほど飛行を続け、
そろそろ魔力が半分ほど消費したか、
と感じていると、対岸が見えてきた。
男は対岸にたどり着き、1時間ほど休憩した。
それだけで、男の魔力はフルチャージした。
対岸は見渡す限りの森であった。
男は少し気落ちした。
気を取り直し、
行けるところまで行ってみることにした。
森をわたり、大河を超え、再度森をわたり、
男は街らしい存在を発見した。
魔族とは異なる文明か?
男は大発見に歓喜した。
その街に降り立ち、コンタクトを取り始めた。
言葉が違うので満足な接触は得られなかった。
男はそれで帰ることにした。
次の週、男は再び発見した街に向かうことにした。
それを何度か繰り返した。
男は語学習得に長けていた。
しばらく街に通ううちに言葉を習得していった。
似たような発音が多く、ほぼネイティブなみに
話すことができるようになった。
この街に来たときから気づいていたが、
文明は魔族の国よりも遅れているようだ。
魔法も十全に使えるものが少ない。
それと、随分と貧しい人が多い。
それが男の心を痛めた。
だから、教会に献納を開始した。
貧しい人を救ってくれと。
現地の通貨はなかったが、
魔族の国から持ってきた産品を売ると、
高い値段で売れた。
砂糖とか胡椒とか少量でも
大喜びで買ってくれた。
魔族の国ではありふれたものなんだが、
この国ではとてもめずらしいらしい。
献納する場合は、教会長の顔を見て行った。
心の美しい人とそうじゃない人との違いは
すぐにわかった。
醜い顔をした教会には二度と寄り付かなかった。
男は貧しい人たちに施しを与えながら
人族の里を放浪した。
彼は非常な幸福を感じていた。
何しろ、人々が心からの感謝を男に示すのだ。
ときには女性が涙ながらに感謝をした。
それが男を大いに驚かせた。
王国の人間であれば、男の心情が奇妙に思えるであろう。
これは魔族の国のあり方が強く関係している。
魔族の国は一方的な女性上位の国であったのだ。
男性は女性に尽くすべきもの。
何故ならば、女性は子供を産むから。
その一点のみにおいて、女性は優遇されてきた。
女性は敬われて当然であった。
だから、女性は着飾り、美食を貪り、
そうでなければティーパーティでとりとめのない話に興じ、
することがなければ怠惰に横になる。
当然、魔族の女は極めて緩んだボディの持ち主だ。
その間、男性は召使いのように女性に尽くすことになる。
言われるがまま、高いドレスを購入し、着替えを手伝い、
食事を作り、風呂では体を洗ってやり、
ティーパーティの準備をし、給仕をし、
寝るときにはマッサージをし、
子守唄の一つでも歌ってやり、
ヘマをすれば、女性からの叱責、体罰が待っていた。
召使いのように、ではなく、召使いそのものであった。
奴隷と表現したほうがいいかもしれない。
だから、女性から男に対して感謝を示す、
などというこ習慣は魔族にはなかった。
男は女性に尽くして当たり前なのだ。
ところで、なぜ男が領主になれたのか。
この国では政治中枢は男で占められている。
男は女性に尽くすもの。
だから、政治体制もそうなっている。
すべて女性ファーストで考えられている。
女性へのご奉仕の最上級が政治なのである。
男は非常に魔力が強かった。
それが彼を領主へと押し上げた。
男は不満があったわけではない。
女性に尽くす喜びを味わいつつ、
それでも政務へのプレッシャーで
息抜きしたいときもある。
男はふと思った。
海の向こうには何があるのか。
それは小さい時から漠然と持っていた
未知なるものへのあこがれであった。
男性に激務が課せられる魔族の国でも、
流石に休暇がある。
それが週末ごとにあるのは魔族の体制を考えれば
奇跡的なことであった。
そうして、男は『新』大陸を発見し、
魔族以外の人種を発見したのだ。




