香水と砂糖の木1
【香水】
「こんなのどうかしら」
孤児出身のエロールが私に小瓶を差し出した。
中には彼女の開発した香水が入っている。
当初は、精油の抽出メンバーで香りを楽しんでいた時の
私の何気ない言葉から始まった。
「精油を数種類混ぜると、もっと複雑な香りが出せるのよね」
それからは、精油を混ぜる遊びが流行った。
でも、精油は高価だ。
値段はともかく、量を用意するのが大変だ。
だから、嗅覚の鋭い人を数人選んで、
調香師として試してみることにした。
その中でもエロールは調香に特別な才能を見せた。
香りへの感度が飛び抜けているのだ。
彼女の作品としては、次の3種類が人気がある。
1 清々しい香り
シトラス
フローラル
アンブレッドシード
2 清々しさに甘さを加えた香り
レモン、ベルガモット
スズラン、ジャスミン
サンダルウッド
3 爽やかでフレッシュな香り
ベルガモット
ゼラニウム
ラベンダー
アンブロクサン
以上、3種類は非常に手に入りにくい精油もあって、
購入希望者がいても非常に高価になるし、
売るほどの数を揃えられない。
ほぼ幻の精油と化している。
手に入りにくいのは、アンブレッドシード、
サンダルウッド、アンブロクサンの3つだ。
エロールの嗅覚を中心とした
香木捜索チームを編成。
森の奥に入り込んで彼女のお眼鏡にかなった植物を
ひたすら採取している。
私も嗅覚だけは人一倍鋭い。
身体強化スキルがあるからだ。
でも、彼女のようなセンスが私にはない。
だから、どの香りがいいか、というのはわからない。
気に入った、というだけで植物を採取していては、
無限にマジックバッグに詰め込まれることになるし、
家に帰って、これなんだっけ、という事態になりかねない。
それに、上記種類の植物も、
香りを嗅ぐと「えっ?」というような香りだ。
いい香りじゃないのだ。
私なら顔をしかめてスルーする。
それがごく微量を使用して調香すると、
ぐっと深みのある香りになる。
エロールの香りへのセンスと言うか創造力?
想像力?は素晴らしいものがある。
「エミリが調香した香りってすぐわかるよね」
「ほんと、そう。あんなに香りが混じり合わないのも珍しい」
私には調香でも全くセンスがない。
料理と同じでいざ調香しようとすると、
スイッチが入ってしまう。
微妙なさじ加減ができないのだ。
喧嘩しあっているような香りになってしまう。
◇
「最近、みなさんの香りが素晴らしくなりましたね」
「精油を混ぜて香水を作っているのよ」
「香水ですか。僕も嗅がせてもらってもいいですか」
「いいですよ。お気に入りならプレゼントするけど?」
「ああ、嬉しいんですが、地元の女性たちは香りに敏感でして」
「バーナさんには奥様とか彼女さんとかいないの?」
「いや、私は独身で決まった相手はおりませんが、いろいろ揶揄する女性が多いですね」
珍しく、バーナさんの口から非難めいた発言が飛び出した。
バーナさんの表情から、あまり地元の女性に
いい感情を抱いていないのかしら?
「バーナさん、話はちょっとずれるんだけど」
「はい」
「そろそろ、そのバカ丁寧な言葉遣い、やめてほしいんだけど」
「ああ、そうですか。じゃあ、お言葉に甘えて」
「私のこともエミリって呼んで。さん付けされるほどのご身分じゃないの」
「そう?じゃあ、僕のこともバーナって呼んでもらおうか。バーナさんだとむず痒いし。エミリ、今日は赤ワインを持ってきたんだけど、試飲する?」
「するする」
白ワインほどではないが、
それでも赤ワインも素晴らしい逸品だった。
当然のようにバーナは台所に入って、
こってり系の料理を何品か作ってきた。
「まずは、これ」
「えっ、これはチョコレート?」
「ああ、僕たちの地元ではショコラーダっていうんだけど、この王国にもあるんだ」
「いえ、多分ないと思う。私はよそで偶然見たことがあるってだけで」
「そう?君は本当に物知りだよね。僕の地元でも珍しいんだよ」
それは甘みの少なく濃厚なビターチョコレートだった。
チョコの苦味や渋味に、ワインの渋味や酸味、果実味が
溶け合っている感じ。
香りも複雑さが増してグッド。
続いて、
じゃがいものガレット
アジのカルパッチョ
丸ごとカマンベール入のアヒージョ
お肉とろとろビーフシチュー
「途中まで家で作ってきたんだ。あとはお皿に盛り付けするだけ」
「はあ、美味しすぎてたまんない」
「お口にあうようでホッとしたよ」
料理が美味しくてワインもどんどんと進んでいく。
ちょっとほろ酔いでいい感じだ。
外を見ると、満月。
星が降ってくるようだ。




