文化的な街を
【文化的な街を】
「ねえ、バーナさん。あなたの地元と比べて、この街で気になることって何かしら?」
「いえ、とても美しい街だと思いますよ」
「私も美しいとは思うのだけれど、ちょっと気になることが」
「気になることが?」
「どうかしら。漂ってくるものが」
私がこの世界に来てから10年近く。
だいぶこの世界に慣れたけど、
初めてこの街に来た時の記憶は薄れていない。
臭い。
汚いトイレと下水道の臭い。
前世日本が恋しいのは、清潔さ。
川はキレイ。
ゴミが落ちていない。
トイレは水洗。
へんな臭いとかはない。
街の環境もそうなんだけど、
洗面周りが本当に何もない。
石鹸・シャンプー・コンディショナーとか。
香水関係もないわね。
「ああ。下水道は多分詰まってますね。排泄物は街が大きくなるほど問題になりますね」
「あなたの地元ではどうしてるの?」
「下水道は定期的に洗浄してます。トイレは排泄物分解(バイオ魔法)魔導具を開発してます」
バーナさんの地元はやっぱり先進地区だった。
「バイオ魔法をお教えしましょうか?」
「こればっかりは、是非とも教えて頂きたいわ」
バイオ魔法は古代書には載っていなかった。
バーナさんへのお礼は十分にした。
でも、さらなるお返しを考えている。
「ウォッシュレット。あれを開発できないかしら」
ふと、孤児院スタッフに漏らす。
「ウォッシュレット?それ何?」
「こういうトイレよ」
トイレに入れば蓋が自動的にオープン。
便座は暖房付き。
温水洗浄、乾燥、消臭、消音機能などを詰め込み、
最終的にはトイレの部屋全体が洗浄されるもの。
つまり、トイレ室全体を魔導具化する。
「え。便座をそんなふうにするなんて考えたこともなかった。でも言われるとすっごく便利そうね!」
ウォッシュレット・プロジェクトが始まった。
色々な人を巻き込んで、急ピッチに開発を進めたところ、
一ヶ月も立たずに試作第1号が完成した。
難しいのはいかにお尻を洗浄するか、だった。
身体清浄魔法というのがある。
いわゆる代表的な生活魔法だが、
難易度が高い。
繊細な魔法操作が必要で、
強くすると皮膚が痛むし、弱いと効果がない。
しかもそれを魔導具化するのは困難だった。
だから、前世日本のように魔法で温水を当てることにした。
「ああ。これ、くせになるよね」
この温水洗浄が気持ちいい。
「うん。トイレ使うのが楽しい」
試作第1号を孤児院教会にとりつけてしばらくした頃。
イケメン・バーナさんがやってきた。
「フワー!」
突然、孤児院に響く大声。
「どうしましたか?」
「いや、いきなりトイレから温水が!」
ああ、孤児院の人たちは慣れっこになっていて、
バーナさんに注意することを忘れていた。
「バーナさん、壁に使い方が載っているでしょ?それよく読んで」
扉越しに呼びかけると、
「よく読んで使ってみたのですが、それでもびっくりしました!」
バーナさんは、それから何度も使い方を試し、
すぐに習熟してしまった。
なんだかバーナさんはトレイに行く回数が増えたようだ。
いけない世界への扉を開いたかもしれない。
孤児院スタッフにも多いのだ。
今だにトイレにいって嬉しそうな奇声をあげている人。
とりあえず、バーナさんにトイレ1式譲ることにしよう。
◇
下水道の洗浄はすぐに行うことができた。
火魔法で下水道を焼き払い、水魔法で洗い流し、
こびりついたものはバイオ魔法で分解する。
消臭は風魔法とバイオ魔法の合わせ技だ。
街とかけあって、魔導具を無料で提供するかわりに
街が下水道の清浄を定期的に行うことにした。
問題は道路だ。
道路の清掃は住民により習慣的に行われており、
見た目はキレイだった。
唯一のものを除いて。
それが馬からの排泄物だ。
馬車を街に乗り入れさせる限り、
馬糞は逃れられない。
排泄物分解魔導具にょり、すぐさまキレイになるのだが、
馬車はどうにかしたい。




