更なる私の救済活動
【更なる私の救済活動】
イケメンのことはいいわ。
私には薬以外にも試したいことがある。
「シスター、このあたりで麦の生産やってみたいんだけど」
「ライ麦?」
「できれば、小麦」
「うーん、私も詳しくわかっているわけじゃないんだけど、麦の種類の前に農業ギルドってのがあって」
「ギルド?許可とか?」
「そう。一庶民の立場だと、何やるにしてもギルドの許可がいるのよ」
私は教会に属しているわけではない。
バイトという形で雇われているので、
立場的には一庶民ということになる。
「何やるにしても?」
「畑の開墾、耕作、種まき、水の管理、肥料、収穫、販売。何やるにしても」
「えー、バロー家では結構勝手にやってたんだけど」
「村の領主だったからね、バロー家。教会も同じ。教会のやることに誰かがいろいろ言えないことが多い。でも一庶民が農業やろうとすると面倒よ」
「しかも、税金もとられるんでしょ?」
「そうよ。いろいろ合わせると最低でも収穫の5割はもってかれるわね」
「うわっ」
「ギルドは農業だけじゃないわ。薬やお酒、魔導具製作、いろんなことに関わってくるのよ」
「薬は曖昧な形でやれてるのに」
「薬も薬師ギルドっていうのがあって、それなりにうるさいんだけど、いろいろ誤魔化しが効くのよね。でも農業ギルドはムリ」
「そうなんだ」
「でも、なんで農業?」
「薬も大賢者様を全面に出しているけど、結局販売数は限定されるし、教会の有力者への寄進でそんなに儲からない。それに、いつだって食糧不足でしょ?」
「麦が増産できれば助かるわ」
「なにか旨い手はないのかしら」
「無主の荒れ地を開墾すると、10年間は支配を受けずに済むわよ」
「おー」
「もっと言えば、王国の外ならば何やろうと無問題ね」
「なるほど。それ、やっちゃいたい」
「普通は失敗率9割以上なんだけど。エメリがやるなら、成功するかもね」
「大丈夫よ。お金はあるから」
私には必殺魔石製作スキルがある。
売りすぎるのも良くないけど、
そこそこの稼ぎならば問題ない。
「このあたりだと、どこがいいかしら」
王国というか、孤児院教会の周りは
荒野か森に囲まれている。
荒野はたいてい王国の管理地とみなされている。
「森しかないわね。川が近くを流れていることも条件にしたいわね」
森には広大な未開拓エリアが広がっているけど、
問題は魔素が濃いことと魔物。
◇
「このあたりで始めてみようかしら」
私はシスターに言われた通り、
川から適度な距離にある森の地を選択した。
川に近すぎると増水がこわい。
まずは、道造り。道造りは私の大得意。
「暴風拳!」
「暴風拳!」
「暴風拳!」
「暴風拳!」
「暴風拳!」
暴風拳の乱れ打ち。
幅50m,奥行き100m程度の広場を作り、
そこを道路とする。
「いつみても、エミリの拳は凶悪だよな」
「魔物だって逃げてくよな」
「魔物対策はバッチリよ。最新式の魔導具を設置するから」
道路の端には電灯の魔導具をつける。
空気中の魔素を自動的に魔石に転換する装置をつけて、
周囲の魔素密度を薄くする。
こうすれば、魔物はよってこない。
魔物は魔素のないところでは生存できない。
この道路の先に私の開拓村を拓いていく。
森の中に村を作ることで、
この地が無主の王国外の土地であることを
わかりやすくさせるために、このような配置にした。
◇
さて、私が麦生産に意欲を見せるのは。
この世界では圧倒的に食べ物が足りない。
個人単位、村単位でも、
作付けが悪かったりすると隣村へ泥棒に行く。
冬とかになると餓死者も出る。
姥捨て山とか子供を売るとか
普通にある。
孤児院に助けられ、
貧しい村を見て、
私はこの世界の現実に目を背けられない。
食糧増産はこの国の悲願。
さて、そこそこの広さの土地を開墾した。
ここからどうしようかしら。
「エミリ、俺たちも仲間に入れろよ」
孤児院の子供たちの中で年長者がそういい始めた。
「危険なところよ?」
「エミリの防具があるから、大丈夫だよ。ゴブリン程度ならやっつけられるし」
前までは盾を防具としていた。
新たに防具を考案して、
盾は極力物理防御に特化し、
魔法結界を体に身につける防具に
埋め込むことにした。
以前よりも防衛力が向上している。
「ちょっとまってね。バロー村の知り合いを連れてくるから」
バロー村で農業を営んでいた人たちの何人かとかは、
今だに連絡を取り合っている。
彼らをここに呼ぼう。
農業のプロだからね。
◇
「奥様、お招き頂きありがとうございます」
「どうかしら、この敷地」
「土がすごくいいですね。流石に、森の中だけあります。腐葉土がこんもりしていて、しばらく肥料がいらないんじゃないですか?」
「いざとなったら魔石肥料をだすつもりだけど。そんなに土壌がいいんだ」
「ええ。最高品質ですね。問題は魔物ですか」
「多分、大丈夫だと思う。みんなにも防具つけてもらうし、周囲を外壁と結界魔導具で覆うから」
ということで、幾ばくかの人たちと
実験的に農業を進めてみることにした。
「あとさ。転移魔法陣を紹介するから」
「転移魔法陣?」
「そうよ。こっちにあるわ」
私は地下に作った転移魔法陣の基地に彼らを案内した。
「さあ、この腕輪をはめて。転移魔法陣が使えるようになるのよ」
「あの転移魔法陣って、どこかへすっと移動できるって奴ですか?」
「そうよ」
「ああ、私、ちょっとお腹が……」
「オレも……」
「大丈夫だって。転移したら、治っちゃうわよ」
壁にへばりつく彼らを無理やり魔法陣に押し込み、
転移魔法陣を作動させた。
転移先は孤児院教会のすぐそば。
森の近くにターミナルを作成してある。
「おおお、信じられん。エミリ、こうやって移動してたんか。やけにいろいろなところに行くと思ってたけど」
「注意はしてね。バレると、捕まっていろいろと聞かれるわよ」
「拷問ってことですかい?」
「まあ、そういう事態もありうるわね」
「おお……」
「大丈夫、そうなったら私が助けるから」
「ああ、それも心配だ。城とか破壊しちゃうので?」
「そうね。そういうこともあるかも。だから安心して」
「いや、それ安心できないから」




