隣国の王子様
【隣国の王子様】
「エミリ、隣の王国からの使いっていう人がきたんだけど。あなたに会いたいって」
「えっ?突然?」
「ええ。先触れなし」
「急病か何か?」
「違うみたい」
「突然の来訪ならお断りね」
私のところには、突然の来訪者は結構やってくる。
よっぽどの急病とかなら見ることもあるけど、
そうじゃないなら、つきあっているとろくな目に合わない。
私は前世・今世の経験から、
大組織とか強力団体とかに嫌悪感が生じる。
それに、隣国の使いと会っているなんて知られたら、
どんな容疑がふりかかってくるかわかりゃしない。
元姑(仮)は秘密を隣国に漏らしただけで
火炙りの刑なのよ。
なんで気軽に会おうとするのかしら。
「お断りしたんだけど、すっごく粘るのよね」
この訪問者、かなりしつこかった。
どうしても会わせてくれと。
そう言われると意地でも会いたくなくなる。
ああ、子供のふるまいで結構。
だいたい、失礼すぎる。
「先日、お断りした隣国からの訪問者いたでしょ」
「ええ」
「教会の偉い人の紹介状を持ってきたのよね」
シスターも困り顔だ。
「はあ。仕方ないわね。会うことにするわ」
この無理矢理の訪問者。
来たのは隣国の王国の第1王子だった。
驚き。
そんなに気軽に隣国とか来ていいのかしら。
でも、偉い立場の人なのに随分と礼儀正しい。
横柄だったら威圧をかまして
追い出そうと思っていたのだけれど。
それに、ゴメン。
王子様、イケメンだった。
私はやっぱりイケメンに弱い。
ただ、一連の流れからはやけに稚拙さが目立つ。
そういう意味では信用がおけそうもない。
下手に関わっちゃ駄目って私の経験が警報を鳴らしている。
「で、ご要件は?」
「結界石の解明にぜひともお力をお貸し頂きたいのです」
「私が?」
「王都は先祖代々の結界石で守られております」
「はい」
「半年ごとに魔石の交換が必要なのですが、そのやり方で混乱しておりまして」
「でも、今まではできていたんでしょ?」
「ええ。ただ、結界石担当の魔道士が急に亡くなりまして。引き継ぎ無しなものですから、完全に解読できるものがいなくなってしまったのです」
「いや、そんな重要な案件、一人だけしかやり方がわからないなんて」
「極秘な内容ということもあったのですが、やり方自体は結界石に刻まれているのです。古代語でかかれており、それなら多くの魔道士には解読は容易であろうと」
「でも、読めないと。それなら、私だってムリなんじゃありませんか?」
「エミリ様は4属性が幼い時から発現した大天才、しかも大賢者様のお弟子様、聖女様ということで、お知恵をお借りできないかと」
「はあ」
「もうすぐ、結界石の効果が切れてしまいます。結界が切れると魔物に襲われて首都は大変なことになってしまいます。ぜひともお力をお貸しください!」
お偉い方がプライドをかなぐり捨てて
必死の顔で馬鹿丁寧にお願いされると、
私としても嫌と言えない。
とにかく、行ってみることにした。
ただし、終わったらすぐに帰らせてもらいますよ、
歓迎会とかそういうの不要だと念を押して。
大至急、教会のほうにも話を通しておいた。
隣国とこの国とは別段不穏な情勢にはない。
それでも、懸念は予め抑えておきたい。
拘束されたり、殺されたりしたらたまらないもの。
もっとも、そうなったら私も反撃するけど。
◇
結界石は城の中にあった。
大した用事じゃなかった。
結界石に刻み込んである文字を読んで、
その通りに結界石を動かし、
新しい魔石を取り替えればいいだけだ。
こんなの誰にでもできそうなんだけど。
うーむ。
特別難しい言葉じゃないんだけど。
まあ、私はマルチリンガルがあるから、
なんでも読めちゃう。
ひょっとしたら、特別な文法とか言葉を使って
書かれてあるのかもしれない。
「解読しましたけど」
「え、あっさりと」
「一応ですね、ここに解読結果を書き留めておきました。でも、多分ですがこの文字は定期的に変化すると思います」
「はあ」
「ですから、この言葉の習得に時間をかける必要がありますね」
「できれば、お教え願えませんでしょうか」
「無理です。ただでさえ、ムリをおして来てるのですから」
「そこをなんとか」
「この文字は古代語の変形です。さほど難しいとは思えません。それとも、お国の古代語のレベルはそれほど低いのですか?」
「いや」
「とにかく、文字が変化するといっても、それほど大きく変わるとは思えません。一応、考えられる変化を書き出しておきますので、それを参考にしてみてください」
「承知しました。実は先月の戦争で国が疲弊しておりまして。負傷者も多く、混乱をきたしておるのです」
「負傷者?少し見ましょうか?」
で、兵士の傷病棟へ。
確かに、負傷者が廊下にまで溢れかえっていた。
こういうのを見るとほっておけない。
「これは悲惨ですね。この薬をお使いください」
回復薬の大盤振る舞い。
一気に回復させる。
ああ、やってしまった。
後悔あとに立たず。
でも、苦しんでいる人をそのままにしておけない。
こうやって聖女認定されていくのね。
自業自得。
王室からは宴を開くから、泊まっていけと。
そういうのいらないから。
予め言っておいたでしょ?
無理やりひきとめようとしたので、
私は威圧しようとした。
ムッとした顔を読んだか、
相手は引き下がってくれた。
もうね、すぐ帰りたいのよ。
王室のことなんてかまっていられない。
というか、下手するとそのまま拘束されるからね。
まあ、そんなことになったら城ごと吹き飛ばすけど。
◇
それからは、やけに王子様が教会に来る。
えっ?
私がお后候補ですって?
謹んでご遠慮させて頂きます。
だいたい、私が孤児だって知っているのかしら。
いいんだと。
そんなものは階級ロンダリングでどうにでもなる。
つまりどこかの貴族に養子に出して、
箔をつけると。
余計にお断り。
孤児で結構でございます。
そんなもので輿入れしても、必ずボロが出る。
だいたい、やんごとなきお方のもとに行きたくない。
さむけボロでまくり。
流石にこの話は薄っぺらすぎる。
私のようなバカにもわかる。
ところが、おかしな女が現れた。
自分が本当の聖女だと。
私は偽物の聖女なんだって。
偽物って何よ。
聖女って称号も困るけど、
バッタモン扱いも腹がたつ。
ところが、王子がこの女に骨抜きにされる。
どうやら魅惑の魔法持ちのようだ。
まあ、いいか。
バッタモンで結構。
でも、ちょっと心に傷を負ったわ。
それにしても本当に大丈夫なのかしら。
本人は結界石を読めると宣言したらしいけど。
まあ、いいよね。
私はバッタモンの聖女なんだから。




