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奥様、孤児院に戻る

【奥様、孤児院に戻る】


「エミリ、おかえり」


「シスター、ただいま。私、しばらく孤児院にお世話になるわ」


「あらあら。バロー家と上手くいかなかったの?」


 私はシスターに経緯を説明した。


「ちょっとバロー家に文句を言ってくるわ。うちの子を舐めた報いをうけさせてあげる」


 温厚なシスターが怒髪天を衝く勢いで怒り出した。

 私は慌てて、姑は火炙りの刑になったし、

 それ以外もそれなりのバツをうけていることを説明した。


「まあ。それじゃ仕方ないわね。でも、教会には報告しておくわ。バロー家には今後も注視しておくようにね」


 王国では教会から見放されると、本当に悲惨なことになる。


 教会は様々な必要物資を生産している。

 穀物とか塩とか。

 それ以外でもおワイン、油、薬、鍛冶製品など

 教会が製造しているものは多い。


 流通も教会の支配下にあることが多い。


 下手すると、そういうものが手に入らない。

 あるいは値段が上昇する。


 物だけではない。

 教会から睨まれると、村八分のような目にあう。


 教会の力は領主以上のものがあるのだ。



「で、これからどうするの?」


「魔法を子供たちに教えるのは続けていくわ。それと薬を作ろうかと思って」


 私はシスターに魔石回復薬を渡す。


「ちょっと使ってもいいかしら」


 シスターはそう断って、

 風邪気味の子供とか怪我のなおっていない箇所に

 回復薬をふりかけてみた。


「なんてこと。あっという間に治ってしまった」


「シスター、それ汎用薬というかお値打ち品ね。重病患者にはもっと効く薬があるわ」


「これ以上効くって……まさか、エリクサー?」


「いやね、そんな伝説的なものじゃないわ。死んだら復活できないし、手足が欠損しても元通りにはできないわよ」


「それ以外はいけるってこと?」


「流石にそこまでの効果はないと思うわ。でも、結構いけると思う」


「まあ。凄いことになるわね」


「だから、シスター。私は前面に出たくないの」


「そうよね。わかったわ。出処不明ということで販売することにしてもいいんだけど」


「いいんだけど?」


「こういうのはどうかしら。あなたは山奥に住む大賢者の弟子となった、というのは」


「え、無理ありすぎない?」


「あなた、王国では結構名前が売れてるのよね」


「そうなの?」


「バロー家ではいろいろ騒動を起こしているでしょ?地震を引き起こしたとか」


 ああ。

 そんなに噂になっているのか。


 他にもある。

 ソレーヌ閣下のお気に入り。

 学院の壁に大穴を開けた。

 バロー家崩壊の黒幕。


 私の実績。

 どこの暴れん坊よ。




「地震を引き起こすなんて、普通の人間にはムリよ。でも、大賢者の薫陶を受けている、ということなら納得してくれるかも」


 なるほど。

 上手くいくのかわからないけれど、

 その線で言ってみようか。

 いるはずのない大賢者様、ごめんなさい。


「ただ、教会上層部にはすこし話を通しておくわね。届け物がいるから、エミリお願いよ」


 シスターは回復薬を手にとり、にっこりする。

 薬を融通しろ、ということね。



 本当は、私は神聖回復魔法スキルも取得している。

 かなり強力な。


 これがバレると、大変なことになるかもしれない。

 ほぼ強制的にメイン教会に連れて行かれて、

 そこで閉じ込められて働かされる可能性が高い。

 神の名のもとにね。


 それが嫌なら、逃げなくちゃいけなくなる。

 教会から孤立した生活は

 この世界では実に不自由な暮らしとなる。


 ただ、教会は聖回復魔法を専門とする。

 私は神聖魔法だ。

 神聖魔法は聖魔法の上位互換のような魔法だけど、

 古代に失われた伝説の魔法だ。


 そんな魔法を伝授したのが大賢者だ、

 という言い逃れはひょっとしたらできるかもしれない。

 いや、やめておこう。

 そんな子供だまし。



 昔の仲間達も休みになると孤児院に戻ってくる。


「エメリ、聞いたぜ。まあ、こうなる気がしてたんだ」


「そうよ。学院時代からずっと塞ぎ込んでたものね。私達、心配してたのよ」


 ああ、持つべきものは友達だ。


「エミリは人間やめてっからな。人間の学校とか家庭に合うわきゃない」


 ああ、前言撤回。

 ちょっと説教することにする。


「でもさ、この回復薬、すっごい効き目だな。俺の古傷、どんな薬でも回復魔法でも治らなかったのに、一発で全快したぜ」


 男子がコブを痛そうにさすりながら言う。


「それになんというか肌がすべすべする。顔に塗るとキレイになる気がする」


「いや、おまえは手遅れさ」


「そう」


「アチチ!」


 女子に馬鹿なことを言ったコブ男は、

 あっという間に髪の毛を燃やされた。


「この薬さ、領軍に持っていってもいいだろ?」


「勿論よ」


「絶対、大量注文が来るぜ。大丈夫?」


「無問題」


 私はマジックバッグから大量の薬を取り出した。


「ちょっと待て。おまえ、それマジックバッグか?」


「そうよ。外には内緒よ?」


「バレたら軍のおエライサンがやってくるぜ。軍の兵糧問題は大変だからな。マジックバッグなんかあったら、軍隊の編成に革命が起こるぞ」


 軍隊の3分の1は補給部隊だと言われている。

 兵士各自も個人携帯して、

 なおその量の補給専用部隊がいるのだ。


 それが不要になるとなれば、

 全部を兵士にできる。

 補給部隊を襲うのは主要な戦術だが、

 その怖れがなくなるのだ。


「秘密は厳守よ。マジックバッグのことも。私がこの薬を作っていることも」


「当たり前じゃん。エミリの拳は軍隊より怖いかんな」


「人間やめた拳くらうと、体が消滅するしな」


「エメリ一人と領軍全部と闘ったら、どっちが強いかな」


「考えるまでもねーよ。エミリの拳が勝つさ」


「あっという間だな。髪一本だって残りゃしねーよ」


「エミリってそんなに怖いの?」


「怖いって次元じゃねーよ」


「いっしょに森へ行けばわかるよ。あのさ、街の裏山の森、結構剥げてるだろ?」


「うん」


「あれ、全部エミリがやったんだぜ」


「は。うそ」


「俺、エミリの拳を初めて見たときはしばらく動けなかったもんな、驚きすぎて」


「ま、エミリの拳を最初に味わったのはジャンだけどな」


「ああ。額に大きなコブを作って気絶しやがったぜ」


「お漏らしもしてたよな」


「ジャンは絶対認めねーけどな」


「ギャハハ、みんな見てたっての」


 ジャンは、領軍でそこそこ出世していて、

 小隊長をしているらしい。

 多忙でなかなか孤児院に帰ってこれない。



 あらためて思った。

 これが私の望んだ世界だ。

 一人ぼっちは嫌だ。


 学院では一人ぼっちだった。

 孤児院に帰ることで息を吹き返した。


 バロー村でも孤独だった。

 村人がいたから私は支えられた。


 私はこの世界で自分の居場所を作っていく。

 この拳も私を助けてくれるかもしれない。


 でも、私にはわかっている。

 拳では目的を達成できないことを。

 人の心はそんなものではつなぐことができない。



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