転生した
【転生した】
(はっ、ここはどこ?)
気づいたら、薄暗い場所にいた。
(洞窟の中かしら。ひんやりしているわね)
(転生、って言ってたわよね。体をチェックしてみなくちゃ)
暗くてよくはわからないけれど、
しばらく目を凝らしていると
少しだけいろいろ見えるようになってきた。
(小学生ぐらい?)
なんてちっちゃな手。
大人サイズじゃない。
(服は白っぽいワンピース。あと、足元は革紐サンダルっと)
(とにかく、明るい場所に行ってみよう)
ほのかに明るい方向へ向かう。
出口があり、外を覗いてみた。
(森…よね)
出口を出てみた。
鬱蒼とした森。
地面が葉っぱでフカフカしている。
寒くも暑くもない。
5月ぐらいだろうか。
(どうしよう。ここがどこか、手がかりがほしいわ)
そばの背の高い木を眺める。
登れる気がした。
スルスルと登れた。
(私ってこんなに身軽だったかしら)
周りを見渡す。
(見渡す限りの森。どうすんのよ、これ)
洞窟に戻りボーとしてみた。
確かに私はこう言った。
「人のあまりいないような田舎で、のんびりとあくせく動かなくてもすむような暮らしがしたいです」
人のあまりいないような?
ここは人は全然いそうもない。
のんびりとあくせく動かなくてもすむような?
というよりもここから動けない。
怖くて森の中なんて歩けない。
動けないとのんびりは違う。
だいたい、いきなり私は遭難してるんじゃないのか?
私の望みとかの話じゃない。
あの神様、人の言うことを聞かないヤツだったけど、
ちょっとひどすぎない?
「ハゲのバカヤロ!」
思わず、握りこぶしで洞窟の壁を叩いてしまった。
「あいた!」
『スキルを獲得しました。身体強化スキル、正拳スキル』
突然、楽しげなメロディーとともに
頭の中でそうアナウンスされた。
スキルって。
しかも、身体強化とか正拳とか。
(もうスローライフじゃない。サバイバルじゃん……)
◇
でも、洞穴の中に閉じこもっていても困る。
お腹が空いた。
ご飯を探さなきゃ。
仕方なく、ふらふらと森を彷徨ってみた。
『ガサガサ、バキバキ』
え、なに?
『ガオー!』
キャ、大きな黒い何かが迫ってくる!
私は目をつぶって手を振り回した。
『ゴオー!』
何か凄まじい轟音が。
『暴風拳獲得しました』
またもや頭の中で鳴り響くメロディ。
どういうこと?
周りは静けさが戻ってきた。
あの恐ろしい何かは?
私はおそるおそる目を開けてみた。
すると、目の前の森だった場所には広場ができていた。
幅10m長さ100mぐらいの。
(ひょっとして、私がやっちゃったの?)
暴風拳なんて、少年マンガのような頭の悪そうな名前。
それが私のスキルだっていうの?
私は試してみた。
「暴風拳!」
森に向かって拳を突き出すと、
凄まじい暴風が巻き起こった。
太い木々がなぎ倒され、私の前には道ができていた。
「ちがーう、私はこんなの望んでいない!」
私の望みは。
広い草原に建ってる小さな白い家。
そこに優しい旦那様とかわいい子供と。
ワンちゃんとネコちゃんも。
暖炉もあって、私はそこで編み物をするの。
それなのに。
こんな男子小学生が好きそうなスキル、いらない!
私はしばらく頭を抱えていたけど、
思い出した。
お腹がすいた。
とにかく、食べ物を探さなきゃ。
そういえば、神様、4属性魔法がどうとか言ってたよね。
そう考えたらとたんに、
『4属性魔法を取得しました』
と頭の中で鳴り響く。
4属性って?
たぶん、火・風・土・水魔法のことね。
ファンタジー小説はいくつか読んだことがある。
どうすればいいんだろ。
指を突き出してチャッカマンをイメージしてみる。
『ボッ』
わっ、指の先に火がついた。
枯れ木集めなくちゃ。
チョロチョロだけど、水も指先から出た。
風もおこせるし、小石を飛ばすこともできた。
(初級魔法ってやつね。火と水魔法はありがたいわ)
次は食べ物。
木の実とか。
きのこは怖い。
最悪、獣でもいいわ。
でもだめだった。
木の実は見つからない。
獣を見つけても、私の拳の威力が強すぎる。
周りの地面ごと、吹き飛んでしまう。
拳のコントロールができない。
転生前にこの力を授かっていたら。
あのクソッタレ係長をぶっ飛ばしていたのに。




