公爵令嬢からモブ令嬢になった私の話
短編です。思っていたより長くなりました。
「エリーナ!卒業おめでとう!!」
「ありがとうございます、お母様」
本日、私エリーナ・クランダルは貴族学院を無事に卒業した。
特に何事もなく平穏な学生生活を送れた。
まぁ、唯一心残りは結婚相手を見つける事が出来なかった事だけ。
我が家みたいな領地なしほぼ平民に等しい男爵家にお婿さんに来る方なんてそう簡単にいる訳が無い。
「さあ、家に帰りましょう」
「あら、卒業記念パーティーに参加しなくて良いの?」
「良いのよ、だってパーティーに参加出来るのは男爵以上の令嬢令息だけだもの。我が家みたいなのはお呼びではないわ」
そう言うとお母様は苦笑いをした。
「貴女も変わったわねぇ……」
しみじみと言うお母様。
うん、私も自分でも変わったと思う。
まぁ変わらなきゃいけない状況になってしまったし私はそれを利用したんだけどね。
学園から帰ってきてお母様とささやかながらお祝いをしていると玄関のチャイムがなった。
「は~い、どなたですか、ってお兄様!」
「やぁ、遅くなってごめん。エリーナ、卒業おめでとう」
そう言ってお兄様は私に花束をくれた。
「まぁロイヤー、来てくれたの?」
「勿論ですよ、大事な妹なんですから。あ、そうそうやっぱりエリーナの想像していた事が起こったよ」
「あ、やっぱり?」
「あら、じゃあこれから大変ねぇ」
「ね?お母様、決断して正解だったでしょ」
「そうね、エリーナが犠牲になっていたかもしれないわね」
うん、やっぱりあの時、決断して正解だった。
私エリーナは元々は公爵令嬢だった。
お母様は男爵家、お父様は公爵家、所謂政略結婚という奴だ。
お母様の実家である男爵家を援助する代わりにお母様が嫁に入って私とお兄様が生まれた。
私はスクスクと何不自由なく育っていたのだがある日お父様が婚約を決めてきた、と言われた。
相手はこの国の王太子、お父様は私と王太子を結婚させて権力を更に拡大させようと思っていたんだろう。
しかし、私と王太子の仲には愛は生まれなかった。
王太子は我儘で自己中な典型的なお坊っちゃまで私も婚約者というより下働きみたいに扱われていた。
何せ初めて会った時にブサイク認定されたのだ。
コイツ〆たろか、と言うのが第一印象でこんな奴と結婚しなきゃいけないのか、と思うとお先真っ暗だった。
王妃教育も受けなきゃいけないし嫌でもコミュニケーションは取らなきゃいけないし、更に公爵令嬢としてお茶会という名のマウント取り合戦にも出なきゃいけない。
だんだんと公爵令嬢、というより貴族生活が嫌になり私はどうやったらこの状況を打破出来るのか考えるようになっていった。
一番良いのは没落だけどお父様は仕事では優秀なのでそう簡単に没落はしない。
じゃあ何か私がミスって婚約を解消すれば良いのか、と言えば家族同士の約束の為、私が何をしようが婚約は解消出来ない。
要は八方塞がりで悶々とした日々を送る中ある日突然チャンスはやってきた。
お父様の浮気発覚、しかも隠し子付き。
愛人が凸してきた事で事態が発覚した。
この日を以てお父様は敵認定となった。
お母様はショックで倒れ寝込む日々が続き見てられなかった。
私はお母様にお父様とは別れるべき、と進言した。
と同時に私はお母様に付いていく、と宣言した。
お母様は止めたけど今まで心に秘めていた事を吐き出した。
お母様は泣いて私の話を聞いてくれ、聞き終わった後は謝られた。
そしてお母様はお父様との離婚を決意した。
離婚はまぁ色々あった。
色々あったけど無事成立し私はお母様と共に公爵家を出て行った。
お兄様は跡取りという事で公爵家に残る事になり元お父様は愛人と再婚した。
ただお兄様は『あいつらには好きな様にはさせないよ、僕が跡を継いだらあいつらには地獄を見せてやる』と笑顔で言っていた。
何の事は無い、お兄様も怒っていたのだ。
当然だが私と王太子の婚約は白紙となった。
その時も直接のやり取りは無く私としては罵倒の一つでも浴びせたかったのが心残りだ。
国王様からは止められたけど王太子様にやられた事を一覧にして渡したら顔色が悪くなって謝罪されましたよ。
そして公爵令嬢から男爵令嬢となり生活もかなり変わった。
公爵令嬢時代はメイドや使用人がいて身の回りの事をしてくれたけど男爵令嬢になったら基本的に自分の事は自分でやるようになり家事炊事洗濯掃除を覚える事になった。
使えるお金も少なくなり贅沢は出来なくなった。
それでも私は全てから解放されて毎日が楽しかった。
そして貴族学院に通う事になるんだけど例の元お父様の隠し子も同い年で入学してきた。
しかもどういう訳か彼女が新たな王太子の婚約者になっていた。
それでも私には関係無いしクラスも違うので特に接する事も無かった。
ただ同じクラスにいた男爵令嬢が何故か王太子やその側近に気に入られ一緒にいる事があったみたいで偶にお兄様から元実家の様子を聞くんだけど例の隠し子はヒステリーを起こしていたらしい。
そして、現在に至る訳なんだけど……。
「まさか、小説みたいに卒業記念パーティーの場で婚約破棄を宣言するなんて……」
「あの方だったらやりますよ」
「どうなるのかしらね」
「ただアイツも嫌がらせをしていたみたいでしかも例の男爵令嬢を密かに暗殺させようと闇ギルドに依頼していたみたいだよ、どうも父上に頼んでいたらしい」
「予想以上のドロドロ……」
「当然だけど王家には筒抜けだから国王様からは関係者には厳しい沙汰があると思う。勿論公爵家にもね」
「お兄様はこれから大変ですね」
「後始末をするのも仕事の一つだからね。父上や義母義妹には退場してもらって爵位を返上するつもり」
その後、王太子は身分剥奪され追放処分、元お父様達は闇ギルドとの繋がりを問題視され処刑、公爵家は無くなり男爵令嬢は魅了を使っていた事が発覚してこちらも処刑。
お兄様は騎士団に所属していたけど退団して冒険者になった。
私はお母様と慎ましやかに平穏に過ごしている。