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003 気遣いと無神経

今話から出てくるフィータとは長さの単位です。

(1フィータ≒30センチメートル)


また作中で日本語由来の表現や言葉遊びが出てきた場合、外国語を日本語に意訳した結果だと思っていただければ助かります。

「へえ、なるほどね。てっきりブラウかと思ってたよ」

「そこまで小さくありません!」


 ブラウの身長って3フィータくらいだよ!

 私は5フィータ……は、ないけどさあ!

 でも小人種族のブラウと間違われるのはあんまりだ!


 いやブラウを馬鹿にする意図はないけど!

 背が低いの気にしてるのに!


「ごめんごめん、冗談だよ」


 本当だろうか、この人の言葉にはどうにも真剣味が感じられない。


「それより大丈夫? いくらロートでも結構しんどいでしょ」


 ロックさんが私が肩に担いだチンピラと、背負った大きなバッグを見て心配してくる。


「大丈夫ですよ? 私、ロートの中でもちょっとだけ、ちょっとだけですけど力が強いので。故郷でも力仕事は私の役割なんですよ。暴れた牛を受け止めたりとか」

「いやそれはちょっとってレベルじゃ、そもそも仕事でもな……いや、まあいいか。大丈夫ならいいんだけど、年下の女の子だけに担がせるわけにもいかないし俺も手伝うよ。……年下だよね?」

「15歳ですけど年上に見えます?」


 もしそう見えるなら私は助けてくれた恩人に喧嘩を売らなければいけなくなるんだけど。


「おっと、気に触ったらごめんね。知り合いにもブラウじゃないのにとても若々しい見た目をした年上の女性がいてね。もしかしたらと思っただけなんだ」

「……わかりました。あと運ぶのは私だけで大丈夫ですよ、1人の方が運びやすいので」


 私がそう答えるとロックさんは「悪いね」と断りを入れて前を歩き始めた。

 先導してくれるようなので私もロックさんの後ろをついて歩く。


 しかし、仮に私がすごい童顔だとしても見たところ三十前後のロックさんより年上なわけがないでしょうに。

 そういう発想に至るなんて、その知り合いはどれだけ実年齢と容姿がかけ離れているのか。

 いや、もしかしてロックさんが逆にものすごく老け顔なのかも。だとしたら自然と三十路扱いしたことを謝らないと。


「ちなみにロックさんはおいくつなんですか?」

「あれ、俺名乗ったっけ? ……ああ、いや、さっき電話で名前言ってたか。じゃ、一応自己紹介しておこう。俺はロック・シード、しがない会社員(リーマン)さ。お嬢ちゃんは?」

「アイリス・ブルーム、受験生です」


 名乗り合うとロックさんはチラリと目線だけをこちらに向けてニヤついた。


「で、俺の年齢か……そうだね、いくつに見える?」


 質問の鬱陶しさに思わず顔を(しか)めるとロックさんは困ったように笑い、歩みは止めずに両手を上げて肩をすくめた。


「ごめんごめん。そんな顔しないでよ、可愛い顔が台無しだ」


 いや会ったばかりの人に容姿を褒められても……。

 まあ、悪い気もしないけど正直警戒心のほうが勝つ。


「それでおいくつなんですか?」

「30だよ。ちょうど昨日誕生日でね、結構若いでしょ」

「え、あ、ソウデスネ。タンジョウビオメデトウゴザイマス」


 いやどんぴしゃだよ。

 どうやら謝る必要はないようだ、これからも正しく三十路扱いしよう。


「ありがとう。ま、この歳になると誕生日なんて嬉しいだけのものじゃないけどね。昨日も友達が誕生祝いの奢りだって言うからこの近場の酒場で飲んでたんだけどさ、祝酒っていうよりヤケ酒のつもりで飲んでたよ、ははは。友達はさっさと金だけ置いて帰るし、迫りくる老いがツラいわ、ひとりが寂しいわでつい飲み過ぎちまって最終列車も逃すし。歩いて帰るのもしんどいなあと思ってたら寝心地良さそうなベッドがあったからついそのまま寝ちゃったよね」


 すごい喋るなこの人。故郷のおばちゃんたちもお母ちゃんと一緒によく喋ってたけど同じ匂いがする。

 ていうかそのベッドとやらはさっきのゴミ袋の山のことを言っているんじゃないだろうな。

 いや言ってるんだろうな……。


 たぶん良い人なんだろうけど、間違いなくダメな側の大人だ。


「それにしても、それだけ力持ちなら俺が助けなくたって案外そのお兄さんくらい倒せたんじゃない?」

「この力は人に向けるものじゃありませんっ」


 あ、いけない。思ったよりも強い口調になってしまった。


「そ、それに手加減が苦手なので、たぶん抵抗したら大怪我させちゃってたかもしれませんし!」


 ごまかすように言葉を続ける。

 気分を害したかな、と前を歩くロックさんの様子を伺う。


「へえ、そりゃ大変だね」


 どうやらロックさんはさほど気にしてはいないようだった。

 他人事のように相槌を打つ様子を見て私もホッと息を吐く。


 ……牛や豚相手なら人よりもずっと頑丈だから取っ組み合っても怪我なんてさせることはなかったけど、人にこの力を向けるとなると強い忌避感がある。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()


 首を振る。

 もうあんなことは起こしたくない。

 いや、起こすものか。


 絶対に。


「それで、その力を活かしてダンジョンに潜るために養成学校へ通いたい感じ?」


 ロックさんからの問いかけに、沈みかけた意識が浮上する。


「あ、はい。その……私が人より強い力を持って生まれたことにはきっと意味があると思うんです。なので、学校で色々学んで、将来は立派な探索者になれたらなって」


 初対面の人に話すようなことでも無い気がするけど、たぶん私は肯定されたいのだろう。

 自分の進む道が間違ってないと、知古ではない大人に太鼓判を押して欲しいのだ。


「すごく真面目で、しっかりしてるんだね。偉いなあ。でも持って生まれた力に特別な意味なんて無いと思うよ?」


 ………………。

 思わずうつむいて歯を食いしばる。


 なんて無神経なんだ、この男。


 生まれ持った力に意味がない?

 だったら、人を平気で傷つける力を持つ私の人生にも――意味がないというのだろうか。

 そんなの絶対に認めたくない。


 ……はあ。


 だけどそれをここで口に出しても変に角が立つだけだよね。

 ロックさんだって私を否定するつもりで言ったんじゃないだろう。

 私の意見に対して、彼個人の見解を口にしただけだ。


 だから、気にすることはない。

 笑え、私。


「あはは、そうかもしれませんね」


 気分を変えないと。

 何か別の話題……。


「あ、あー、そういえばこのお兄さんに何をしたんですか? 全然目を覚まさないんですけど……」

「ん? 悪いけどそりゃ企業秘密だ。まあ安心してよ、しばらくは何をしても目を覚さないからさ」

「そうですか……」


 安心して良いのだろうか……気付いたら死体を運んでたとか嫌だよ私は。


 ◇


 しばらく沈黙が続く中、入り組んだ路地を勝手知ったるという風にスイスイと迷いなく歩くロックさん。

 こうして見るとだいぶ奥の方まで来ていたんだな……無用心にも程があったかも。かもじゃないな、あった。見ないものばかりの都会に浮かれてた、反省しよう。


 そうだ、見ないものばかりといえば。


「あの、さっき言ってたアームズって何なんですか?」

「ん、これかい?」


 そう言ってロックさんは腰のベルトに差し込んだ警棒に触れる。


「そうだねえ、マナドライブは知ってる?」

「もちろんですよ、マナスフィアから取り出したマナを原動力に動く道具全般のことですよね?」

「おお、完璧な回答だね。さすがは受験生だ」

「いえいえ、それほどでも……」


 昨日勉強しててよかったー。


「その中でも戦闘用のマナドライブを総じてアームズって言うのさ」

「へええ。そうなんですね、勉強になります」

「アームズには他のマナドライブにない特徴がいくつかあってね」

「……あって?」

「それは学校で学んでくださいな」


 そこまで言っておいて!?


「いや別に意地悪を言ってるわけじゃないんだよ。ほら、もう大通りだ」

「あ……」


 確かにもう目の前に大通りの出口が近づいているようだった。


「さて、ここからは俺が運ぶよ。変に目立つだろうしね」


 ロックさんはそう言いながらチンピラを私から受け取って肩に担いだ。


「あ、ありがとうございます」

「こちらこそここまで運んでくれてありがとね。大通りに出て左に行けばすぐにバスターミナルがあるから、そこから学校前行きのバスに乗るといい。今ならまだ余裕を持って間に合うはずさ」


 どうやらロックさんはこの場に残るらしい。

 たぶん、一緒に大通りに出ると私に迷惑がかかるのを気にしてのことだと思う。


 そこまでの気遣いが出来るならどうして……いや、よそう。


「あの、改めて助けていただきありがとうございました!」

「気にしないで、たまたま目を覚ましたところに君がいただけだからさ。成り行きだよ。まあこれに懲りたら女の子ひとりで路地裏なんかには入らないこと、いいね?」

「はい! 重ね重ねありがとうございます!」


 私は深く頭を下げてお礼を言う。


「ははは、そこまで礼儀正しいなら面接は大丈夫そうだね。それに筆記試験はわかんないけど、実技は結構良いとこいくと思ってるんだよね、俺は」

「え?」


 私が驚いて顔をあげると、そこにはロックさんの自信に溢れた笑みがあった。

 探索者養成学校の実技試験は戦闘能力を測るものだと聞いたけど、私の何を見て良い結果が出せると思ったんだろう。


「俺の見立てじゃ、君は例年の受験生よりだいぶ強いぜ。自信を持っていい」

「……どうしてそんなことがわかるんですか?」


 力が強いからだろうか?


 だけどそれは他のロートも同じのはずだ。

 それは……まあ、多少、力だけなら私は特別強いとは思うけどさ。


 訝しむ私の内心を読んだかのようにロックさんは微笑む。


「単純な腕力だけでそう言ってるんじゃないよ? 体幹、度胸、色々あるけど一番は、」


 ロックさんはそこで一度区切って、自分の瞳を指差した。


「君はかなり、見る“目”が良い」

都合上しばらく世界観に関係する用語などが多く出てきます。

一度に出しすぎないように気をつけているつもりですが覚えづらかったらすみません。

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