000 プロローグ
よろしくお願いします。
夜が照らされていた。
長旅を終えて駅構内から一歩踏み出せば、列車に揺られた道中の闇を忘れたかのように世界は光で満ち溢れていた。
ともすれば昼間より明るいのではないかと錯覚するほどだ。
「綺麗……」
輝きの中で立ち尽くす少女を見て、おそらく多くの人がまず真っ先に抱く印象は「白い」ということであろう。
ウルフボブにカットされた髪は毛先こそわずかに紫がかっているものの雪のような白髪であるし、その上に被る大きめのキャスケット帽もオレンジ色を差し色に白を基調としたものだ。
また同じ色調を使ったサマージャケットと七分丈のパンツも彼女の白い印象に拍車を掛けていた。
さらに彼女の背にある巨大と呼んで差し支えのないほど大きいリュックサックまで、白をメインにしている徹底ぶりである。
唯一、街の光を反射する少女の瞳だけが赤く輝いていた。
初めての都会に舞い上がった心の分、より強く。
「うわぁ、すごいなぁ……」
きょろきょろと忙しくなく辺りを見渡す少女の姿はどこからどう見てもお上りさんである。
時刻は23時を回っているが都会故に人通りが多く、そのうちの幾人かが少女の姿を見てくすりと微笑んだ。
景色に夢中で自分が笑われていることにも気付かない少女の名を、アイリス・ブルームと言う。
世界に北南二つしか無い大陸のうちの北側にあるウルゲア大陸の、最北西端にあるロンディニウムという国のさらに北端にある片田舎からはるばる南端にある首都アルヴァまで高等部の学院に通うために入京してきた、どこにでもいる普通の15歳の少女だ。
「これが全部、マナの輝き……」
マナ。
世界に7つ存在するダンジョンの中にある特殊な鉱物を加工した鉱石からしか取り出せない、近年ようやく利用可能になったエネルギー。
そのエネルギーは現代の生活になくてはならない高効率の動力かつ、魔術を使用するために必要な魔力に変換されている。
アイリスとてマナが使われた光源を見るのは初めてではないが、彼女の故郷の村では未だに着火式のオイルランプが使われており、最寄りの町ですら田舎町にすぎないのでここまで多くのマナは使われていない。
感動の収まらないアイリスが振り向いて顔を上げれば、赤レンガで建てられたゴシック・リヴァイヴァル建築の駅の上で背の高い時計塔が文字盤を光り輝かせていた。
「あ」
時刻を見てチェックインの時間が迫っていることを思い出したアイリスは、ジャケットのポケットから地図を取り出して辺りと地図を交互に見る。
ほどなくして目的のホテルの場所に当たりをつけたアイリスは地図を片手に歩き出す。
これから始める新生活に、夢と希望を抱いて。
時は統歴2010年。
蒸気機関や電気エネルギーの発見により科学の時代だと言われていた20世紀の終わりに、魔力エネルギーが発見されて30年。
研究の進んだ現在、21世紀は魔術の時代だと言われていた。
現在、ダンジョンのみに存在する魔力の元になる鉱物を求めて多くの人々が集まり、ダンジョン都市は繁栄の一途を辿っている。
元々魔力が利用可能になる前からダンジョンには数多くの資源が存在しており、様々な種族がそれぞれの目的を抱いてダンジョンを目指していた。
ある者は、力の振るう場所を求めて。
ある者は、己の野望を果たすために。
ある者は、英雄になりたいと願って。
これは7つのダンジョン都市のひとつ、アルヴァを舞台に魔術の時代に生まれたありふれた者たちの物語。
すなわち、路傍の物語である。
自分の読みたい物語を書いていきます。
お付き合い頂けると嬉しいです。