お年頃
「ぐぬぬ・・・なんだ、このギラギラ感は。全然…読めん!!」
私はスマホ画面の小さな文字を読めない状況下、ただひたすらに困惑している。
…昼休み、カフェでお気に入りの小説でも読もうかとスマホアプリを起動させたら…これだよ!!
ド近眼の私、普段は眼鏡をかけてぼんやりした視界で過ごすことが多いのだけど、いわゆるめかし込んでいかねばならない場所ではコンタクトレンズを装着している。
本日はですね、久々にスーツを着る羽目になってですね。
顔面コーティングも甚だしくですね、いつもの間抜けっぷりをばっちり隠し込んでですね?
オサレなカフェで窓際に佇み、クールにきめつつ…スマホ開いたらこの仕打ち。
スマホ画面を思わず手元から遠ざけ、しかめっ面をしたら、通行人のおじさんに何やら温かい目を向けられた。
むむ、これはもしや、老眼って大変ですよね、わかりますのサインなのでは?!
違います、私はたまたま開いたスマホ画面にね、ニュース速報がね?
なんか気分悪くなるような記事が載ってて目ざとく気が付いて思わず顔をしかめただけであって!!
言い訳しようにも、おじさんはとうの昔に視界の端に消えている。
…ああ、なんてこった。
思わず目頭を押さえた私のもとに、オサレなお兄ちゃんがコーヒーを持ってきた。
「お待たせいたしました、ごゆっくり。」
「ありがとう。」
都会のオサレカフェだけあるな、信じられないレベルでイケメンだよ!!
にっこり笑ったその口元に八重歯がっ!!
くおおおおお!!ド直球にド真ん中イケメンだ!!
ああ、こんなにもイケてる兄ちゃんのお顔をくっきりはっきり見えるというのに、なぜ。
…なぜ、手元の小さな文字が見えないのか。
普段目の前10センチで物を見ているド近眼だというのに、なぜ。
なぜ、手元の小さな文字が見えないのか。
…コンタクトレンズを装着するとですね、手元の文字がね?
最近、遠いところも近いところもいまいちピントが合わなくなってしまったのですよ。
これが衰えるという事か。
これが老眼というものか。
まだまだ若いというのに、なんてこった。
…まだまだ若いんだってば!!
違う違う!!
昨日夜遅くまではりきって小説書いてたからさ、目が疲れちゃってさ!!!
うんうん、今日は目を休めて大事を取ろう!!
ごくり、ごくり。
言い訳をしつつ、香りを楽しみ過ぎたコーヒーは、少し冷めてしまっていた。
少々長居をしてしまっていたみたいだ。
…くそう、本当はもっとゆっくり小説を読みながらマッタリするつもりだったのに!
…早く家帰って、コンタクトも厳重装備も顔面ブースターも全部剥がして小説読み漁ろう!!
私は、伝票立てに丸まっている紙を手に取り、お支払金額を確認しようとして。
「…っ!!」
細かい文字にクラクラと来てしまったので…値段を確認することなくレジに向かった。
大丈夫でしょ、値段見ないで注文しちゃったけど、コーヒー一杯だし、1000円は超えないはず。
伝票など見なくても、お金が足りなくて焦るような事態にはならないはず、多分。
「780円です。」
レジのお姉さんが、にっこり笑ってお会計をしてくれている。
うんうん、足りる足りる、ああでも小銭増えるのいやかも、そうだ、電子決済にしようかな…。
「ええと。ぺいぺ・・・」
私はスマホを開いて、電子決済アプリを使おうとして…金額入力画面をひと目見て、ですね。
「ッ、やっぱり現金にします!!」
…画面の見辛さに、現金払いを選んだのであった。