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ひとりごと  作者: 遊々
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自転車

2020年08月18日

 私はその日、郵便局へ行きました。

 本当は仕事が休みだったので一日ずっと家に引きこもっている予定だったのですが、前日に弟に郵便局での用事を頼まれたので渋々家を出ることにしたのです。

 私は実家暮らしなのですが、平日休みなので家族にたまに用事を頼まれることがあり、まあ仕方ないかと引き受けました。

 それを後々後悔するなんて知らずに。


 まずどこの郵便局に行くかを考えました。

 わたしがよく行く郵便局は住んでいるとこから一駅隣の、駅近く(近いといっても七、八分かかる)のとこでした。職場がその駅から近いので割と利用します。

 でも人が多いとこに行きたくないし、電車も本数が滅茶苦茶多いって訳でもないので面倒だなと心の中で却下。さてどこに行こうかと思った時に家から車で五分くらいの郵便局を思い出しました。


 普段私は徒歩を好んでいて(車の免許を持ってはいるが運転がめっちゃ嫌い)、歩いて行くには遠いなぁとため息をつきたくなりました。

 最近の尋常じゃないほどの暑さは普段の徒歩生活で身にしみています。特にその日はカラッカラに晴れていて、炎天下のコンクリートの地面を踏み締めて歩くのは躊躇われました。

 どうすっかなーと思っていた時、ふと家族みんなが殆ど使っていない自転車を思い出しました。


「これだっ!」


 自転車なら歩いて行くよりも早く用事を終わらせられる。

 もうそれが天啓のように思えて、さっそく着替えて家の鍵を閉め、自転車に乗ります。

 今思えばあれは天啓なんかじゃなく、悪魔の囁きだったのでは?とすら思いますけど。


 私は中学生の頃に自転車通学をしてましたが、それ以降はほぼ自転車に乗らない生活を送っていました。

 中学生以降の学生生活では徒歩か電車、社会人になってからは車。自転車を利用する機会なんてずっとなかったのです。だからきっとあんなに気軽に「自転車に乗って行くか」なんて思えたんでしょうね。


 久々すぎる自転車の運転は最初怖くはありましたが、人も車もそれほど通っていない道をゆっくりと進んでいればだんだん慣れてきて、なんだか学生の頃に戻ったみたいで少し楽しくもありました。

 でもそれも長くは続かず、私の顔には汗が流れ、疲労の色が強く浮かびます。


「つら…」


 そんな言葉が意図せず口から漏れました。

 いや、本当に辛かった。

 歩くことに慣れていた足は、自転車を漕ぐための筋肉なんて備えてなくて、もう漕ぎ出して三分くらいで私の太ももが悲鳴を上げていました。


 なんで学生の頃と変わらず、疲れ知らずで漕げるなんて思ったんでしょうね。

 途中で「これ降りて押して歩いて行ったほうがマシなのでは?」と何度思ったことか…。

 自転車で何分走ったんでしょうか。十分弱くらいですかね。その時間が本当に地獄みたいで辛すぎました。


 郵便局に着く頃には汗びっしょりで、郵便局のお姉さんに郵便物出す時息が上がってました。

 心の中では私の様子に「ん?」と思ったかもしれませんが、顔色一つ変えずに淡々と仕事をしてくれました。プロですね。素敵。


 用事を終えて郵便局の椅子で息を整え、とめた自転車のところに向かいます。

 自転車を見た時に「マジか…」と思わず漏れた本音に苦笑するしかありません。


 しょうがねえ、もう行くしかねぇ。

 そんなどこか投げやりな気持ちで自転車のペダルに足をかけ、私は再び来た道を戻って行きます。

 帰りは太腿の疲労が最初からマックス値叩き出してたので、しんどくてしんどくてもう何も考えずにひたすらペダルを漕ぎ続けました。

 あれはもはやセルフ拷問。何故自転車を押して帰るという発想にならなかったのか、甚だ不思議である。


 自転車を漕いでいる途中、視界の隅にチラリと自分の影が地面に落ちているのが見えました。

 中学生の頃とは何もかもが変わったように思えるのに、落ちる影だけは昔と変わらなくて。なんだか懐かしいような、ちょっとノスタルジックな気持ちになりました。


 まあ影は変わらなくとも、私の肉体の変化は痛感しましたけどね。

 あの頃は運動部に所属していて、今に比べれば筋力もかなりありました。だから自転車を漕いだってそんなに苦じゃなかった。

 でも大人になるにつれ、私はスポーツというものから縁遠くなり、筋力は低下し、体は老化していく。

(いや老化といってもまだ二十代は若いから。そう信じてるから)


 あの頃とたいして自分という人間は変わらず子供に思えるのに、肉体だけは確かに歳とってんだなぁ。

 ちょっぴりセンチメンタルになりました。


 家に着くともう立っているのもやっとで、足を引き摺るようにして家の中に入り、つけっぱなしにしていて冷房のきいたリビングのソファに倒れ込みました。

 全身汗まみれでタオルで顔拭きたいなぁと思ったけどもう立ち上がれず、近くにあったティッシュを二枚くらい取って顔の汗を拭いました。贅沢なティッシュの使い方よ。

 その後なんとか気力で近くにあった扇風機のスイッチを押して、ソファの上で荒い息が落ち着くのをただただ待ちました。


 こんなに疲労したの社会人になってから初めてなのでは?

 そんなレベルの疲労感でした。

(Switchのゲームソフト「フィットボクシング」をやったときが最高に疲れたのですが、それを見事更新しました)


 もう自転車は二度と漕がぬ。


 私はそう強く決意して、体の熱が冷めるのを待っていたのでした。



これをどこかに吐き出したくて、こういう形で投稿を始めたと言っても過言ではない。

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