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探偵警部ちゃんの事件簿

作者: せん


 成宮亜子25歳。

 ・・・うん。もちろん彼氏などいませんよ。。生まれてこのかた・・ってわけでもないし、仕事一筋・・ってわけでもないけどね。


 けれども、本日12月25日に予定など入っておりません。

 しかも平日だもんね。もっちろんお仕事でございますよぉ。


 そして寒空の元、道行くカップルの多さに辟易しながら、人探し。。

 決してイチャイチャが羨ましくて妬んでいるわけでは。。。ないはずです。



「こんな日に家出とかすんじゃねぇよ。。」

 っと。思わず口汚く独り言を口走ってしまった。。いけないいけない。。

 やさぐれるにはまだ早い。。


 私は何を隠そう愛岐県警本部の”警部”様ですよ。。このぴっちぴちの25歳でね!!

 ”キャリア”でもなんでもない私が、すでに”警部”。小躍りしたっていいくらいの出世なんですよ。


 とか言いつつも、そりゃ裏があるわけで。。

 ホントの重役でしたら、こんな日に家出人探しとかしておりませんわ。。

 なーんて、物思いに耽っていたところで、家出人発見の連絡が入り、本部への帰路に着きました。



 本部へと戻れば。。。

「おかえり警部ちゃん!!帰ってきて早々で悪いんだけどねぇ。お茶淹れてくれないかな?」

 私の部下のおっちゃんが、新聞から顔を上げて老眼鏡の隙間から私を見て指示をくれます。

 うん。私が上司ね。。


「はーい。。ちょっと待っててくださいね。」

 思う所は無きにしも非ずではあるのだが。。もちろん私も休憩したいので、ポットへと向かいます。


「おっ。警部ちゃん。お茶淹れんの?俺のもお願い!!」

 たまたま通りすがった先輩に目ざとく見つけられたぁ。。

 

「チッ。。タイミングいいなっ。」

 と毒づく私の隣には早くも先輩がやってきて、

「まぁまぁ。実のところ、警部ちゃんを待ってたワケよ。。これ、差し入れでもらってさ。」

 馴れ馴れしく私の肩を抱きよせると、その手には。。


「あ~~~~!!ムッシュブランの包みじゃないですかぁ。」

 私の目は、その包み紙に釘付け。東都の超一流有名店。。

「ふっふっふ。さっきこの俺様に向けて舌打ちしたよな?これ。。やらねぇぞ?」

 黒い笑みを浮かべた先輩は私の目の前で、その紙袋を揺らめかせます。


「えーっ?聞き間違いじゃないですかぁ?先輩のこと、だーい好きな私が、そんなこと言うと思いますぅ?愛情表現ですよぉ。」

 私は感情のこもらない台詞を棒読みで言いながら、紙袋を掴もうとするものの、リーチが違い過ぎて両手は見事に空を切り続けます。


「お前の”愛情”はこの紙袋の中身なっ!!」

「バレておりましたか。。てへっ。」

 可愛らしく繕ってみましたが、デコピンがお見舞いされてしまった。

 暴力はんたーい!!とか思うが、まぁ。ここはお菓子に免じて過剰なスキンシップととらえてやらないくもないのです。。


 

 そんなくだらない遣り取りをしつつも、しっかりとそれぞれの好みのお茶を淹れ、小さくて壊れかけてて古びている応接テーブルの上には、ティータイムの用意ができました。


『いっただきまーす!!』

 3人でパチンと手を合わせて、いつも通りのまったりとした午後が始まるのです。



「でさ。お前、特務はどうよ?」

 先輩の質問にジト目になる私。。

「・・・は?今さらですか?聞きます?と・く・む・か!!」

 喰ってかかるには、訳があるのです。


 私の所属する”特務課”。

 本部肝いりで創設されましたが。。課員は私(警部)と山本さん通称”やっさん”(ちなみに巡査部長)の二人っきり。本部の課ともなれば、警部では課長にはなれません。ですが、この課に課長になってくれる人もおらず、課長とか係長なんかのは役職名は無しでいいよね~。と本部長の一言。

 つか、お前の”肝いり”だろうがっ!!と叫びたくもなりました。

 

 ちなみに、”特務課”の名称ですが、なんか、本部長が好きなマンガに出てくるんですって。

 タイムパトローラーが活躍する”特務庁”という組織。。

「なんか。かっこいいよね。」

 鶴の一声で、つけられました。。


 まぁしょうがない。。マスコミ対策でしたから。。

 そして私が”警部”となったのもそれですから。。


 


 とりあえず、私の経歴はというと。。

 なんだかんだ愛想が良かったもので。成績優秀では無かったのですが、内申書はそれとなく良く。。

 公立高校へも推薦。公立大学へも、突然の辞退者が出たために空きを埋めるために推薦をもらい、難なくパス。。そんなこんなで受験戦争を知らない私は、見事就職戦争の荒波に負け。。全滅を喰らいました。


 行く当ても無く途方に暮れていたところ、ゼミの教授が結構有名人でして。。私から見ればただのおじいちゃんではありましたが。。

「亜子ちゃん。就職浪人するなら、僕がやってる大学院のゼミに来る?」

「え~。そうですねぇ。ヒマだから行っきまーす!」

 二つ返事でした。

 だって、就職浪人中の暇つぶしに遊びにおいで。って誘ってもらったと思ったんですもの。。


 気付けば、大学院生になっておりました。


 そして、またもや就職戦争がぁっ。。。

 これがなんとも。。大学の時よりもさらにキツイのです。

 ”女で、公立の大学院卒?プライド高いんじゃね?”

 ”地味に年くってて、扱いづらいわっ”

 などなどの偏見の固まりですよ。。面接じゃあそれを隠すこともしない面接官。


 当然落ちまくり。。ヤバイっ。。と大学院の研究室で突っ伏していると。。


「亜子ちゃ~ん。休憩中ごめんねぇ。。友達が来たからお茶淹れてくれると助かるんだけど。」

 と教授が帰ってきました。後ろには50代くらいのダンディなおじさまを連れて。

「はーい。ちょっとお待ち下さいね~。お客様でしたら、とっておきの茶葉を。。紅茶召し上がれます?」

「ありがとう。では、お嬢さんにはこちらを。」

 ダンディなおじさまは、高級チョコレートの箱をくれました。

 めっちゃいい人です。。なので、すっごく気合いを入れて紅茶を入れさせていただきました。


 その数日後。。

「亜子ちゃ~ん。就職先ってもう決まっちゃった?君を是非に欲しいって所があるんだけども。」

 教授の一言に飛びつきました。


 それがここ、愛岐県警でした。

 あのダンディなおじさま。。県警人事の偉い人。。教授の教え子だったそうなのですが。。

 私を気に入ってくださったようです。体育会系の職場。。美味しくお茶を淹れてくれる人がいないんですって。。キャリアで腰掛けでここに来ているお坊ちゃまには、マズイお茶を出され続ける日々が辛かったそうです。。

 いや。。頼むよキャリアさん。。そんなことでスカウトは。。

 ともちろん思いましたが、入るに決まってるじゃないですかぁ。コネを使うなんて汚い?知りませんよ。。無職か公務員か。の2択。。私の中では公務員(コネ)一択です!!


 てなわけで、無事に就職。

 警察学校を終え、交番(ハコ)勤務もなんとか終えて、希望は交通課。窓口業務がダントツ多い課ですから、女子は高確率で窓口に廻りますね。。。月~金の事務業務、土日祝日は基本休み。夜勤といえば、当直だけ。

 私は脳筋(たいりょく)勝負ではありませんから、ここも消去法で事務狙い1択でした。


 だが、現実は厳しく。。


 何故か交通立番中や、駆り出された検問中やら、ねずみ取り中に、未解決事件の犯人を偶然にも見つけてしまい。。

 3件を連続逮捕に繋げ。。それも全国指名手配の凶悪犯な上に、別件があり。。さらには別件もかなり大きな事件で。


 自白させるのに、私の独り言が決め手となっておりましたので。。

 ”まるで推理小説を読んでいるかのよう。” ”田舎県警に名探偵現る。”などなど。ゴシップ誌が面白おかしく書き立てるもので。。


 本部長が、ここぞとばかりにマスコミに打って出ました。

 彼の気持ちとしては、もっと上を目指したいのだそうです。キャリア組からすると、田舎の県警本部長は不本意極まりないそうで。。

「俺はもっと大都市の本部長に納まるべき人間なんだ!」

 と豪語しておられました。

 うん。出世できないのはそういうところ。。教えて差し上げるべきでしょうか?


 で、マスコミを使ってご自身の評価を上げる作戦に打って出たのです。

 


「成宮君。今回の検挙素晴らしいね。。というわけで2階級特進ね。」

「はぁ?」

 廊下ですれ違いざまに伝えることでしょうか?私が素っ頓狂な声を上げたのは仕方ないと思います。

 軍隊じゃないしさ。。殉職もしてないのに、2階級特進て。。。



 冗談かと思いきや、その日の午後には辞令書をもらい。。

 そのままこの部屋を割り当てられました。


 あれ?ここって。。倉庫だったよね?という言葉は、頑張って飲み込ませていただきました。

 埃っぽく、要らない机や棚ががっちゃがちゃと放置された、薄暗い部屋を割り当てられました。


 マスコミ発表されれば、私の童顔もあいまって、

「県警肝いりで”特務課”新設!!探偵警部ちゃんの今後の活躍は?」

 などとやっぱり面白おかしく書き立てられ、私のあだ名は”探偵警部ちゃん”となってしまいました。



 そして今日に至るのです。


「まぁな。。名前だけだもんなぁ。。今日も家出人の捜索にあたったんだろ?」

「すぐに見つかって良かったです。」

「昨日は交通規制してたよな?」

「どこぞの偉いさんがお越しで信号係でした。」

「ちなみに。。特務って何部だったけ?」

「・・・・。」

 先輩の最後の質問に思わず無言になってしまったのは仕方ないのです。


 だって。。な い ん で す !!



 県警には総務部・警務部・刑事部・生活安全部・交通部などなど。まだありますが、大まかには皆さんがよくお聞きになる部がありまして、各署では、その部ごとの”課”を名乗ります。

 絶対にどっかの”部”に所属しているものなのです。


 ですが、思いつきで新設した課。。しかも日数も無く。。

 なので全然なんにも考えられていなかった様子。


「成宮君はさ~。全ての未解決事件とかぁ、携わるワケでしょう?となると、”部”とかの縛りは無くしておいた方が、動きやすいよね?そうしたら必要な部課員を成宮君が使えるでしょ?」

 と困った本部長がテキトーな言い訳をのたまわりましたよ。。

 完全に後付の言い訳です。


 ですが、本部長命令です。階級社会です。誰も異論など挟めませんよ。。


 だから、無所属の私は、どの部課員も使える。。だったはずが。

 どの部課員も特務課を使える。という状況に。。


 ちなみにやっさんは心臓に持病がありますので、窓際です。現場に行けるわけございません。

 私が検挙してきたら、書記係をやるためだけにいます。表向きは。。

 犯人見つけたら、各課へ引き渡すので、特務で取り調べやら調書など発生することはないです。なので、行き場の無かったやっさんは、ここへ配属となりました。

 ということで、日々の人手が足りない部署へ元気(ひま)な”警部ちゃん”はお手伝い係。。となっているのです。



「助っ人に駆り出されるくらいなら、なんか一発デカイ事件に手ぇつければ?」

「そんな簡単に凶悪犯歩いてないですってぇ。。こないだのはたまたま。」

「たまたまが3回重なれば、もはや必然。」

 先輩はどっかのアニメでも見たのでしょうか。。机に肘ついて両手を顔の前で組み、キリッと言い放ちます。

「なわけないでしょう?」

 アホらしくてツッコミを入れておきます。

「おじさん、役に立たなくてごめんねぇ。」

 やっさんはいつもニコニコです。


 やっぱり今日も平和な”特務課”。。愚痴りながらも美味しいお菓子をいただいております。



「ところでお前さ。今日クリスマスだろ?予定あんの?」

「あると思います?」

 軽~い先輩の声に、ムスッとして答えると、

「だと思って声掛けたに決まってんだろ。」

 あぁ。。決まってたんだぁと項垂れます。


「ちょ。今晩つきあえよ。定時に迎えに来るからさ。」

「・・え?ちょっと先輩?」

 慌てる私を尻目に、先輩はあっという間にひらひらと手を振りながら去っていきました。


「あらあら警部ちゃん。。デートのお誘いだねぇ。若いっていいねぇ。」

 ヒューヒューとやっさんがからかって来ます。

「どう見ても違うでしょう?」

 私は頭が痛くなってきました。。大抵先輩が飲みに誘ってくれる時はろくな事がないのです。


 

 そしてやっぱり。


「おーい。亜子ぉ。。迎えに来たぜ。」

 ん?と思います。いつも名前で呼ぶことなどありません。というか、めっちゃ馴れ馴れしく甘~く呼ばれた気がします。

 いや。気のせいじゃねぇな。。その肩の手、降ろせよ。。と自分の肩に置かれた先輩の手をジトンと一つ見てる間に、さらに抱き寄せられて、つい睨みをきかせてしまいました。


「上手く合わせてくれよ。」

 と耳元で囁かれました。

「ん?」と思って見てみれば。。。


 女性二人が揉めている模様。。

 しかも話している内容を聞く限り。。先輩のダブルブッキング。。


「悪い。亜子が本命だったんだ。。俺のことはどんなに罵ってくれても構わないが。。亜子にだけはその矛先を向けないでくれ。。」

 と言うと、先輩は私の髪に顔を埋めて来ます。。気持ち悪いわっ。。という私と同じ感情を女性二人も持った様子。


「バッカみたい。。」

「もう知らないんだから!!」

 冷めきったお姉様と感情が振り切れたお嬢さん。。その二人の横を先輩は私にぞっこんですアピールをしながら甘々にエスコートして。。

 他部署のみんなからの痛い視線をかいくぐり、本部を出ました。



「ちょ。先輩。。修羅場なんて聞いてませんって。。巻き込まないでくださいよぉ。」

 外に出た瞬間、私は抗議します。

「悪ぃ悪ぃ。。そのかわり、ホテルレガルトのスカイラウンジでおごるからさ。」

 先輩は肩を抱いていた手を離すと、私の頭をぽんぽんと撫でて。。エサをぶら下げてきました。


「・・・うん。。レガルトのスカイラウンジか。。悪くない。」

 ついつい甘い餌に釣られます。。だって。。一流ホテルですよ?高級ですよ?私のお給料じゃ入れませんよ。。

 ちなみに先輩はボンボンです。金持ちです。そしてイケメンです。警察にいるのも暇つぶしです。(これはたぶん。。)何もしなくても不動産やら株やらでバンバンお金が入ってくるらしいのです。

 ここは甘えましょう。


 しかーし。ここでハタと気付きます。

「うわ。。普段着。」

 自分の姿を思い出します。。安物のコートに、季節外れの安物スーツ。。靴もくたびれてます。。


「しゃあねぇ。ちょっと寄り道だな。」

 先輩が何やらメールをポチポチ。。

 

 そして連れられてきたのは、ちょっと裏路地へ入ったオシャレな洋館。


「いらっしゃいませ。」

 上品な”マダム”然とした人に迎え入れられます。

「頼むわ。」

 と先輩は私の背を押してマダムの前へ。


「まぁまぁ可愛らしいお嬢様だこと。さぁこちらへ。」

 何が?と聞くタイミングを逸するほどに、あっという間に連れ去られました。。


 奥の部屋には煌びやかな衣装の数々。。ここどこよ?

 私の頭の中には???しか浮かびません。。想像の斜め上どころか、私の生きてきた人生にはない状況に軽くパニックで、マダム他、何人もの人に、服やら衣装やら髪やらを触られているものの、何をされているのかさえも飲み込めず。。なすがまま。


 そして。。


「おぉ。馬子にも衣装だな。」

 先輩が軽く笑います。

「何を仰います。お嬢様がお綺麗でございますから。」

 とマダムに言われます。

 そして姿見を覗いて。。。

「誰これ。」

「お前だろ。」

「いや。特殊メイクっしょ?」

「お前だろ。。」

「・・・・。」

 またもやパニックです。。どこの深窓の令嬢かと思うかのような仕上がりです。

 もはや別人が鏡の中にいました。。



「お嬢様のお洋服はいかがなさいます?」

「あぁ。レガルトに行くから、部屋に置いといて。」

「畏まりました。」

 マダムが頭を下げると、先輩はいつもどおりひらひらと手を振って店を出ます。


「先輩?先輩の部屋に私の服って。。帰りが困りますぅ。」

「あ?だから俺の部屋だろうが。。レガルトの部屋で着替えれば、帰りもラクだろ?」

「・・・え?部屋って。。え?」

 私は”ホテルの部屋”っていうワードで。。ちょっとヤラしいことを想像して火照る頬を両手で覆います。


「お前さ、エロイこと想像してんの?」

「え?いや。そんなことない。。くもないですけど。。部屋っていうから。。」

「ペントハウスがあるんだよ。。常時あるから、お前のために部屋取ったってワケじゃないからな?残念だったな。」

 悪戯っぽい笑顔を向けてきます。。つーかペントハウスって。。。


「腐れボンボンがっ。」

 思わず罵ってしまいました。

「ははっ。それでこそ警部ちゃんだな。てか、クリスマスのホテルじゃ、”警部ちゃん”だとか”成宮”はマズイから、今日は”亜子”でいくからな?」

「あぁ。まぁ。確かに。」

 ここまでドレスアップして”警部ちゃん”も”成宮”もないわな。。周囲が”どんな関係よ?”って気になって聞き耳立てるわっ。



「よし。じゃここからな?」

 ホテルのドアマンの前に立つと、先輩が曲げた肘を出してきます。

「・・・ん?この手を取れと?ここはニホンですが?」

「中見てみろよ?」

 促されてロビーを見れば。。ニホン人はもちろん、外国人も多い。流石は一流ホテル。。

 煌びやかな衣装でスマートにエスコートする人される人。。


 ここにマジで入っていくの?という目線に。

 お前来たいっつったよな?という先輩の目。。

 いや。ここまでとは予想しておりませんで。。との目配せに。

 だからドレスアップさせただろうが。という先輩の目。。


「さぁ。どうぞ。」

 私たちの遣り取りをにこやかな笑顔で見ていたドアマンが絶妙なタイミングで、優雅に扉を開けてくれました。



 足を踏み入れれば、映画の世界のような煌めきが。。

 あまりのキラキラに、目がぁ。目がぁ~。と思わず叫びそうになりました。


 先輩は慣れているようで私の歩調に合わせながらも颯爽とエレベーターへと向かい。。

 スカイラウンジへと。。


 もう超シック。。超大人の空間。。みんななんかお喋りしてますけど、ぜんっぜんガヤガヤしていません。

 こうなると、ど庶民には、ガヤガヤうるさい居酒屋が恋しくなります。。


 スマートに先輩が何やら注文し。。

 途中”総支配人”というプレートをつけた人が先輩に挨拶に来。。

 何を飲んだのか何を食べたのか。。味すら覚えていませんよ。。

 あまりの緊張に、ただ平静を装って笑顔を貼り付けるのに必死ではありました。



 いつの間にやら先輩に手を引かれ、ソファーに座らされて。。

「お前大丈夫か?」

 心配そうな先輩の顔が目の前に迫って、ようやく我に返ります。

「・・・ここ。。どこ?」

「俺の部屋だよ。。もう誰もいないから。寛げ。」

 ジャケットを無造作に脱ぎ捨てる先輩の姿。。


 キョロキョロと見渡せば、広ーい部屋。。でも確かに誰もいないです。

「ふはぁ。。。。」

 ようやく息ができた気分で、ソファーにへたりこみました。


「たまには気分転換にいいかと思ったんだけどな。。おこちゃまには無理だったかぁ。」

 先輩が背中越しに冷えたシャンパンのグラスを渡してくれました。

 冷たい炭酸が染み渡るかのようで、一気に煽ります。

「はぁぁ。美味しい。。」

 私が堪能していると、

「さっきも同じの飲んだぞ。。やっぱ心ここにあらずだったかっ。」

「すいません。ど庶民なもので。」

 苦笑いしかできません。


「さっきもほとんど手をつけてなかったろ。。腹減ってるだろ。。なんか取ろうぜ。」

 とルームサービスのメニューを見せてくれます。

「えっと。。先輩。。これ値段が付いてませんが。。」

「払うやつのとこにしか値段が付いたメニューは来ないもんなの。」

「怖くて頼めません。」

 なにそのシステム。。逆に頼みづらいわっ。。と心でガクブルしているのが伝わったのでしょう。


「遠慮すんなって。さっき修羅場に付き合わせた礼な?ま、明日っからも噂にでもなってるだろうからさ。これくらいじゃ足りないかもしれないだろ?」

 先輩の一言で、一気に現実に引き戻されました。

「あぁ。確かに。ってか、やっぱり噂になりますかねぇ。」

「まぁ。俺の女癖の悪さは県警(会社)じゃ有名だからな。また一人ひっかけられたか。くらいなもんだろうけどな。」

「・・・ですね。。そういうことなら遠慮無く。。」

 というわけで、慰謝料と思えばまぁ良いかと自分に言い聞かせ、クリームソースのパスタを選びました。


「お前。。奢られ慣れてないな。。こういうときは、高そうなヤツから頼むんだよ。」

「えー。食べたいヤツを頼みましょうよ。」

「まぁ任せとけって。」

 とチャチャッと頼んでしまう先輩。。なら最初っから聞かなくて良くない?とも思わなくもなかったのですが。。。


「うわー。美味しい。。先輩チョイス正解でしたぁ。」

 トロンと蕩ける頬を支えながら先輩を見れば、

「だろ?」

 と先輩はドヤ顔。

 目の前には、先輩が量を少しずつで品数をと指定したとおり、色んな種類が並べられました。

 飲み物は部屋にバーカウンターがあるものの、数種類の目にも綺麗なカクテルが用意されて並んでます。



 そんな中。。部屋のチャイムが鳴りました。

 出て行った先輩が何やら話していましたが。。

「悪ぃ。面倒な事になった。。成宮も同席しろ。」

 ”成宮”とな?この呼び方はまさか仕事?先輩の顔も真面目になってますし。。。

 嫌な予感が広がっていきます。。



「おくつろぎのところ申し訳ございません。。」

 頭を下げながら入ってきたのは。。先程もチラッと見た”総支配人”。


 先輩に促され、窓際の応接に連行・・いや拉致・・いや。エスコートされて来ました。。



「実は。。気分が悪いと仰るお客様のお部屋に行ったところ。。亡くなっておられまして。。しかしちょっと様子がおかしいもので。。刑事であられるお坊ちゃまのご意見を頂戴いたしたく。。」

 いや。。素敵な夜景をバックに聞く話しじゃないですよ?

 つか。”お坊ちゃま”とか呼ばれてんの?先輩。。ププっ。。。

 いろいろツッコミどころが多すぎて、話しが入ってきませんよ。


「様子がおかしいとは?」

 お坊ちゃま呼びに笑いを堪える私をよそに、先輩はお仕事モードです。

「・・・はい。。部屋に異臭がすると申されまして。。それでご気分が悪いとのことでしたので、清掃員を連れて向かったのですが。。」

「既に亡くなっていたと?」

「えぇ。しかも特に異臭はしませんでした。」

「連絡から到着までの時間は?」

「ちょうど10分でございます。」

「従業員で気分が悪くなった者はいないか?」

「はい。問題はございません。」

 先輩と総支配人との遣り取りを半ば他人事のように観察しています。ま、先輩の仕事ですよ。捜査一課ですもんねぇ。クリスマスにお仕事ごくろーさまですっ!!と心で敬礼しておきます。

 これで他殺だったら、先輩お正月休みもありませんよ?と教えてあげたいですねぇ。。



「おい。成宮。行くぞ。」

「え?私もですか?」

「急いで着替えろ。ベッドルームにスーツ届いてるから。」

「・・・はーい。」

 先輩の有無を言わさぬ威圧に負けて、ベッドルームに向かいます。



 ここは王様の部屋ですかっ???というほど広いベッド。。ダブルベッド2つ分か?天蓋とかニホンでいるのか?つーかどんだけ金持ちだよっ。あまりにも非現実的なベッドルームに逆に冷静になりました。

 部屋に不釣り合いな安物のスーツに身を包むと、場違い感がハンパないです。


 鏡を見れば、可愛らしくアップしてある髪。。安物のスーツにこの髪型はないなと。半ばやけくそにピンを抜いて。。スプレーで固まっていたので、ちょちょいと水を手につけて手櫛して、そのままポニテにしました。

 それでも可愛らしく毛先がカールしているのが、名残惜しさを醸し出してしまいます。



「お待たせしましたぁ。」

 ふて腐れやさぐれて。。口を尖らせながら出ていったものの、先輩は華麗にスルー。

 私をチラリと見ると総支配人と扉へと歩いていってしまいます。もちろん私もダッシュで後に続きます。



 そうして部屋に来ました。。


 状況が分からないので、本来は鑑識が来るまで絶対に部屋に入っちゃいけないです。

 警察呼んでないので、当たり前ですがまだ誰も来てませんしね。。

 

 ですが、部屋に入るまでもありません。開けた扉のすぐそこで亡くなってました。。うん。一目で事切れてしまっているのが見て取れます。


「あぁ。他殺ですかぁ。。」

 私はぽろりと口を滑らせてしまいました。

「マジか?」

「なんと。。」

 先輩と総支配人の声で、心の声を漏らしていたことに気付きました。。しまった。。

 二人の目が説明を求めてますね。。仕方ない。。諦めるとしましょうか。。



「えーと。。この部屋には入れませんし。。警察を呼んだ方が。。」

「あぁ。。だな。。」

 私が言えば、先輩も携帯を手に取りますが。。

「マズイですよぉ。坊ちゃま。。本日はクリスマスで満室でございます。。殺人事件が起きたなど。。」

 あたふたとする総支配人。。そりゃそうですよね。同情しますが、こちらも仕事なんでね。。仕方ありません。と思いましたが。。

 先輩は何やらコソコソと連絡を入れていました。



 というわけで、仕事ができる(であろう)先輩。。警察官にホテルスタッフの制服を着せて、病人が出た態であれやこれやを済ませた模様。

 鑑識の人たちも清掃スタッフのリネンカートなどを借りて、備品を運び込み、表面上は問題ありませんでした。



 そんなこんなで、先輩のペントハウスに戻り、色々と始まります。

「先輩。。私、もう帰ってもいいですかぁ?」

「お前”特務”じゃん。要請出すわ。」

「え~。。せっかくのクリスマスがぁ。」

「さっき喰っただろ。諦めろ。」

「まだ食べ始めたばっかで堪能してませんよぉ。。冷めちゃったし。。」

 恨みがましくテーブルの上の食べかけ高級料理の数々を眺めます。


「お前が”他殺”っつったんだよな?もしお前が解決したら、また連れてきてやるから。」

「コーキューホテルはもう懲り懲りです。」

部屋(ここ)で食えばいいだろ。誰にも気兼ねないから。」

「うえーん。。そうやっていつも私の断れないエサをちらつかせるんだからぁ。。」

「決まりだな。」

 ニヤリと黒い笑みを浮かべた先輩に、餌で釣られて完敗です。



「・・・で?死因やら、犯人は?」

 先輩に詰め寄られます。。

「えーと。。毒。。ですねぇ。たぶん。。」

「たぶんってなんだよ。」

「だって。毒に詳しくないですもん。」

「まぁ。そうか。」

 腕組みをした先輩の隣では総支配人が神妙な顔。。分かります。。稼ぎ時に殺人事件ってねぇ。。同情いたします。


「・・・で?犯人は?」

「外国人ですよ。。。でも結構ニホン人っぽい見た目かなぁ。。」

「もう逃げたのか?」

「どうですかねぇ。。スカイラウンジで私たちの奥に座っていた人ですよ?」

「・・・それは本当ですか?」

 総支配人が目を見開き、私たちを順に見ます。


「どうされました?」

「はい。本日は全てご予約席でございましたから。。場所が分かればお客様も特定できますし。。坊ちゃまがおかけになられておりました辺りは全てVIP席でございます。偽名などではご予約はできません。」

「でも、二人でしたよ?カップルで。。」

 私はその光景を伝える。


「赤いドレスの女性となりますと。。アイデュラ様ですね。。お連れの方は初めて見るお顔でございました。」

「どういった人で?」

「はい。。東欧の小国Aの貴族。。確か伯爵夫人でございます。お連れの方は伯爵ではございませんでしたね。」

 流石は総支配人。VIPの把握はバッチリのようです。ですが問題発生です。


「でも、先輩。。犯人は男の人ですよ?女の人が共犯かどうかは分かりません。。」

 私は人差し指を顎に当てて、記憶を手繰り寄せます。

「不味いな。。できれば滞在していて欲しいものだが。。」


「まだお二人ともお部屋にいるご様子。」

 支配人はあっという間に確認を取っていました。



 そうして素早く任意同行を求めた。。らいいのだが。。国際問題となりますよねぇ。やっぱり。

 国外逃亡も困りますし、逮捕状を求めるには物的証拠が足りません。

 私の推理だけじゃあねぇ。。

 そして、とりあえずは張り付きの警察官を置いて監視中です。





 そんな中、数日後に意外な人物が。。

「亜子ちゃ~ん。元気にしてるぅ?知り合いの外人さんがねぇ困ってるみたいで、刑事さんに知り合いいないかなぁ?」

 と私の特務の部屋に尋ねてきたのは教授でした。

「なんかありました?私もちょっぴり事件に絡んじゃって、いつもみたいにヒマヒマじゃなくってぇ。」

「大丈夫大丈夫。。刑事さんを紹介してくれたら、自分でお願いしてみるから。」

 教授はなんとものんびり。。逼迫してそうには見えない。


「おっ?誰だれ?俺、刑事さんだけれどもぉ?」

 良いタイミングで先輩が入ってきましたよ。。手には書類の束をお持ちで。。あのホテルの一件。。まだ私に聞きますか?ご自分で捜査なさってくださいよ。。ヒントは言ったんですから。。


「教授。こちら私の先輩なんですけどぉ。一応、捜一の刑事さんですけど。。偉くないんでたぶんお役に立ちません。」

 私は正直に紹介しました。うん。悪気はないです。本当のことだもん。。

「助かるよぉ。。なんか殺人事件の任意同行を求められたみたいでねぇ。。困ってて。。」

 教授がホッと胸を撫で下ろしましたが。。。


『・・・ん?』

 私と先輩は目を見合わせます。何ともタイムリーでホットな話題ではありませんか?

「あの~。教授。。その困ってる人のお名前って。。」

「あぁ。アイデュラちゃんって言うんだけどね?若い頃に僕の所に留学に来ててね。。とっても良い子なんだよぉ。とても殺人事件に関わるような子じゃないんだよぉ。」

 と身振り手振りで説明してくれた。。


「教授。。。その人に会いたい!!」

「え?いいよぉ。。亜子ちゃんなら、きっと仲良くできるよぉ。」

 なんか知らんが、本人不在で友達認定がされてる気がしますが。。気のせいでしょう。

 警察の見張りも付いていますから、男性の方がいなくなったこともありませんし。。会いに行けるならば、同室にいるという男性にも会えるでしょう。。



 というわけで、教授の教え子ということでアポを取ってもらい、先輩と二人、教授に連れられて、また高級ホテルへとやって参りました。


 もちろん、犯人側の部屋というわけにはいきませんし、先輩の部屋が広いんで。。

 というよりも、隠しカメラに隠し人員も配置オッケー。。こういうときペントハウスって便利~。。って思っちゃいました。


「俺の部屋でなくてもいいだろ。。」

「まぁまぁ。年間契約でしたら、いっぱい使った方がお得ですよ!!」

 ついつい貧乏人根性がしゃしゃり出てしまいます。

「女を連れ込むのは問題ないが。。汚ったねぇヤローどもが俺の部屋にいるかと思うと。。」

 先輩は同僚を見やり髪をワシャワシャとしています。。


「いや~。ボンボンだとは思ってたが。想像以上だな。」

「こっち見てみろよ。。どんだけ広い風呂だよ。」

「なぁなぁ。バーカウンターもあるぜ?忘年会、ここでできるんじゃね?」

「やめろやめろ。。お前らが入るのは今日限りに決まってんだろ!!」

 悪ノリ始める同僚と、必死に止める先輩。。面白すぎます。



 準備ができると、伯爵夫人と男性が入ってきました。


 なにやら流暢な英語とおぼしき言葉で先輩が話しております。。先輩。。英語喋れるんだぁ。。流石はボンボン。。


「大丈夫よ。。ニホン語は話せますわ。」

 伯爵夫人は美しいニホン語で返します。。そういえばそうでしたね。。教授の教え子でした。。


「では。。早速ですが。。その男性にお伺いしたことが。。」

 先輩が切り込みました。

「お話しするようなことはありませんが。。」

 こちらも流暢なニホン語です。。


 ですが、身元を県警で調べましたが、この男性についてはこれといった物がでてこなかったのです。小さな会社を経営しているとはありましたが、輸出入の記録もありませんでしたし、ニホンへの渡航履歴もないのです。。それなのにこんなにニホン語って堪能になります?と違和感を覚えます。

 

 先輩があれやこれやと質問しますが、のらりくらりとかわされます。


 もう私としてはイライラします。本日12月30日ですよ?今日の時間だって2時間しかもらえなかったんですよ?

 事務従事者は29日からお休み入ってますから!!私、休日出勤なんですよ!!今日を逃したらお正月休み確実になくなるんですよっ!!

 つーか、お前の犯行のぜーんぶ、分かってんだかんな!!時間の無駄だっつーの!!

 どんどんイライラが募って心の声も悪くなってきます。。

 精神衛生上も悪いですね。。一気にカタをつけてやりましょうか!!



「おっさん。。黙って聞いてりゃ、嘘ぶっこきやがって。。」

 あっ。すいません。イライラMAXで、口悪いです。。だって昔、ちょーっとやんちゃな時代があったもので。てへっ。


 突然の私の豹変に、部屋のみんなが呆然です。

 そういや教授も見たことないですもんねぇ。



「あのさ。。スパイって仕事だからって、人殺しはないんじゃない?」

 いきなりの私の発言に。。やっぱりみんな呆然です。。というか、男性はぴくりとも表情を変えません。。流石は一流スパイ。。やりますな。。


「アイデュラさんは知らないみたいですけどぉ。このおっさん、2重スパイですよ?国としても不味くありません?あぁ。名前名乗らないんでおっさんって呼ばせていただきます。」

 2重スパイの言葉では、伯爵夫人の顔色がみるみる変わります。男性の方も眉がわずかに動きましたねぇ。。見逃しませんよ?


「殺された人も、2重スパイだったみたいだし?仲間割れは仕方ないにしてもさ。。余所の国でるのは止めて欲しいんですけど。。」

 顔色の変わった伯爵夫人やら、ピクつく眉をお持ちのスパイさんを放置して、私の独り言。。うんもう独り言って事でいいんじゃないでしょうか。。誰も入ってきませんしね。いつもどおりです。。


「それにさ。。なにもクリスマスでなくても良くない?私なんて、ごちそう食べ始めた所で、この事件ですよぉ。。なんならおっさんに損害賠償したいくらいですよぉ。。あの日の料理代金とか。。あぁ。今日も休日出勤なので、その分も。。」

 っとつい話しが逸れました。。


「まぁ。相手がそちらのA国の軍事情報を売り飛ばすのが、あの翌日だったから?前の晩に始末したかった気持ちは分かりますけどぉ。。そもそもあいつ、偽の情報掴ませれてたからね?おっさんが手を下そうがしまいが、別に困ったことにはなりませんでしたけども。。」


「あーそうそう。あいつはそちらのA国メインの2重スパイですから。。B国に渡すのが嘘情報と分かりつつも。まぁいいかって事みたいです。。でも、逆にB国と敵対しているC国がメインのおっさんにしてみれば、あの戦闘機搭載用の新型特殊ミサイルの情報は困るわけですよね。。その情報が欲しくてA国を裏切りC国と2重スパイの取引したのに、先にB国に情報が流れれば、その価値は失ってしまうわけで。。」


「おっお前みたいな小娘に何が分かるっ!!」

 おっさんが初めて口をききましたよ。。

「まぁ。そんな小娘に真相暴かれてますけど?」

 しれっと答えると、おっさんの顔が怒りに紅潮していきます。色白のお国。。赤が目に染みますねぇ。。


「おっさん。。つーか、ダリューさん。」

「・・・え?」

 私が名前を言うと、伯爵夫人が目を丸くします。


「あ。アイデュラ様。。おっさんの本名ですから。気になさらず。。」

 私は片手を上げて伯爵夫人を制しておきます。おっさん。もといダリューは隠していた本名を暴かれ目を見開きます。自国にすら本名を隠して生活とは。。


「ダリューさんさ。。子供が死んだのは仕方なかったことです。。国が悪かったワケじゃないですよ。。紛争はそんなに簡単に収まらないでしょう?民族間で何百年にも積もり積もってのことなんですから。。平和なニホン人の私にはもちろん分かりませんが。。あの場所で逃げ場はなかったと思いますよ?政府軍に突然砲撃されたんでしょう?町に突然、反政府軍が潜伏してしまって。政府軍としても攻撃せざるをえなかった。。丸腰の一般市民に、軍人達を追い出す事なんてできないです。。生活の場がいきなり戦場と化してしまったことには、かける言葉は見あたりませんが。」

 私は一息つく。。


「心優しかったあなたが、我が子を失った悲しみを恨みに変えなくてはいられなかったのだとは思いますが。。だからといって諜報員だった立場を利用して、憎しみの対象となった政府を欺くのは違うと思うんです。。あなたがC国に軍事情報を売れば、A国政府は大ダメージでしょう。。けれど新型の武器を手に入れたC国でも、新たな戦争が始まることは考えませんでした?あなたのお子さんのように罪もない命を落としたり、あなたのように心を痛める人がもっと増えていくんですよ?」

 私の言葉にダリューの目からは大粒の涙が流れ始めました。


「あの黄色い毒カエルは、既に回収しました。瓶から指紋が出るような抜かりは一切ありませんでしたが。。毒の成分を調べれば、遺体に使われたものと同じだと分かるでしょう。」

「あっ。あれは。。。あの鍵の番号は3億通りだぞ?しかも2回しかミスできない。。それを解除したというのか?」

「解読は得意なもので。」

 さっきやっさんにお願いして、二人が部屋を出たところで、回収してもらっていたのですよ。。

 途中でメールが来て、瓶回収と指紋確認はが終了したことは連絡もらっています。


「・・・瓶は。。開けるな。。」

「分かっています。。触れるだけで猛毒ですから、部下にもそのように指示してありますよ。」

「そうか。」

 ダリューの言葉はホッとしたようで静かでした。。

 


 その後、場所を県警取調室へと移して。。。問題なく自供を取れました。。

 というか、私が言ったそのままですが。。


 伯爵夫人は、諜報部員ということを知りつつも、護衛者ということで、ニホン旅行へ連れてきたのだそうです。。A国では外国語の堪能な諜報部員を護衛者として連れ歩くのは良くあるそうです。



「いやぁ。警部ちゃん。。今回もお手柄お手柄。。助かったよぉ。。」

 本部長からの電話です。。うん。電話ですよ。。こちとら休日出勤しておりますが。。本部長さまともなると、電話一本です。。結構、ニホン政府とのごちゃごちゃがあったんですよ?大変だったんですよ?伯爵夫人絡んでましたから。。ですが、いつものことですね。。もう何も言うまい。。



「おう。俺の亜子~。サンキューな。」

「ぐへっ。」

 廊下を歩いていると、先輩にハグされました。。かなり強めで。。息がぁ~。背骨がぁ~~~。。

 そしてなにゆえ、”俺の亜子”??お前の物になった覚えはないが?

 眉間に皺を寄せて上を見上げれば、何とも嬉しそうな先輩の笑顔。。イケメンに興味は皆無ですが。。

 蕩けそうな笑顔に免じてスルーしてあげましょうか。。


「がはっ。」

 とお腹を押さえる先輩。。

 えぇ。一発のパンチでスルーしてあげましたとも。。気安く触るな。。



「なぁなぁ。なんで警部ちゃんは捜査もしてないのに、スパイ情報まで知ってんの?向こうの国のお偉いさんもミサイルの件、バレて困ってたよ?まだ発表もしてなかったらしくてさ。」

 特務の部屋に戻れば、先輩が聞いてきます。

「ま、色々あるんですよ~。。こ こ でね。。」

 これ見よがしにこめかみを人差し指でトントンしてやりますよ。。

「お前さ。。IQテストは低かったよな?そんなヤツが頭脳プレーとか。。ある?」

 ぐさっ。。痛いところをつかれましたが。。。見破られてはいけませんよ。。

「女の子には秘密がある方が魅力的じゃありません?」

 ニヤリと妖艶な笑みを作って見せます。。童顔に妖艶が作れるのかって?分かりませんが。。

「チチがデカイ方が魅力的じゃね?」

 ププっと笑いながら私の胸をガン見する先輩。。。

「セクハラで訴えるぞ!!」

 自分の絶壁をチラリと確認して先輩の胸倉を掴んでおきました。

「さ~て。お茶の用意ができましたよぉ。。」

 絶妙なタイミングでやっさんが応接セットから声を掛けてくれました。


 今日も穏やかな1日が始まりそうです。






 と何でもない”特務”の日々ですが。。

 私目線からすると。。色々ありましてぇ。。



 あの日、死体発見現場では。。


(もうっ。。偽取引なのに。。うちの子が殺されちゃうなんて。。油断したわっ。。)

「あぁ。他殺ですかぁ。。」

 思わず口に出してしまい、先輩と支配人に凝視されますが、ちょっとだけスルーします。

 

(あらぁ。私の声が聞こえるの?)

(もちろんですよぉ。。ちょい取引しません?魂ポイント2で、犯人捕まえまーす。)

(それくらいで犯人捕まえてくれるんなら、協力しますわっ!!)

 と守護霊と契約成立です。。

 そして被害者情報&殺害状況情報ゲットだぜ。。



 あの日のペントハウスでは。。


(なんかうちのバカがやらかしまして。。申し訳ありませんね。)

(いえいえ。。こちらも仕事ですので。。にしても口割りませんね。)

(この子は頑固なところがありましてねぇ。。)

(私も休暇返上なんですよ。。状況を教えて頂きましたら、魂ポイント5で向こうの守護霊さんと話しをつけますが。。)

(え?あちらさまに謝罪の機会を頂けるんですか?たったの5ポイントで?是非お願いしたい。。)

 というわけで、ダリューの守護霊とも契約成立したので。


「おっさん。。黙って聞いてりゃ、嘘ぶっこきやがって。。」

 のくだりに繋がります。

 もちろんそこからは、守護霊さんの言葉まんまを説明するだけ。

 

 嘘も虚偽も一切ございませんよ?ありのままですから。。

 そして、守護霊さんですからね。。ご本人さんのお涙ポイントも把握してらっしゃいます。

 話しは飛ぶが、自供させるにはこの方向性で。。という道筋も守護霊さんはしっかりしてました。



 そして話しが終われば。。

(亜子ちん。今日もいい仕事してますねぇ~。)

(久しぶりぃ。。今日は魂7ポイントね。。で、1ポイント使って、双方の守護霊引き合わせてくれる?)

(オッケー。1ポイントだと30分だね。。延長希望したらどうする?)

(そこは延長はできないって最初に言えばいいでしょ。)

(りょーかい。。ちなみに、殺された方のヤツから伝言。”お互いそういう仕事だから恨んでないぞ”だって。)

(分かった。。けど。。ダリューに私から伝えても。。響かなくない?)

(じゃ、1ポイント使って”夢枕”いっちゃう?亜子ちん絡んでたからまだ昇天させてないんだよねぇ。)

(え~。。そしたら今回のポイント5ポイントだけになっちゃうじゃん。。)

(次回その分をふんだくれば?)

(うわ~。。天使の言葉とは思えない発言。)

(人間が”天使は清廉”だって勘違いしてるだけっしょ。ただの魂の運び屋だよ?)

(だね。。。ま、いいか。。心痛めたまま過ごされるのもイヤだし。。1ポイント使うわ。)

(毎度あり~。)

 と馴染みの天使と魂ポイントを交換しました。



 私はこんな感じで、守護霊や天使の声が聞こえるんです。。

 いや。。視えることもしばしば。。

 子供の頃からこの能力でいいことはあんまりありませんでした。

 普通の生活がしたくって。。能力を消したくって。。

 その為には”魂ポイント”を300集めるのです。。

 そうしたらポイント交換帳に則って、”能力消し”をやってもらえるのです。


 ポイント交換万歳!!



 というわけで、なんにもなけりゃなんにも起きない平和な日々なのです。。

 事件がいっぱいでポイント交換して能力を消すか。。

 何も起きなくて能力発動しない日々を満喫するか。。




 私はやっさんの淹れてくれた紅茶を啜りながら、どっちがお得なの?と思いを巡らせるのでした。



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