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蒼衣さんのおいしい魔法菓子  作者: 服部匠
第二部 掌編集
42/50

番外編 天竺蒼衣の年齢疑惑

2018年7月16日発行

柏木むし子さん主催同人企画「Text-Revolutions7 キャラクターカタログ3」のキャラクター紹介掌編より再掲

(天竺蒼衣 キャラクター紹介用掌編。掲載分にほんの少しの加筆あり)

蒼衣あおいさんって、本当に、ホントーに三十歳超えてるんですか?」

 声を潜めた女子高生・鈴木(すずき)信子(のぶこ)の質問に『魔法菓子店 ピロート』オーナー兼店長のあずま八代やしろは、眼鏡の奥の目を丸くした。

 ここは、ピロート店内の喫茶スペース。信子は常連であり、件の『蒼衣さん』のファンを自称する一人である。友人関係を拗らせて気持ちが不安定だった彼女を、蒼衣が優しく慰め、仲直りのきっかけのヒントを与えたのがきっかけらしい。

 蒼衣本人は「泣き出してしまったからほっとけなかったし、彼女の気持ちもわかるからつい。余計なお世話かと思ったんだけど……」と申し訳なさそうにしていたが、なんにせよ誰かの気持ちを癒したのは事実であり、彼女には良き水先案内人ピロートになっただろう。

 注文されたケーキと飲み物を信子の前に置き、八代は困ったように笑う。最近、とみに増えてきた質問の一つだからだ。

「あんなにきれいな顔で、いつも背景にお花飛ばしてそうなお兄さんなのに、店長さんと同い年だなんて」

 信子は、ショーケースのある方向を見てため息をつく。視線をたどれば、中性的な顔つきのコック服の男性――ピロートのシェフパティシエ・天竺てんじく蒼衣がにこやかな笑顔で接客するのが見えた。

「残念ながら、うちの蒼衣は、俺と同じ三十一歳のおじさんだよ」

「蒼衣さんを簡単におじさんよばわりしないでください。あれは奇跡の三十代なんです。美魔女ですよ」

 一時期流行った、年齢と反比例して若々しい人のことを呼ぶ「美魔女」という表現が出て、コメントに困る。一応、蒼衣の性自認は男性なのだが。

「いやあ、僕はもうれっきとしたおじさんだよ、鈴木さん」

「蒼衣さん!?」

 いつの間にお客を見送ったのか、蒼衣は八代の横にいた。二人でなんの話してたの? と無邪気に話す様子からは「アラサーのおじさん」と呼ぶには難しい雰囲気が漂う。

 確かめてみようか。八代は思い立ち、蒼衣が被るコック帽に手をかける。

「ほいっとな」

 帽子を外され、驚く蒼衣の肩に長めの髪の毛が落ちる。髪が見えると、中性的な顔立ちのせいもあってますます「おじさん」から遠のいた。遠目から見れば、器量よしの女性にすら見えるだろう。

「わあっ、もう、いきなりはやめてくれよー」

 どうして帽子を外しちゃうかなぁ。ぼやく蒼衣の様子はおっとりしていて、信子の言う「花が飛んで」いる幻影が一瞬だけ見えた。「やっぱりカッコイイ」とのぼせる信子の気持ちも、わからなくはない。

 しかし、長い付き合いの八代は知っている。この男は自分の顔を「童顔で騙されやすいお人よしの顔」としか思っていないことを。

「……もうちょっと自分の顔面偏差値について考えたまえよ、パティシエくん」

「が、顔面偏差値? どういうこと? ああっ鈴木さんごめんね、ゆっくりしていってね!」

 そう言いつつ首をひねる蒼衣の素直な様子は面白くも好ましい。八代は口元に笑みを浮かべた。

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