ミント
本当に異世界に来てしまった
その辺に散乱した荷物から服っぽい物を見繕い、布の感触を懐かしみながら田中は逡巡した
目の前の遺体や倒れた怪物から放たれる異臭が生々しい
とりあえず今何時か確認しようにも、時計ひとつ身につけていない田中は無力だった
「もう服は着れましたか?」
半壊した馬車の陰で着替えていた田中に、少女が声をかける
「アッ、すみませんもう大丈夫です」
返事を返すと、馬車の向こうから銀髪をなびかせた少女が顔を出した
「先程は助けていただき本当にありがとうございました、とてもお強いんですね」
丁寧なお礼と相手への称賛を簡潔にまとめた一文に、どことなく手慣れた営業力を感じる
新規の現場に配属された場合はまず現状を把握すること
「いえ、自分も無我夢中でなにがなんだかわからず。お怪我はありませんか」
現状把握には現場の方とのコミュニケーションはかかせない
少女の名はミント、数刻前に同僚が殉職した割にはさほど動じていないなど、ブラック企業における心構えを身につけているタフな女性だった
幸い少女に外傷はなく、今のところあたりに他の脅威は無いように思えた
「無知で申し訳ないのですが、ここはいったいどこなんでしょうか?」
「あら、転売奴隷の方でしたか?ここはアストラル高原の北部、ローレライ地区のなんちゃらなんちゃら」
まったくわからん地名で情報が頭に入らない田中
とりあえずここは日本でなければ、見聞きした事のある海外でもないようだった
加筆します