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<三> 闇より出でし男

「おら、もう観念するんだな嬢ちゃんよ」


「くっ、誰か、誰かいないのですか……!」


きらびやかな街の喧騒。


西洋造りの建物が建ち並ぶその街は、夜が更けた事など感じさせないほど賑やかに歌っている。


その外れ。


ひとりの少女が今、闇に飲まれようとしている。


「助けて、だれか…!」


つまづき、転びながらも必死に走る少女。


郊外は街灯もまばらで、あたりに人の気配は感じられない。


少女の目には涙がにじむ。


「まさかこんなところにお姫様がいるなんてなぁ!」


「ゲヒヒ!身代金ウハウハだぜぇ!もちろんたっぷり可愛がってからなぁ!」


下品で下劣、しかし屈強な男達が姫と呼ばれた少女を追い詰める。


逃げ惑う少女の衣服は乱れ、ヒールの靴は折れ、高貴な身分であろう身なりはボロボロに崩れていた。


いたぶるように追いかける男達は、この先が袋小路であることを知っている。


「どこまでいくの〜?助けを呼んだって誰もこねーよぉ!」


「アヒャヒャヒャ!」


少女は眼前にそびえる壁に絶望する。


これから受けるであろう男達からの屈辱を想像し、足の力が抜け、その場にへたりこむ。


「嫌だ、嫌だよぅ……うぇっ」


大粒の涙。嗚咽。


彼女を包むのはか細い街灯の灯りと、下卑た男達。そして漆黒の闇。


「さぁさぁ!これからがお楽しみだぁ!」


男達の手が少女にのびる。


ーーーそこまでだ。


「アヒャヒャヒャ……あ?」


男達の手が止まる。


さっきまで人の気配がなかったはずの闇の中から、声が聞こえた気がした。


「誰だ!?出てこいや!」


ご馳走をお預けされた男達がいきり立つ。


男達のひとりが、持っていた灯りを闇に向ける。


かすかな灯りがゆっくりと人の形を作り出す。


「お、お前……!?」


そこに現れた、男。


浅黒い肌は闇を模したような刻印が全身を這い、眼光は氷のように冷たい。


丹精で無駄のない筋肉は一目で本能的な強さを物語り、その顔は不敵な笑みを浮かべている。


「お、おい!?なんなんだお前!?」


男達がたじろぐ。微笑みながら歩みよる闇より出でし男。


「こいつ……変態だ!!!!」


男は全裸だった。


当惑している男達をよそに、少女の前に屈み込み、手を差し伸べる全裸。


「ヒッ!やめて!」


手を払いのけられる全裸。


「……」


全裸はスッと立ち上がり、眼光を男達に向ける。


「気持ち悪ぃ、やっちまえ!!」


「アッヒャー!!」


我を取り戻した男達が全裸に襲いかかる!


飛び交うナイフ、バール、拳。


全裸はその全てをいなし、男達に掌底を浴びせていく。


「ぐあっ!」


「がはっ!!」


10秒もたたないうちに、男達は気を失い石畳の地面に転がっていた。


静寂が辺りを包む。


全裸は男達が持っていた灯りを拾い、少女の傍らへそっと置いた。


「……」


「え!?あ、あの……!」


全裸は少女を一瞥し、元いた闇の中へ消えていく。


「待って!あの、ありがとう!……変態さん」


変態は闇の中でニヤリと微笑み、闇に包み込まれるように消えていった。


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