<二> 悪鬼羅刹の田中は本名です。
ーーー異世界ターミナル、審査室。
転生希望者の魂が列をなして並んでいる。
「次のかたどうぞ」
「斎藤さんですね、では生年月日と血液型を……」
審査員がカタカタと個人情報を入力していく。
「はい、ではこのプレートを持ってあちらのオーラ測定器へお願いします」
斎藤の魂が測定器に乗ると、まばゆい光のオーラを放った。
「キタキタぁーーー!!オーラ発現ンンン!!!」
独特な審査完了アラームと共に、測定器がプレートに文字を刻印する。
プレートには "勇猛無比" と刻まれた。
「オーラは黄色、字名は "勇猛無比" ですね。ランクはB+です。おめでとうございます、異世界行き決定です」
審査室中央のゲートが開く。
「ノルマのほうは転生後にご連絡しますので、20年ほど異世界でおくつろぎになってお待ちください」
斎藤の魂は光の玉となり、ゲートへ吸い込まれていった。
異世界とは、望めば誰しもが行けるわけではない。
転生希望者は異世界ターミナルに魂を召喚され、そこで審査を通過したものだけが転生することを許されるのだ。
「はい、次のかた〜」
「田中さんですね、では生年月日と名前を……はい、ではこのプレートをもってあちらの測定器へ進みください」
測定器へと進む魂。
「ん?あれ、田中さん途中で改名されてます?ちょっとお待ち……」
ーーー刹那、審査室の空気が凍りつく。
暗闇の、さらに深淵。
光が届きようもない、闇の終着点。
そこにいきなり放り込まれ、圧殺されそうな感覚。
その魂から発せられたオーラを感じたもの全てが、死を覚悟する。
「ヲーら、はヅ、げ……」
測定器が機能を停止する。
砕け散るプレート。
圧倒的なオーラの前に、審査員達は床に倒れ込み、立ち上がることができない。
「……っハァッ!ハァッ!!く、苦しい……!オーラは……漆黒、字名は……"全身全霊"?」
「ーーほう、それが我が主の字名か」
漆黒のオーラを纏う魂、その中心から、脳の奥に響くような声が聞こえる。
「ぐ……まさか、"悪鬼羅刹" ……本名だと!?ランク…測定不能……!」
漆黒に誘われるかのように、順番待ちをしていた魂が次々にオーラに取り込まれていく。
「まずい、コイツ他の魂を!?異世界行き決定です!早くゲートを!!」
異世界へのゲートが開く。
審査室にいたほぼ全ての魂を吸い尽くし、漆黒のオーラを纏った魂はゲートへと旅立っていった。