宿泊場所確保
村に帰って来た。今日は何事もなく門を通り、村に入ることができた。
ほかに行く場所も金もないリヒトはさっさと冒険者ギルドへと足を向ける。
仕事が終わって帰って来た者も多いようだ。行きはおっさんのおかげで使いもしなかった受付に依頼書と魔石を出し、報酬が渡された。さらにおっさんのせいで受け取り損ねた「初心者支援キット」なるものも渡された。
なんでも、冒険者は着の身着のままのワケアリな者たちの流れ着く先であるため、そのまま依頼を受けさせても役に立たない場合が多いそうで、一通りの道具などを持たせるのだそうだ。ありがたいものである。
そういって渡された麻袋の中には木槌、粗末なナイフ、乾パンと水筒代わりの革袋のようなものが入っていた。
しかしまずは宿である。これがあっても野宿に十分とはいえないのだ。
とりあえず、空いている受付のおじさんに聞いてみるとする。
「すまない、今は銅貨一枚しか持っていないんだが、これで泊まれる宿を知らないか?」
すると、あっても馬小屋を間借りする程度のものだろうと思っていたリヒトには衝撃的とも言える答えがおじさんの口から飛び出す。
「お兄さん、初心者だろ?今朝方ガルムの歓迎を受けていたのを見かけたからな。それだったら、初心者養成合宿に参加すれば衣食住を確保できるよ。それに、合宿期間中は一日銅貨一枚が支給されるんだ。参加して損は無いと思うけど、どうする?」
しかし、あまりに都合のいい話にリヒトは怪しむような視線を送る。
「衣食住を確保した上で銅貨一枚?その合宿ってのは真っ当なものなのか?」
その懐疑の視線を受けたおじさんが机を叩きながら盛大に爆笑する。
「あっはははははは!ここに勤めて10余年、こんなに疑われたのは初めてだ!この冒険者ギルドでは、それこそ清掃業務やらの雑用も請け負ってるが、主な目的はそっちじゃないんだ。冒険者は武器を取り、魔物や盗賊を倒すのが主たる任めなんだよ。でも、何の訓練も受けていない素人を現場に送り込んだところで、何の役にも立たないだろう?」
おじさんが言うには、この合宿では戦闘の技術やそれに必要な体力の獲得を目指し、一ヶ月間住み込みで訓練を行うらしい。
「それなら、行っても損は無いか…」
説明を受けて、どうやら真っ当な合宿であることを知ったリヒトはこれに参加しようと決めた。
「どうする?参加するなら、今日この後スタートだから、今からでも大丈夫だけど。」
「ああ、参加させてもらうよ。どこに行けばいい?」
「この先の中庭に出て、向こう側に兵舎のような建物があるから、そこに行けばわかる。」
この時、リヒトは知らなかった。
この合宿は素人に一ヶ月間でプロ同等の戦闘能力を与えるため、かなりハードなプランが組まれ、通称「鬼の合宿」と呼ばれていることを…