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15話・真理の表面①

目覚めたアンドロイド、オットーを仲間に加えた一行。ガンザリア達を襲った謎の症状が回復する中、ハルフィエッタはオットーとある疑問について話す事に。

 地上へと出た私達に待っていたのは、思っていたよりも深刻な事態であった。復帰した王子、リオ、タカトは良いのだが、ジンボルさんが目を覚まさない。あれからもう三日経つというのに。

 オットーは王子の承諾を得て私達と共に旅をする事になった。シャリファといいオットーといい、古代人……と呼んで良いのだろうか?ともかく彼らが仲間になったのは戦力的には大きい事であった。


「オットー。貴公はその、あんどろいど? というモノで、生き物ではないとハルから聞いたが……」


 王子達は昨日オットーと話す事が出来たが、まだ簡単な自己紹介だけだ。私が王子にオットーの事を話したが、王子もあまり理解出来なかったようだ。

 そして不思議な事に、王子達は遺跡の最深部での記憶がほとんど無くなっていた。思い出そうとすると頭が痛くなるらしい。


「おー。そうですそうです。まぁ、『生』というモノをどう捉えるかによりますが、僕は人工的に作られた機械です」


「機械というのも分からんのだが……ふぅむ、生き物では無い、か。にわかには信じられんが、こうして目の前にいるのだ。信じるしかあるまいよ」


 と食堂の椅子に座って唸る王子。隣のリオも腕を組んで考え事をしているように唸っている。タカトは何だか嬉しそうだ。

 シャリファは皆が寝込んでいる間、宿のお手伝いをしたいと言い出した。言葉やこの時代の習慣を少しでも学びたいのだそうだ。ま、合間を見てタカトの部屋に行ってるみたいだけど。


「ねぇ、オットーさん? オットーさんは背中から腕が生えるの? 見てみたいなぁ!」


「おー。あれは僕の切り札なんですよー。そう簡単には見せられません。それから僕の事はオットーで良いですよ」


 私も色々ともっと深く聞いてみたかったが、思う事もあってこれ以上あの日の出来事に触れたくはなかった私は、あえて話題を逸らす事にした。


「タカト~。今日は折角訓練も無しで自由なんだから、辛気臭そうな話は今度にして、貴方はシャリファと遊んで来なさいよ。ちゃんと捕まえておかないと、逃げられちゃうわよ~?」


 食事の給仕を手伝っているシャリファを見て言った。笑顔で宿のオバサンと話すシャリファは誰が見ても可愛いと思う。黒髪がふわりと揺れ、不思議な魅力がある。

 まだまだ発展途上な肉体だが、将来性のある体であり、その片鱗は出始めているようだ。毎晩一緒にお風呂に入っている私はそれをしっかりと見ている。傷跡も多いので、入浴以外では肌は晒したがらないが、スベスベの肌で羨ましく思う。

 ――私だって負けてないと思う……思いたいけど、さすがに、その、ねぇ? 

 誰かに言い訳を考えていると、慌てたタカトが私に向かって必死な顔を向ける。


「ハ、ハルさん!? ど、ど、どうしてそんな事言うの? ま、まったく……シャリファとはそんなじゃ……」


「あらぁ? そうなの? 私の見た感じでは、シャリファもタカトの事好きなんじゃないかしら?」


「すす、好きとかそんな……ボクよく分からないよ……」


 顔を赤くするタカト。弄り甲斐があるわねぇ♪私のニタニタ笑いが止まらない。


「おー。タカト君はシャリファちゃんの事を好きなんですねぇ。では僕からも助言を」


 そう言ってコホンと咳をするオットー。何かしら?この手の話に興味があって弄りたくなるなんて、やっぱりコイツとは気が合うかもしれないわねぇ。不本意だけど。


「いつか、また次、その内、まだ……そんな風に先延ばしにするのはオススメしません。瞬きをして次に目を開けた時、全てが手遅れになっている事だってあるのですから」


 優しい笑顔だったが、それを聞いたタカトはゴクリと唾を飲み込んだ。


「いやいや、いきなり重すぎんのよ。タカト、コイツの言った事は気にしないで良いから、とにかく遊んで来なさいよ。天気も良いし、出発したらしばらくは遊べないわよ」


 ビシッと裏拳でオットーを叩きつつ言った。しかし、私はオットーの言葉を頭の中で繰り返している。どうも他人事のような気がしない。

 ――全てが手遅れ、か。コイツの身になれば、そういう考えも出るわよね。瞬きしてたら全てが終わり。そんなのやりきれないわ。

 そんな事を考えていると、シャリファが水を運んで来る。


「今日、終わりで良い、言われた。タカト、遊び、行こ?」


 ニコリと屈託の無い笑顔をタカトに向ける。私とオットーはニタリと笑ってタカトを見る。


「良かったわねぇ、タカト。でも次は自分から誘うのよぉ?」


「も、もう! からかわないでよ!」


「おー。タカト君、次があるとは……」


「それはもう良いから!」


 流れるような一連の動きに、難しい顔をしていた王子が失笑した。


「ふっ。賑やかな事は良い事だな。どれ、我は少し体を動かして来る。リオ、予定が無いなら付き合え」


「あ、だったら私が――」


「おー。ハルフィエッタちゃん、ちょっと良いですか?」


 ――何よ?折角の王子との時間だってのに。

 そんな事を考えてオットーを見ると、口元と裏腹に目が笑っていない。これは何か重大な話か。


「……仕方ないわね。王子の事は頼んだわよ、リオ」



 


 皆がそれぞれに散った後、宿の私の部屋で、私とオットーは円卓を挟んで椅子に座っている。


「それで? 何の用よ?」


 二人きりになったのは、私としても都合は良かった。芽生えた疑問を言える相手は、現状では恐らくコイツとシャリファしかいない。

 そう言えば、オットーはこの数日で大陸言語を完璧に覚えてしまった。本人が言うには「規則性があるので覚えやすいです」との事だけど……あんどろいどって凄いのねぇ。


「おー。そうですねぇ、本当はシャリファちゃんも居た方が良いのですけど……まぁ、今はそれは置いておきましょう」


 そう言って用意したお茶の入ったコップを手に取る。この数日で分かったのだが、コイツの飲食は全てふり(・・)だ。食器を持ったり、コップに口を付けたりするけど、中身は減らない。


「そして話す前にハルフィエッタちゃん。貴女は選ぶ事が出来る。真実を聞くか、聞かずにいるか」


 そんな言い方はズルい。これで聞かない事を選ぶ程、私の好奇心は年老いていないのだから。


「……聞くわ。勿体ぶらずに言いなさいよ」


 私がそう答えると、コップを口元に当てながらニタリと笑うオットー。


「そうですか……では。この数日間、地上に出てここの街に住む生物……ヒトと呼ばれる皆さまを解析させて貰った結果……」


 そう言ってコップをコトりと置く。その音が煩く聞こえる程に静まった室内で、私はゴクリと喉を鳴らした。


「精巧に造られた模造品である事が分かりました」


 セイコウニツクラレタモゾウヒンデアルコトガワカリマシタ。

 オットーの言葉に頭を殴られたかと思う程の衝撃を受ける。視界がグラグラ揺れ、手が届く距離にいるはずのオットーが遠く感じる。


「……それって、人間ってヤツの?」


「はい。その可能性が9割を越えます。違いがあるのは、ヒトは人間が放つ特殊なエネルギーを感じられないという事くらいでしょうか。それ以外の変化は見受けられないほど、精巧に造られているようです」


「えねるぎー?」


「おー。僕とした事が。精力反応と言えば良いでしょうか。人間ならば誰しもが放っている魔力みたいなモノ、と考えて良いかと」


 ――魔力みたいなモノ、ねぇ。


「まぁ、厳密に言えば発していない訳ではないようですが……不思議な事にこのエネルギー、ヒトの皆さんは極めて微弱、まるで何処かに吸い取られているかのように直ぐに消えてしまっているのです」


「何処かって何処よ?」


「それは……まだ分からないです。直ぐに消えるので解析が出来ないのですよ」


 私は頭をくしゃくしゃと掻いた。難しいと言うより、全く予想だに出来ない話と言うべきか……オットーの話しは、今まで私の中にあった常識や知識が役に立たなそうな話で困惑する。


「つまり、私達はシャリファ達の種族を元に造られた存在で、その、えねるぎー? ってのが無いっていうのだけ分かったのね?」


「えぇ。正確には無いのではなくて直ぐに消える。ですが」


「どっちでも良いわ、そんなの。知ったところで何にもならなそうだし、今まで通りやるとするわ」


 椅子にもたれ掛り、ダラリと腕を下げる。もっと色んな事が分かったのかと思ったけど、これだけなら聞かなくて良かったかも……


「しかし、ハルフィエッタちゃん。貴女は他のヒトよりもエネルギー反応が強いのです。普通の人間と比べれば少ないですが、他のヒトを1、一般的な人間を10とすれば、5くらいの強さがありますよ」


 ニコリと笑うオットー。私は興味無さそうに溜め息をつく。


「はぁ。どうでも良いわ。数字にしても分かんないし。ちょっと驚いたけど、あまり気にする事無いんでしょ?」


「まぁ、そうですねぇ。現状は気にする必要性は見当たりません」


「そう。ならやっぱり今まで通りにしてるわ」


 そう言ってお茶を飲む。現状気にする必要が無いのなら、気にするだけ無駄って事。無駄な事に気を回す余裕は無いわ……そう自分に言い聞かせる。


「おー。ハルフィエッタちゃんは切り替えが早いですねぇ。僕としては好感度が高いですよ」


「貴方の好感度が高くなっても嬉しくないわよ」


 やれやれと首を振る私。それを見て何やら嬉しそうなオットー。


「……それじゃ次は私の疑問ね。ひょっとしたら、造られた存在の私達……ふふ。自分で言うのも変な感じね。現実味が無さ過ぎよ。まぁ、その私達に何か関係があるのかもしれないのだけど」


 そう言うと私は椅子に座り直し、困り顔のオットーを真顔で見つめた。その眼差しを受けたオットーも真顔になる。


「遺跡の最深部で王子達が頭を抱えて行動不能になっていたのは知ってるわね?」


「えぇ。経緯は分かりませんが」


「あれは突然だったのよ。私とシャリファが話していたら突然頭を抱えて倒れてしまったの」


「ほぅ」


「あれはもしかすると、ある話題が関係していたのかもしれないの」


 そう、あの時、私とシャリファが話していた事、それは以前に宿の屋根の上で私がリオに話した事と似ている話題であったと思い出したのだ。


「と言うと?」


「私は以前、リオに『大陸の外』を連想させる言葉を言ったわ。するとリオは意識を喪失した。直ぐに元に戻ったけどね、あの時は」


 あの時のリオの症状が酷くなると、きっと遺跡の最深部のような状態になるのだと推測する。


「ふぅむ」


「そして遺跡の最新部で私とシャリファは『大陸の外』の話をしたわ。地図なんて面白そう、ってね。その直後だったのよ、皆が倒れたのは」


 共通するのは大陸のを連想させるという事なのだけど、まさかそれだけで……しかし、コイツやシャリファが何百年と眠っていた等、信じ得ない事が起きているのだから、もしかすると……


「何か思い当たる事は無いかしら? もしくは仮説でも構わないわ。この話は貴方と、恐らくシャリファにしか出来ないから」


 自分でも馬鹿げているとは思う。そんな事で皆が倒れるなんて、正直言って意味が分からない。しかし、考えてみれば変なのだ。

 ――生まれてから一度も、大陸の外に関する話を聞いた事が無いなんて。

 大結界の向こう側の話は教わったけど、厳密に言えば大結界の向こう側は大陸の外(・・・・)ではない。同じ大陸であるとされているのだ。

 そして私の話を聞くオットーは、顎に手を当てて考えた後、真剣な眼差しを私に向けて口を開くのだった。

「あ、そうか。神様よ、神様。きっと神様が私達を造り、その力を利用しているんだわ」

「……その笑い方まで、そっくりですよ」

「はい、王子。やっと出発ですねぇ。長かった長かった」


次回「神託の勇者は私だけじゃない!!」六章16話――

「真理の表面②」


「ハルさんが変な事言うから、シャリファの事が気になる……」


「ターカートー♪ 聞いちゃったわよぉ、気になるわよね、気になっちゃうわよね!」


「うわ! ハ、ハルさん、もう! 止めてよぉ!」


「止めな――いったぁ!」


「まったくお前というヤツは……子どもをからかって遊ぶな! 馬鹿娘がっ!」


「むきー! 叩く事ないじゃない! アホッチ!」


「誰がアホだ! この大馬鹿娘!」


「何よ! むっつリオッチのくせに!」


「……この隙に離れよう」

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