13話・謎が謎過ぎて、私の頭は破裂しそうよ
オットーと対峙するハルフィエッタとシャリファ。原因不明の症状でガンザリア達が動けない中、彼女達はどう立ち回っていくのか。
遺跡の最深部。時の流れから取り残されたような部屋の中で私とシャリファは、オットー・マクファーリンと名乗る敵と対峙している。原因不明の症状でまともに動けない王子達を逃がす為、症状が発症しなかった私とシャリファが時間を稼ぐ事になったのだ。
拳銃とかいう不思議な武器で遠距離から攻撃するオットーに対し、私は魔法で対応するのだけど……
「ふっふっふ。ハルフィエッタちゃん! どうしたんだい? まさかそんな程度の魔法しか使えない訳じゃ……無いですよねー?」
「言ってなさいよ! トルトなんて下級魔法を払ったくらいで何を良い気になってんの?」
私が放ったトルトは、オットーの左手で簡単に掻き消されてしまった。いや、掻き消されたと言うとシャリファのような魔法無効っぽい印象になってしまうが、単純に左手で防がれただけだ。単純に全く効いてないという事。
「良いねぇ! 強気な女性は好みですよ!」
――ちっ。なら、盾で遮れば!
「阻め、遮れ、分断せよ。燃え盛る壁よ。現れよ」
物陰に隠れたまま詠唱を終え、私は勢いよく飛び出しながら叫んだ。
「ブレイツ・ウァル!」
現れた炎の盾の後ろに隠れて進撃を試みる。
「おー。勇敢な作戦だと言ってあげたいんですが、その盾では防げないんですよ」
オットーの拳銃が火を吹き、盾を貫通して私の頬をかすめる。隠れていた机の一部が私の後方でパンと弾けた。
「ちっ」
私は舌打ちをしながら慌ててシャリファのいる机の陰へと滑り込んだ。
「ハル。拳銃の玉、小さい、硬い。火の壁、越える」
「そうみたいね。仕方ない、少しこのまま様子を見るわよ」
拳銃から乾いた音が何発も響き、私の周囲を削っていく。
――物陰に隠れて少しでも時間を。王子達が逃げる時間を稼げれば……
「隠れてばかりだと、逃げた方々を追っちゃおっかなぁ!」
さすがに露骨な時間稼ぎはバレるわよね。と言うか、時間稼ぎだという事は分かっているはずなのだ。それでも私達を急いで倒そうとしたり、王子達を追い掛けようとしたりしないのは何故なのか……?
――考えても分かるはず無いわよね、今は私に出来る事を!
「仕方ないわね。シャリファ、別々に進撃するわ。私は右。シャリファは左ね」
「分かった」
短く作戦を決めると、私達は隠れていた机の陰からそれぞれ飛び出し、オットー目掛けて走った。
「ヒュウ♪ 度胸のある女性は最高です! まずは姫君!」
シャリファに狙いを定めて拳銃を構えたオットーに、私は剣の鞘を投げ付ける。
「喰らいなさい――よ!」
「おー。ですがこの程度、気にする必要も――」
「熱の力。続けて放たれよ――」
「むぅ?」
走りつつ、左手を前に。
「ムル・トルト!」
ボウボウと継続して放たれ続ける火の玉が、オットーを襲う。奴は拳銃を下げ、私に向き直す。
「ちぃ!」
――単発では防がれる魔法でも、連続してなら!
「ハル。上手い」
視界を遮るように放った魔法を避け続けるオットーの懐に、シャリファは潜り込んでいた。
「くっ! 姫君!」
オットーがシャリファを目視した時にはもう遅い。シャリファは強く握った短剣で天高く斬り上げる。
「ハッ!」
「ちッ!」
飛び退いたオットー。シャリファの斬り上げで飛んで行く拳銃。咄嗟に手を離したのだろう、オットーは無傷のようだ。
「よし! あれさえ無ければ!」
私は抜き身の剣を手に追撃する。オットーを見据え、剣を縦一閃に振り下ろした。
「――まぁ。この程度でやられる程、僕は弱くは無いんですよ」
右手の甲で剣が受け止められる。硬い石や金属を斬ろうとした時の感触が、剣を通じて私の手に感じられた。
「な、なんで」
「何故って……ハルフィエッタちゃん。言ったじゃないですか。僕はアンドロイド。人間ではありません。機械ですから、当然人口皮膚の下は金属ですよ」
「……正直、アンドロイドとか、機械って言われても全然ピンと来ないのよね」
ギリギリと鍔迫り合いのような状態になりながら、私はオットーに向けて苦笑いした。
「フッ!」
オットーの左側からシャリファが攻撃をするけど、短剣の連撃を左手一本で止めている。
「はははっ。甘いですよ姫君。攻撃が単調過ぎです。規則計算で簡単に見切れてしまいます」
「なら! これ、は!」
後方に回り込むシャリファ。オットーは対抗する為、私の腹部を蹴り飛ばして背を向ける。蹴られる瞬間に後ろに飛んだから、それほど痛みは無い。
――ちっ!でも、背を向けたわね……いえ、あまりに無防備過ぎるわ。この感じ、誘っている?
「姫君! 僕との舞踏は楽しいですか? 生憎と踊りは入力されていないので、不手際がありましたら申し訳ありません!」
「楽しく、ない!」
向かい合って拳と短剣をぶつけ合う二人を、私は黙って見ている。一見すれば隙だらけなのだけど……
――何なの?このザラっとした感じ、シャリファから感じたモノと同じ……?私は何故、隙だらけなこの背中に攻撃をしたくないって感じているの?
「ハル! 今!」
シャリファと対峙するオットーの背中は、確かにがら空きなのだ。しかし、嫌な予感しかしない。このまま接近すればきっと……
――本当は嫌だけど、この感覚に頼らないとマズい気がする!
「シャリファ! 後でいくらでも謝るわ!」
「ハル!?」
少し下がり、魔素を集める。シャリファもオットーも一瞬手が止まるが、シャリファの攻撃が直ぐに再開し、また激しい攻防となった。
「回れ回れ、火の稚児よ。踊れ踊れ、炎の子達よ。猛り狂え、焔の同胞よ!」
「むぅ!」
詠唱が終わる頃にオットーは振り向こうとするが、シャリファは一瞬の隙を見逃さずに足払いを仕掛ける。
「甘いですよ!」
それを飛んで回避するオットーに、私は狙いを定める。
「甘いのはどっちかしらね? ストア・メガ・トルガー!」
爆裂した魔力がオットーとシャリファを直撃する。
――シャリファには効かないとはいえ、気持ちの良いモノでは無いわ……
「……ゲホッ! ゲホッ! ハル! 酷い!」
煙の中から現れたシャリファは私に抗議しながら駆け寄って来る。そりゃそうよね。
「ごめんごめん。でも、あのまま剣で攻撃してたらきっと――」
シャリファに謝罪をしていると、ゾクりと背筋に走る悪寒。私は咄嗟に振り向き剣を構える。すると――
煙の奥からビシュンビシュンと空を斬り、二本のツタのようなモノが私達に襲い掛かった。
「おー。これはこれはなかなか威力のある魔法ではないですか……ハルフィエッタちゃん。君は魔法の才能がありますね。才能があり強気で度胸もある! これほどの女性はそうはいません。惚れ惚れしてしまいますねぇ」
ツタのような金属を剣で払いながら、私とシャリファは声の主に注目する。黒い煙の中から聞こえる声の調子は、先ほどまでの軽い調子とまるで変わらない。
「それと、ハルフィエッタちゃん。貴女の生体情報を解析させて頂いているのですが、少々不可解な点が見受けられます」
「何言ってるか分かんないわよ。不可解ってんなら、私にはこの遺跡で起きている事は全て意味不明よ!」
私の叫びに笑いで返事をするオットー。
「ははは。なるほど、ふむふむ。僕なりにいくつか仮説を立てられそうですね。まぁ良い。もう少し戦いましょう。体感では数時間ですが、ここは千年以上は未来のようだ。体が鈍っていますね」
「アンドロイドに、鈍る、ある?」
「あっはっは! そんな気がしただけですよ! 気持ちです、気持ち!」
煙の奥から響く笑いが、余裕を匂わせる。その余裕な声色から感じ取れるザラザラした奇妙なこの感じ……
――これは、この感覚はとても不快だわ。私にとって良くないモノはザラザラするのね……これも女のカンてヤツなのかしら?
「拳銃が無くなったのだから、戦力は減ったはず。この妙なツタにさえ注意すれば……」
「あっはっはっは! 拳銃など、ただの遊びですよ。では、本番と参りましょうか!」
晴れていく煙から現れたのは、背中から二本の金属のツタを生やしたオットー。着ていた衣服は大部分が燃え尽きており、露出した肌も所々が剥げていた。
その異様な姿に、私のカンが告げている――『逃げろ』と。
「……」
シャリファはその様子を見て、考えるように顎に手を当てていた。
「おー! これは僕とした事が! 美しい女性と遊ぶ時間は大切にしないといけませんね」
「ねぇ。どうして、私達を、怒らせる事、言う? どうして、戦おうとする?」
「貴方にとっては有意義でも、私達にとっては迷惑意外の何ものでも無いわ!」
次回「神託の勇者は私だけじゃない!!」六章14話――
「読めない奴」
「美しいお姫様達とこんなにも楽しい時を過ごせるとは!」
 




