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11話・戦争の歴史

遺跡の最深部で時の止まっていたかのような部屋に入ったガンザリア一行は、そこでシャリファの口から過去に起こった戦争の歴史を少しだけ聞くのだった。

 ビカビカと強く眩しく発光している天井、木でも石でも無い滑らかそうな材質の棚のようなモノ。一級の大工が作った宮殿よりもツルりとした壁や床。そんな広い部屋の中で、私達は幼い女の子に注目している。


「ずっと昔。戦争、あった。世界、皆、戦った」


 静かに語り出したシャリファは、不慣れな手付きでカタカタと箱の前にある白い板のようなモノを操作し、映し出された文字らしきモノを読んでいる。


「一度に、大勢、殺す物で、沢山沢山、人、死んだ」


「――凄い魔法ね……」


 私は顎に手を当てて呟く。それに対しシャリファは首をフルフルと横に振る。


「魔法、違う。魔法違うけど、一回で、国、一つ、無くなる。クゥンブラ……えと、バーンって……」


 両手をバッと広げて言うシャリファ。これは――


「爆発?」


 タカトがそう言うと、シャリファはぶんぶんと縦に首を振る。


「そう。バーンって」


 私達はゴクリと喉を鳴らした。普段なら何を馬鹿なと笑い飛ばすような話だが、見知らぬこの場所の存在とそれを動かせるこの少女の存在が、私達の顔から笑いを奪う。

 私は想像する。とんでもなく大きな爆発を。城や城下街が吹き飛ぶ様を想像すると、ぶるぶると全身に寒気が走り震えてしまった。


「でも、それ、使えない、なった。えと、理由、分からない、けど、急に。それから、魔法、使う人、出てきた。魔法、直ぐに、世界に、広まった」


 箱に映し出された文字を読み、シャリファは語る。キィンと耳障りな高音に顔をしかめるけど、それは私とタカトにしか聞こえていないのか、他の皆は気にしてなさそうだ。


「戦争、長く続いた。世界、皆、疲れた。沢山、死んだ。少しだけ、残った。でも、遅い。人、いなくなる」


「……」


「えと、ここ、マーハドン……えと、色々する、場所?」


 そう言うとシャリファは椅子から降りて私達の方を向き直す。その表情は決して明るいモノでは無い。スッと指差した方は、入口から見て右側だった。入って来た扉と同じような扉が見受けられる。


「あの部屋、私達、タジリィバァ、する部屋。私、沢山沢山、魔法、ぶつけられた」


 王子がやった事を、シャリファはあっちの部屋でやられたって事……タジリィバァって、実験って意味だろうか?


「……すまん」


 王子は頭を下げる。深々と。色々と察した王子は、本当に申し訳なさそうだ。


「殿下……」


 そんな王子を、リオはしっかりと見つめている。


「うぅん。大丈夫、熊さん、知らなかった。アッドクトラン、知ってた。私、魔法効かない、アッドクトランが、タジリィバァした」


「タジリィバァって、実験、じゃないかしら? 色々と試されたんでしょ?」


「実験……たぶん、それ。沢山、された。体、切られた。魔法、効かなくなった、試された」


 暗い表情のシャリファの隣に、タカトがそっと立つ。少しくすぐったそうな顔をするシャリファ。


「……ふむ。見えてきたな。ここは実験施設で、アッドクトランは研究者だな。シャリファはここで様々な研究実験をされてきたんだ。戦争の……道具として」


 唇を噛み締める王子は、きっと自分が同じ事を嬉々としてやってしまった事を恥じているのだろう。恥じているけど、王子は誤魔化したりしない。自らを戒める為にも、あえて酷い事を口にしたのだ。

 辛そうな表情のシャリファを、タカトが抱き締める。ハッとしたような表情のシャリファは、その目に微かに涙を浮かべているようだ。


「シュックラン……ありがとう、タカト。大丈夫。私、運、良かった。生きてる。戦争、終わった」


「その戦争ってのは、大陸だけの話じゃなさそうよねぇ……そう言えば、大陸の外ってどうなっているのかしら?」


「地図、探す? 写真、ある、かも」


 シャリファが机の上の箱を指差す。なるほど、これには地図の写真まで入っているのか。

 ――そうか、私達にとって写真は不明遺物だったけど、この子達の時代では普通にあったのね。もしかしたら箱の中に当時の写真が入ってたりしないかしら……


「大陸の、外の、地図?」


 リオの少し辛そうな声が聞こえた。


「そうね。大陸外の地図なんて王都でも見た事が無いから面白そう。ねぇ、王――」


 王子の方を振り返ると、私とシャリファ以外の皆が頭を押さえて辛そうにうめいてその場にうずくまった。


「「「うぁ……」」」


「ど、どうしたの皆? お、王子? リオ? タカトまで……」


「ハル、何か、来る」


 慌てふためく私に、シャリファが警戒の姿勢でそう言った。

 その時、シャリファが先ほど指差した扉が、バガン!と砕かれ、天井の灯りの色が白から赤へと変わった。ビービーと煩く鳴る音は、以前に遺跡に来た時に聞いたそれと同じだ。


「ハロゥ! イッツァ グッモーニン!」


 パラパラと粉塵が舞う中から現れたのは、リオと同じくらいの年代の男性のようだ。赤い光のせいで色は分からないが、寝転んでいるアッドクトラン……研究員と同じような恰好をしている。


「貴方、何者よ?」


 一歩前に出て尋ねる。王子達はまだ頭を押さえて呻いている。ここは私とシャリファで何とかするしか……

 ――何とかするしか?そう思ったって事は、少なくとも私はコイツを警戒に値すると感じたようね。


「アー……ディファレン ワーズ……ターナ?」


 何言ってるか分からない。シャリファの言葉とも少し違って聞こえる。ビービー煩くてあんまり良く聞こえないのだけれど。

 男性は私を見ると一瞬驚いた顔をするが、直ぐに顔を横に振った。


「何言ってるか分からないわ! シャリファ、分かる?」


 私は敵意をむき出しにして男に問う。そしてシャリファはフルフルと首を横に振っている。


「お、おー、スケィリー スケィリー。あー、えー……おっほん!」


 ソイツはワザとらしく肩をすくめると、これまたワザとらしく大きく咳をする。自身の体に、周囲の魔素を集めているように見えるが――


「ア ボォイス ウィザアアウト ボォイシィス フォ ザ チュルー ボート ポーチュリ―……」


 何だか分からないけど、魔法かもしれない!

 私は咄嗟に剣を抜き、王子を守るようにソイツと王子の直線状に立ちはだかる。


「――ポイエマ・アリグマ・ソノ」


 ――え?聞き間違いかしら?それって……ポイエマ・アリグマって、意思疎通系魔法じゃなかった?

 男の集めた魔素が魔力に変わり、男の体を優しく包み込み吸収されるように消える。

 

「……あー。あー。やぁやぁ! 僕の言ってる事が分かる?」


 まるで何を言っているか分からなかったのに、分かるようになっている。意思疎通系魔法を使ったのは間違いないようだ。


「……分かるわ。で、貴方は何者よ?」


 改めて聞き直す。奴が取り出した小さな板を操作すると、天井の灯りは赤から白に戻り、煩い音も消えていた。

 色が分かるようになって改めて相手を見る。金色の髪は無造作にボサボサしているが、何とも若々しい肌の質感。身長はリオくらいかしら。恰好はまんまそこに寝ている研究員と同じね。


「おっといけない。僕とした事が。女性相手に名乗りもせずに」


 そう言うとババっと右手をお腹に当て、左腕を大きく上げる。演技掛かった仕草に苛立つ私。


「僕の名はオットー。オットー・マクファーリン! 麗しきお嬢さん方、ここが何所か分かっておられる?」


 スッと立ち直す、オットーとかいう胡散臭い男。ゴソゴソと胸元から取り出したのは、黒く小さな……何あれ?


「ハル! モサダァスン! えと、危ない!」


 シャリファがそう叫ぶと、オットーの手にした黒い何かからパァンと乾いた音がする。ほぼ同時にシャリファが先ほど座っていた椅子の背もたれが弾けた。


「ッ!? な、何?」


 驚き、構える。私だけでなく、シャリファも短剣を抜いてオットーを警戒する。

 ――マズいわね。何されたか分かんないわ。こっちを攻撃されたら……

 王子達はまだ頭を押さえてうずくまる。とても動けそうに無かった。


「うーん? もしや素敵なお嬢さん。拳銃を御存じない? そちらの小さな姫君は……」


 何かにハッとした様子のオットー。シャリファを見て嬉しそうにニヤつき始める。


「おー! これはおめでとう! 誰かと思えば、博士のお気に入りじゃあないか! 君も稼働を、いや君の場合は稼働じゃないな――そう、目覚める事を許されたのですね!?」


 意味不明よ。この遺跡で起きる事はどうしてこうも意味不明なのかしら。

 

「私を、知ってる? 私、貴方、知らない」


 シャリファの怪訝けげんな表情を見て、オットーはワザとらしく肩をすくめ、首を横に振った。


「それは無理もありませんよ姫君。僕は君が時空凍結されている間に配備されたんだ。あー。それで思い出した。今は西暦で言うと何年かな? この区画の時空凍結から覚めたばかりで、端末からの情報も拾えてないんだ」


 何を言っているか分からないオットーの問いに、シャリファは口をキリっと結んで考えている。

 白い光に照らされた空間で、王子達の呻き声だけが響く。この状況をどう切り抜ければ良いのか、私は思考を巡らせるのだった。

「おー。僕とした事が……時空凍結していたのだから、情報更新されている訳がありませんでした」

「改造……人間?」

「はぁぁああああっ!」


次回「神託の勇者は私だけじゃない!!」六章12話――

「早く立ちなさい!」


「何なのよ! 次から次へと全くもう!」

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