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10話・潜入!遺跡の最深部!

再び遺跡に侵入する事になったガンザリア一行。遺跡の奥地で見た物とは……?

 鉱山内、遺跡前――

 私達獣人国の勇者一行は、騎士団も含めた全員でアーガの街の鉱山夫達を護衛するという任務に就いている。

 ジンボルさんによれば、この鉱山の鉱石はやはり貴重らしく、相当な量が採れると判断出来れば国からの支援も見込めるそうだ。


「――よし、それじゃあ遺跡外の調査を頼むぜ。ボロア、何かあったら騎士団の方々を頼るんだぜ?」


「おうよ。そいじゃあ行こうぜぃ、騎士様達よぉ」


 鉱山夫の副長みたいな立場らしい、ボロアさんという長身髭モジャのオジサンが遺跡外の調査の指揮を執る。遺跡内の指揮はジンボルさん。

 アーガにいる多くの鉱山夫が参加しているので、それなりの規模になっているけど……ほとんどが遺跡外調査だ。鉱山掘りが主だからここで一旦お別れだ。


「王子様方、頼みますぜぇ」


 ニッカリと笑って遺跡に入って行くジンボルさんに、私達はついて行く。先日鉱山内のほとんどの魔物を狩り尽くしたのか、道中遭遇する事も無く遺跡に到着出来た。

 遺跡内にしても、シャリファが居た場所まで何事も無く進む事が出来た。何も無くて予定より早いくらいだ。


「――着いた、な」


 王子がそう呟く。シャリファが眠っていた箱は開いたままで、室内は至る所に設置された魔灯のような何かが薄く発光しており、真っ暗では無い。これは以前来た時と変わらない。


「……」


 横目でシャリファを見ると、唇を強く噛んでいるのが分かる。遺跡の上部でもそうであったが、やはり辛い思い出を思い出しているのであろう。


「シャリファ、大丈夫。ボク達がついてるから」


 タカトが声を掛けると恥ずかしそうにするシャリファ。よくよく見れば、タカトが手を握っている。

 ――私も王子の手を握ってみようかしら?  


「タカト……あるがとう」


「あはは。ありがとう、だよ」


 シャリファの口角が緩む。大丈夫そうだ。タカト効果かしらね。

 もし魔物やら何やらに遭遇しても良いように、シャリファは短剣を二本腰に差している。普通の剣で良いかと思ったら、シャリファには長くて使い難いみたいだった。

 

「この扉みてぇなヤツの奥が、今回の調査のおもでさぁ」


 ジンボルさんが奥にある扉のようなモノをゴンゴンと叩いている。以前にリオが近づいた時に開いたこの部屋に入る扉と違い、何の反応も示さない。


「……壊すか」


 王子が武器を構えた時、シャリファがトテトテと扉へ近づいていく。


「ここ」


 そう言うと、扉脇の壁にあった小さな突起を押した。シュンという音がしたかと思うと、扉は中央から半分に別れて私達を受け入れてくれる。

 扉の先を見れば、何やら通路になっているようだ。シャリファが眠っていた場所と区画が違うのか、扉の先は所々が崩落していた。


「おぉ。やっぱりここはお嬢ちゃんの家か何かだったんですかぃ? この先に何があるかも、分かったりするんですかぃ?」


 ジンボルさんが興奮気味に話すと、シャリファは素早くタカトの後ろに隠れた。


「ジンボルさん、シャリファ、ちょっと緊張しちゃってるみたいだから、ボクが聞くね」


 ここに来るまで、シャリファに色々と質問はしている。遺跡上部の事は色々知っているようであったが、下部の事はあまり分からないらしい。

 

「シャリファ。この先、何がある、分かる?」


 タカトの言葉を飲み込むようにじっくり聞くと、シャリファは首を横に振った。


「分からないみたいね。ま、行ってみれば分かるわよ」


 私達は更に歩を進めていく。所々が崩落していて危険であったが、真っ直ぐに進むと再び扉が現れる。先ほどよりも堅牢そうな扉で、扉の脇には私の胸元くらいの高さの四角柱が立っている。

 遺跡内を見渡せば、どう表現したら良いのだろうか……遺跡を構築している建材は自然物ではないようだ。そしてこの四角柱は壁等を構築している物とはまた違った物で作られているのであろう。重要そうな物はこうして別格に造られている。周囲の風化具合から見れば、異常な物持ちの良さだ。


「シャリファ。この扉は開けられる?」


 タカトが扉を指差すと、シャリファは扉まで近づき、まじまじと観察する。

 ――しかし、シャリファが眠っていた場所はかなり重要区画だったみたいね……こっちの区画は室内その物は保存する必要が無いって事かしら?でもこの先はまた重要そう……

 そんな事を考えていると、シャリファが肩を落とした。


「――分からない。開く、方法、分かる。でも……」


 難しそうに口をモゴモゴさせる。


「良い。やってみせよシャリファ」


 王子はシャリファに笑い掛ける。

 ――シャリファに笑い掛ける王子。場所が場所なら憲兵を呼ばれるわね。


「うん。やる」


 シャリファはコクンと頷くと、扉の脇にある四角柱を指差す。


「熊さん。私、持って」


 そう言って両腕を上げて背を向けた。その光景が何だか可笑しくて、私は誤魔化すように咳をした。


「ブフォ! ゲホンゲホン!」


 きっと誤魔化せたわね……止めてリオ、目元ピクピクさせてこっち見ないで。


「む……こうか?」


 王子はシャリファを後ろから抱き抱えると、四角柱へシャリファを近づける。シャリファは四角柱のてっぺん付近の突起を押すと、四角柱全体が白く光る。


「おぉ……」


 誰とも分からぬ感嘆の声を聞き、シャリファは四角柱のてっぺんに手を置いた。すると、緑色の光の線ががシャリファの指先の方から手首までゆっくりと下がっていく。


「……」


 少しの沈黙の後、四角柱全体の光が緑色に変わり、扉が半分に分かれる。


「開いた?」


 私達よりも、開けた張本人が驚いていた。私達は警戒しつつも暗い部屋の中へと侵入した。すると――


「わっ!?」


 入室した途端、部屋の中が明るく照らされる。天井に埋め込まれた大きな魔灯のようなモノが白く発光し眩しい。タカトは思わず顔を手で覆っている。

 部屋の中は、そこそこに広かった。シャリファが居た部屋と同じくらい、いやそれ以上に時が止まっていたかのような空間。ここだけ切り離されたかのような感覚になる。


「――な、なんなの? この部屋……」


 私は正面、眼前に広がる……何だろう、薄っすらと光っているような黒い壁に注目する。

 そこかしこに見慣れない箱やら椅子やらがあり、どれも使い込まれた後はあるものの、埃すら被っていない。少し散らかっているが破壊されたような後は無かった。


「ハル。ここ、アッドクトランの、部屋。ここ、えと……頭?」


「ええっと。アッドクトランって人の部屋なのね?」


「違う――ううん、違わない。アッドクトラン、名前違う。えと、タジリィバァ、する人」


 うーん。分からないわね。頭を悩ませながら喋るシャリファには悪いけど。


「む、あれを見よ」


 王子が正面の黒い壁を指差す。すると、壁の中央に何やら白い文字のようなものが浮かび上がっている。皆が注目したが、読める者はいなかった。シャリファを除いて。


「――えと、点く」


「え?」


 ブゥン。というような音と共に黒い壁が発光し、様々な風景画のような……いや、動いている?


「な、なんだ、これは? 絵が動いて……いや絵ではない! まるで今そこで実際に起こっているかのような! 有り得ん!」


 リオの叫び。言いたい事は分かるけど、言葉が見つからない。壁に映し出された動く絵は、緑あふれる美しい場所を鳥のように上空から見ているような光景だ。

 一面に広がる森林の風景。行った事は無いけど、森林国ってこんな感じなのかしら?いえ、あそこはデッカい木の上にあるって言うから、こうではなさそうだ。


「……すご」


「……わぁ」


 皆、呆けたように壁を見つめる。時間にすればたった数分なのだが。美しい風景は空を映し止まり、雲一つ無い青空を映したままとなった。


「――操作、分からない、でもやる?」


 シャリファは王子を見て言った。もちろん、何の事だかすら私には分からない。当然、王子にも分かるはずが無い。


「う、うむ。任せる。良いな? ジンボル殿」


 一応アーガの物だし、ジンボルさんに最終決定権がある訳だけど……


「あ、あぁ。お、お任せしますぜ……」


 ジンボルさんにもどうして良いかなんて、分かるはずが無い。シャリファは部屋の中心に近づき、椅子に腰掛けようとして、何かに気付いたように足元を注視した。


「――アッドクトラン」


 床をじっと見つめるシャリファに近づくと、椅子から崩れ落ちたのか、床に白い衣服を纏った男性の遺体がある。不思議な事に腐ったり白骨化したりしておらず、眠っているようにうつ伏せになっている。

 ――外傷が見当たらないけど、病気か何かかしら?生きた気配はしないし、確かに死んでいるようだけど。


「このヒトが、アッドクトラン?」


 私の問いに、シャリファはコクンと頷く。拍子抜けしたようなシャリファの表情。どこか安堵しているようにも見受けられる。


「ここ、アローズレ……えと離された?、部屋。私達、入った、アローズレじゃ、なくなった。でも、少しまだ、アローズレ、されてる?」


「そう……」


 さっぱり分からないけど、淡々と話すシャリファに私は何も言えなかった。シャリファは椅子に座り、机と箱が一体になったような何かを操作している。箱の前には何やら文字や数字のようなモノが書かれており、シャリファはそれをカタカタと指で操作する。

 すると、箱の全面に、前方の壁と同じように色々な絵や文字が浮かび上がる。シャリファはそれを見て理解しているようだ。


「――ダメ。沢山、分からない。少し、分かる。クァンモノ、分からない」


「ふむ。分かる事だけで良い」


 王子は目まぐるしく映し出されている、壁の文字列を見て言った。


「分かった、熊さん」


 シャリファはその文字列を眺め、しばらく沈黙する。

 無音の空間の中、やがてゆっくりシャリファは口を開いた。


「世界、歴史、戦争の、歴史」


 シャリファの口から語られるのは、私が想像もしえなかった大陸の……いえ、世界の歴史だった。

「ずっと昔。戦争、あった。世界、皆、戦った」

「えと、ここ、マーハドン……えと、色々する、場所?」

「ハロゥ! イッツァ グッモーニン!」


次回「神託の勇者は私だけじゃない!!」六章11話――

「戦争の歴史」


「いつの時代も、ヒトは殺し合うのね」

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