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9話・私は伝達兵か!

依然として街に足止めされるガンザリア一行は、訓練漬けの日々を送っていた。

 シャリファが私達一行に加わってから数日後。まだ橋の復旧が終わらないという事で、私達は依然として「アーガ」で待機している。

 もう何日も待機しているから、街のヒト達にも結構知り合いが出来た。ジンボルさん達鉱山夫とは何だか特に仲良くなった気がする。


「――暇そうだなぁ。ハルさんよぉ」


 天気の良い暖かい日、昼食後に宿の食堂でお茶を飲みながら一人でボーっとしているところに、鉱山夫数名を引き連れたジンボルさんがやって来る。

 今日は午後の訓練、私は無しだから暇だ。王子とリオは訓練中で、タカトはシャリファに言葉を熱心に教えている。


「まぁ。見ての通り暇よ。ジンボルさん達は――ちゃんと仕事しないとダメよ?」


 彼らは普段ならこんな所にいる時間帯ではない。私は少し軽蔑するような目で見つめた。


「べ、別に怠けてる訳じゃ無いでさ! ちょっと獣人国の方々に頼みがありまして来たんでさ」


 私の言葉に鉱山夫一同は苦笑いし、ジンボルさんは慌てて言った。


「頼み?」


「そうでさ。例の遺跡の調査に乗り出そうと決まったんですが、何があるか分からねぇ。そこでお強い獣人国の方々に護衛してほしいと思いまして……」


 護衛か。王子に言ったら喜びそうね。忘れてたけど、一応今も護衛中ではあるし……

 護衛対象のボーウスは、この街で商人らしくしたたかに商売を行っている。獣人国から持ち込んだ干し肉や工芸品が売れているのだという。


「なるほどね。分かったわ。王子に聞いてみるわね」


 そう言って私は席を立った。鉱山夫達の嬉しそうな顔はまるで子供みたいだ。

 ――男ってヤツは単純よね。


「おぉ! お願いしまさぁ!」


「手放しで喜ばないでよ? まだ決まった訳じゃないんだからねー」


 ヒラヒラと手を振りながら食堂を出て王子の元へ。訓練場へ着くと王子とリオが模擬戦をしている。王子の大きな笑い声と、リオの王子を称賛する声がギラつく太陽を吹き飛ばすかのように元気だ。

 ――楽しそうねぇ。王子は分かるけど、リオもやっぱり男ね。


「ハッハッハ! リオ、近頃は久々に熱くなっているようだな! だが、我も負けんぞ!」


「なんの! 私も殿下にはまだまだ負けません! とぉりゃああっ!」


 ガンガンと木剣がぶつかる音が響く中、私は訓練場の端の日陰に座り二人の模擬戦が終わるのを待った。


「――よし、ここまでだ。さすがだな、リオ」


「なんの。殿下、お強くなられましたな」


 数分後、模擬戦が終わった二人は互いを称え合っている。私はそんな様子を特に感想も無く見守る。


「で。どうしたのだ? ハル」


 二人が私の近くに来る。私がジンボルさんからの話を伝えると、王子は顎に手を当てる。


「――ふむ。我は別段構わぬ。リオ、ハル。貴公らはどう思う?」


「どの道、橋の復旧はまだまだ掛かるそうですので、私は殿下の考えに従います」


 珍しく王子が意見求めてるんだから、くだらない事言ってんじゃないわよ。


「私は王子となら、どこへでも!」


 ――あれ?私も同じ事言ってるわね。

 と思いながらも満面の笑みで両腕を広げて待機する私。


「そうか。ならば受けるとするか。ハル。ジンボル殿にお受けすると伝えておけ。出立は明日の朝で良いかの確認もな」


 広げた私の腕は宙を彷徨さまようが、王子もリオはもちろん、最早私ですら気にしない。


「ハル。シャリファが行くかどうかは、本人の気持ちを尊重する。無理に連れて行く必要は無い」


「分かりました。心配しなくても、シャリファはもう暴れたりしないと思いますけどね」


「ならば良い。面倒を掛ける」


 王子はまだ少し、あの日の事を気にしている。戦力増強に目がくらんだ結果だと、自分を責めているのも知っている。


「ふふん。任せてください♪」


 だから私は、努めて明るくしていなければならないのだ。自分の感情など、押し殺して構わない。





「――という事なのだけど、シャリファはどうする? また戻って来るのだし、待ってても構わないわよ?」


「待ってハルさん。一度に長く話し過ぎだよ」


 宿のタカトの部屋で二人に説明をする。タカトは理解したようだが、シャリファは目が点だ。


「あー。シャリファ。ボク達、明日、地下、行く」


 ゆっくりと身振り手振りを交えて伝えようとするタカト。シャリファは真剣に聞いて、時々考えているように見受けられる。


「ち、か……タッファル オルジィ?」


 ゆっくりと繰り返すシャリファを、タカトは急かさずに待っている。

 ――健気で可愛いわねぇ。

 そんな風に思いながら、その光景を見守る私。何だか母親になった気分だ。


「タカト。私、行く。マアン……いっ、しょ? 行く」


「詳しい説明は分かっていないんだろうけど、タカトと一緒にいたいのねぇ――健気だわ」


 うんうんと納得する私を見て、タカトは恥ずかしそうにしながらも尻尾がピコピコ動いている。

 ――ホント。可愛いわねぇ。


「ハル。私、言葉、少し、ビィイット カィエン……えと、少し……」


 私の方を向いてたどたどしく話すシャリファ。その様子を見る限りでは、ただの可愛い女の子だ。

 ――こんなに可愛いのに。あの強さ……

 微笑みながらも、少し拳を握ってしまう。いけないいけない。


「シャリファ。大丈夫だよ、落ち着いて」


「シュックラン タカト。んー。少し……あ、上手! 上手、なった」


 パァっと明るく笑うシャリファに、タカトもつられて嬉しそうだ。


「うん。上手になったわね。凄いわ、シャリファ」


 頭を撫でると、彼女は嬉しそうにエヘヘと笑う。

 ――やっぱり魔力を全然感じない。それに、この体……特に筋力が発達している訳でも無い。どこにあんな力が――


「ハ、ハル。レィアァディイヤ……」


 シャリファの声にハッとなり、無意識に掴んでいた二の腕を離す。


「ご、ごめんシャリファ。私ったら、若くて細い腕に見惚れちゃったみたい」


「もう、ハルさんってば……シャリファ、ハルさんワザとじゃないよ」


 舌を出してお道化た調子で謝ると、シャリファは直ぐに許してくれた。敵意は見られず、ワザとぷくっと膨れて見せたシャリファは年相応に可愛かった。

 その後は何事も無く夜を迎える。夕食後、自室の椅子に座って机にドカッと肘を着いて息を吐く。


「はぁ。今日の私、何だか伝達兵みたいだったわねー」


 一人呟く私。訓練休みだったし、特にやる事もなかったのだから別に良いのだけれど。

 しかし、また遺跡に行くのか……冷静になってみれば、またシャリファみたいなヒトが眠っている可能性もあるし、それが味方に成り得るとも限らない。


「……少し、安易に決め過ぎたかもしれないわね」


 そうは呟きながらも、私は自分が微笑んでいる事に気付く。王子と一緒に旅が出来るという事に――ただそれだけの事が私は何よりも嬉しいのだと思う。

 洞窟での野宿の際王子が私に「この旅が楽しい」と言い、私はその時深く考えずに同意したけど、楽しいだけじゃないと認識させられた今となっては、危険を孕む依頼など安請け合い出来ないはずなのに……


「私、ほんッとうに王子が好きねぇ」


 色々と不思議な事ばかり起きる旅だけど、王子の側に居られるのなら苦では無い。いつもふざけた調子で接するのは好意の裏返し……裏返ってもいないけど

 ともかく、私は一人の女として王子が好きだし、近衛兵として王子を守る。それだけの事だって話よ。その後も色々と考えている内にシャリファがタカトの部屋から帰って来る。


「あら、シャリファ。てっきりタカトの部屋で寝るのかと思ったわ」


 ニヤつきながらおちょくってみる。通じるか分からないけど。


「タカトの、部屋、で?」


 首を傾げ、少し考えた後に恥ずかしそうにうつむく。何だ、通じるのね。二つの意味で。


「ハ、ハル……えと、恥ず、かしい」


「うふふふふふ。可愛い反応ねぇ。何だかイジメてやりたくなるわ」


 ニヤつく私に戸惑うも、シャリファは頬を赤らめながら机を挟んで反対側に座った。


「……で、良いの? 貴女の反応を見た限り、遺跡にあんまり良い思い出は無いんでしょう?」


 頬杖を着きながら言った後、きょとんとするシャリファを見て私は言い直した。


「地下、良い事、無かった?」


 少し考えた後、シャリファは目線を落として口を開く。


「うん。怖い大人、いっぱい。友達、いっぱい、死んだ。タジリィバァ……体、切られて、えと、ダァワァウノン……何か体に、入った」


 ――怖い大人に友達が殺された?体を切られて何かを入れられたって事かしら?

 話している内に、どんどん暗くなっていくシャリファの表情を見ると、私の胸が痛くなる。


「もう大丈夫よ。それ以上は聞かないわ。ごめんね」


 私はそう言ったが、シャリファは首を横に振った。


「リオ、やった、ように、私、魔法、効かない。タジリィバァ、した、から。アッドクトラン……えぇっと、大人の……男、嬉しい? 顔?」


 うーん。とりあえずシャリファには魔法が効かない。それを本人も知っているという事は分かったわ。


「シャリファ、ゆっくりで大丈夫よ。今でなくて良いの」


 私は努めてゆっくりと話す。理解したようで、シャリファはコクンと小さく頷いた。


「さ、明日も早いし、もう寝ましょ」


 私は立ち上がって欠伸をする。


「うん。ハル。ある、がとう」


「ふふ。気にしないで」


 たった数日でこれだけの単語を覚えているんだもの、少しの間違いくらい指摘もしないわ。私はシャリファを抱っこし、寝床へ連れて行った。


「ハ、ハル?」


「よい、っしょ。じゃ、また明日ね、シャリファ」


 そう言いつつシャリファの横に入り、魔灯の灯りを消す。寝床の頭の部分に取り付けられた突起を押すと、魔灯は点けたり消したり出来るのだ。


「うん。レイレタン サァイダァ。ハル」


 目を瞑るシャリファの横顔を、私は少しの間見つめていた。私はこの子に負けられない。察するに、何か大人達に実験されてこの子は強さを手に入れた。魔法無効能力もね。

 ――なら、遺跡に何か手掛かりがあるのかもしれない。それを見付ければ、私だって……

「シャリファ、大丈夫。ボク達がついてるから」

「タカト……あるがとう」

「世界、歴史、戦争の、歴史」


次回「神託の勇者は私だけじゃない!!」六章10話――

「潜入!遺跡の最深部!」


「遺跡って、本当に何なのかしらね?」


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