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6話・実験って、王子――本気なの?

遺跡に眠っていた謎の少女、シャリファ。彼女は一体なの者なのか。通じぬ言葉に苦戦する一行だったが、彼女の特異な体質を見つけたガンザリアは……

※シャリファにはハルフィエッタ達の使う言葉はこう聞こえます。

 シャリファを連れて地上に出た私達は、直ぐに騎士団長のいる宿屋に向かった。

 鉱山内の遺跡はまだ奥に続いてそうではあったのだけど、さすがに一旦戻るという結論に。


「真実を求める声無き声よ。共にうたわん――ポイエマ・アリグマ」


 騎士団長がシャリファに意思疎通系魔法を掛ける。

 これでやっと話が通じるようになるわね。地上に出るまでも、色々話し掛けたけど通じないから、お互い困っていたのよ。

 しかし私の期待とは裏腹に、シャリファに掛けられたはずの魔法は、魔力が分解されて魔素となって散っていく。


「ん? オカシイですね。もう一度――」


 騎士団長はウォッホンと大きく咳をし、もう一度魔素を集める。


「真実を求める声無き声よ。共にうたわん――ポイエマ・アリグマ!」


 しかし、結果は同じ。散った魔素と、不穏な空気。目をぎゅっと閉じたシャリファ。

 いやでも待って。もしかしたら効いているかも――


「ハリ アンタッハ?」


 やっぱりダメみたい。何を言っているか分からないわ。


「ふむ。何らかの理由で失敗してしまうのか?」


 王子は顎に手を当てて考えている。

 もしかしてなのだけど――


「えと、鉱山にいた魔物、ドゥニメルだっけ? アイツらも魔法効きにくかったけど、何か関係あるのかしら?」


「まさか。魔物とヒトに共通点などあるものか。きっと偶然失敗しただけだ」


 リオは軽く笑いながら首を横に振った。

 ――まぁ、そうよね。普通に考えればそうなのだけど、この子は遺跡から見つかっている。不明遺物のような特別な何かがあっても……なんて、さすがに考え過ぎかしらね。

 その後も何度か騎士団長は魔法を掛けるが、一度も成功する事は無かった。効かない気がした。何十回、何百回やってもきっと無駄。そんな気がしたのだ。


「仕方あるまい。また明日色々と考察してみよう。今日は食事を摂って寝るぞ」


 という事で一旦お開きに。と言ってもそのまま皆で食堂に向かったのだけど。あ、ジンボルさんだけ自宅へ帰ったわ。





「ラディゾン! ラディゾンジッデン!」


 髪と同じ黒色の瞳を輝かせながら美味しそうに食事を摂るシャリファ。宿のおばさんに言って子ども用の服を貸してもらっている。

 そんな無邪気な様子から、言葉さえ通じればその辺の子どもと何にも変わらないように見受けられる。

 身長はタカトと同じくらい。褐色の肌が少し珍しいけど、それよりも黒髪の方が珍しい。二つの珍しいが合わさっていて、大勢の子どもに紛れても直ぐに見つけられそうだ。


「そんなに急いで食べなくても大丈夫だよ。あ、ほら、水だよ」


「シュックラン、タキャト」


 水を受け取りニコリと笑うシャリファに、タカトは思わず目を逸らした。

 ――ふふん。タカト、若いわねぇ。


 この食卓には、私、王子、タカト、シャリファの4人。

 リオは律義に記録をまとめているわ。食べてからすれば良いのに。あの真面目バカ。


「タキャトじゃなくて、タカトだってば」


「あー? タカト……タカト。シュックラン、タキャト」


 言い直したみたいだけど、直せていない。それを見たタカトは小さく溜め息をついた。


「良かったわねぇシャリファ。身の回りの世話はタカトがしてくれるわよ~」


「ちょ、ハルさん! 何言ってるの!? 何でボクが――」


「タキャト? ジャンデェヴァン♪」


 シャリファは笑顔でタカトの頭を撫でる。よく分からないが――微笑ましいから有りね。


「わわ。シャ、シャリファー……」


 こんなに可愛らしいシャリファだけど、この子がミアの仲間である可能性がどうしても捨てきれない。先ほど魔法を試している時、鉱山内で感じた違和感が何となく分かった気がする。

 ――この子から、魔力を全く感じないんだわ。少ないんじゃない。本当に、全然さっぱり少しも。魔力を身体に有していないんだわ。


 普通ヒトは多かれ少なかれ、体内に魔力を有しているモノ。身体に魔力が無いと意識を保てないはずだし、最悪死んでしまう。

 他者の魔力を感じ取るのは通常難しいんだけど、私のような目や耳を欠損している者の中には、魔力探知に長けている者がいると聞いている。私もその一人。

 似ているのだ、シャリファは。私達の前に現れ、いつも辛酸を舐めさせてくるイケ好かない女――ミアに。ヤツも魔力を感じなかった。いや、正確にはミアからは魔力を感じたが、極々微弱だった。


「タキャト~♪」


「ちょ、もう、シャリファ、もう――タカトだってば!」


 しかし、だからと言って魔法が効かない理由にはならない。ただ二人とも魔力を感じないだけ。奇妙な共通点はあるものの、その中身は全く分からない。説明が出来ない。


「ふぅ……」


 椅子の背もたれに体を預けると、小さく軋んだ音がした。

 ダメね。考えてもしょうが無いわ。取り合えず、警戒はしながら面倒を――

 ん?そう言えば、この子、これからどうするんだろう。


「王子、シャリファはこれからどうなるんです?」


「あぁ。その事だが、少し試したい事がある。それ次第では、連れて行こうと我は考えているところだ」


「試したい事?」


 何だろうか。私が聞き返すと王子は口元を少し歪ませる。その悪人面、最近見慣れてきましたよ、王子。




 食事の後は各自部屋に戻り、明日に備える。シャリファは私と同室となった。

 今まで宿に泊まる時は一人部屋だったから、何か少し変な感じ。お城でも一人部屋だったし。


「ふぁ~あ。色々あったし、もう寝るわよ、シャリファ」


 部屋に入って早々、私は自分とシャリファの分の寝床を準備する。と言っても一人分の寝床しか無いから、一緒に寝るしか無いのだけど。

 シャリファも疲れているようで、先ほどから何度も大きな欠伸をしている。


「ハル。レイレタン サァイダ」


 そう言って寝床に入り込むシャリファ。


「――まったく、何言ってるか分からないけど、また明日ね、シャリファ」


 室内灯を消して私も寝床に入る。もう寝息を立て始めたシャリファを横目で見つめた。

 サラサラの黒髪と褐色の肌が、差し込んだ月明かりに照らされて何だか神秘的に感じる。


「……」


 くーくーと可愛い寝息を立てるこの少女が、大昔に生きたヒトなのだと思うと何だか恐ろしくなる。

 私が生まれる何百何千年前に生きていたかもしれないなんて、とてもじゃないけど信じられないわ。

 そんな子を一人放って行くなんて本当はしたくはないけれど、王子の企みが上手くいかなければ、この街に置いて行くしかないのよね。

 遺跡で感じたようなザラザラとした嫌な感じは、今は何も感じない。この子から感じたモノなのかは分からないけど――


「あー、今日は何だか小難しく考え過ぎね、私」


 そう小さく呟くと、重くなっていた瞼を閉じる。

 自分が思っていたよりも、ずっと疲れていたらしい。私は直ぐに夢の世界へと旅立って行ったのだった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※


 夜中、尿意を催し起きる。

 月明かりが差し込んだ部屋で、私は同じベッドに眠るハルを揺さぶった。


「ハル、起きて、ハル。トイレに行きたいの」


 ゆさゆさと揺さぶっていると、ハルはむくりと起き上がり、私を見た。

 トイレくらい一人で行きたいのだけれど、私がコールドスリープされる前の世界とは、何もかもが違う。

 空気の匂いも、肌で感じる風も、何もかも。あんな大戦争があったのだ、何かが出て来てもおかしくはないし……

 物凄く簡単に言えば、怖いのだ。


「んー? シャリファ? シメイレン?」


 言葉は通じないから、股間を押さえるジェスチャーをする。

 それを見たハルは、眠そうな目を擦り、軽く頷いた。


「アッサー。トイレガウンジ。アッサーアッサー」


 ハルは大きく欠伸をしながらベッドから出た。

 良かった。意味が伝わったみたい。


  


 用を足して部屋に戻ると、ハルは早々にベッドに入り直し、目を瞑っている。

 私は――何だか目が覚めちゃった。


「――ハル?」


「んー?」


「私を起こしてくれてありがとう」


 意味は伝わるか分からないけど、感謝の言葉を述べる。

 私が眠っていた部屋の隣の部屋にいた子達は――全滅していた。私はヤツの――博士のお気に入りだったようで、特別性の装置に入れられていたようだ。

 それが幸か不幸かは分からないけど、私がコールドスリープさせられる前に考えた事は、実現したみたい。


「バーアッサ。バー、ディー エイ レーライ……」


「あはは。何言ってるか分からないよ」


 きっと、気にしないで、みたいな事かな?そうだと良いなぁ。

 突然知らない世界で目覚めて、突然目の前にいた人達。猫みたいなタキャトに、優しいお姉さんのハル。カッコいいお兄さんのリオと、ちょっと怖い熊さんに、おじさん。


 初めは――今もビックリしているけど、皆良い人ばかりで良かった。ここには博士もいないし、戦争をしているような様子もない。

 毎日実験と称して薬を打たれたり、体を斬られたりもしない。魔法や魔兵器を試し撃ちされる事も無いんだ。

 窓の外に目をやると、大きな月が煌々と世界を照らしている。その神々しい光を身に浴びながら、私は大きく深呼吸をした。


 私は――私は自由になったんだ。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 次の日、私達はアーガの街にある訓練場にいた。

 私と王子とリオ、それにタカトとシャリファという面々だ。


「これより、とある実験を始める。この実験が思うような効果を上げれば、我々の旅に大きな助けとなろう」


 王子の試したい事、ね。

 王子は小さく咳き込むと、シャリファに向かって手招きをする。


「シャリファ、こちらへ。実験とは、貴公の魔法耐性に関する実験だ」


 シャリファはきょとんとした様子だったが、リオに手を引かれ、王子の前に立った。


「マァダァ?」


 その様子を、タカトは心配そうに見つめている。

 魔法耐性の実験――薄々分かってはいたけど、これは止めた方が良いのかしら?

 さすがに言葉も通じない少女に大人が魔法を撃ち込むなんて、どうかしてるわ。


「王子、危ない事はしないであげてくださいね? さすがに子供相手に実験なんて……」


「分かっている。全責任は我が取る。それでは始めよう」


 王子がそう言うと、真剣な顔のリオがシャリファの前に立ちはだかる。強張るシャリファ。

 そりゃそうよね、何されるか分かったもんじゃないんだし。


「降り注ぐ恵の水よ。繁栄を――」


 詠唱を開始すると、シャリファはビクッと大きく体を動かした。


「イェルジャ アザワック エアン ゼァンルク――」


 首を横に振り、逃げようとするけど、王子ががっしりと後ろから押さえているから動けない。

 ちょっと可愛そうな気もするけど、この魔法なら大丈夫ね。


「ライネ・ヴァッサー」


 シャリファに向けられたリオの右手から、水が勢い良く発射される。

 攻撃用の魔法ではない、消火用の魔法だ。


「――!」


 放たれた水がシャリファに届く事は無かった。

 シャリファの目の前で、水の性質を持った魔力は、全て魔素に分解されて散っていった。


「――やはり、な」


 王子がニヤリと口元を歪ませると、それを見たリオは小さく頷く。

 シャリファの不安そうな表情は、一層悲痛なモノになっていく。


「叩き潰せ! 青き大斧おおおの!」


 ちょ、攻撃魔法じゃない。


「ちょ――」


「ベイル・シャル!」


 止める間も無く、リオは水の斧をシャリファと王子に叩きつける。

 大魔法という訳ではないが、なかなかに威力のある魔法だ。万が一直撃だったらどうするのよ!

 しかし、私の心配は無用であった。


「ハハ……ハッハッハ! 思った通りだ!」


 きつく目を閉じるシャリファの後ろで、凄く嬉しそうに高笑いをする王子。


「思った通りって――王子、もしかしてシャリファには魔法が効かないんですか?」


 タカトが心配そうに尋ねると、王子は嬉しそうに口を開く。


「うむ。昨日の意思疎通系魔法が効かぬのを見て、もしやと思っていたが――どうやらかなり高い耐性を持っているのやもしれん」


 そのようね。気になるのは、どれくらいまで無効化出来るか、よね。

 鉱山の魔物と同じくらいだとすれば、実戦ではあまり使えないかもしれないわ――


「――アンクゥワハ」


 王子に押さえられたシャリファが小さく呟く。ワナワナと震え、息遣いが荒い。

 そりゃそうよね。突然魔法を浴びせ掛けられたら、恐怖から体が震えてもオカシく無いわ。

 

「ごめんね。シャリ――」


 慰めようと一歩前に出たところで、背筋が凍りついたように寒くなった。

 この感じ、このザラザラした感覚。鉱山内で感じたモノと同じ――


「ラー タクゥン サァフィハン――」


 肩に乗せられた王子の両手を振り解き、くるりと振り返る。

 その小さな手が、王子の腹部にめり込んだ――

「シャリファ! 殿下から離れるんだ!」

「ク ラォマリン――ハラ フゥ ナッスフゥ?」

「ごめん……シャリファ!」


次回「神託の勇者は私だけじゃない!!」六章7話――

「迷い、芽生える」


「私達って、勝手ですね。王子」


「……そうだな」

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