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5話・開いた口が塞がらないわ

遺跡の内部へと侵入していく一行。更に奥へと続く階段を見つけて……


「階段、か」


 王子と無事に合流し、階段のある場所まで戻って来た。王子達は特に目ぼしい発見は無かったそうだ。

 まぁ、この建物自体が珍しいのだから、何が目ぼしいのかすら分からないけど。


「どうします? 王子達の方でも、風化したモノばかりだったんですよねぇ? この感じだと、下も何も無いかもしれませんよ?」


 何だろう、先ほど感じた嫌な予感と良い予感。本当に何なのだろう、このザラザラとした感じ。今は悪い予感が若干勝っているように感じる。

 気持ちが悪いというか、不安になるというか――


「ふむ。折角ここまで来たのだ。調べよう。行くぞ」


 そう言うと、王子は階段を何の躊躇もせずに降りていく。

 ――少しは警戒しなさいよ!この毛むくじゃら!

 再び王子を先頭にするのも気が引けるし、ジンボルさんが持っていた携帯用の魔灯を借りて私が先行する。

 

「ここ、一体何なんでしょうね。も、もしかしてお墓とかかな……何だかお化けとか出そうな雰囲気ですし――」


 タカトが少し震えて言った。遺跡はもの凄く昔の建物なんだから、お化けの一つや二つくらい出るんじゃないかしら?


「ハッハッハ! そのようなモノ、出て来れば我が叩き斬ってやるぞ、タカト」


「お、王子――お化けって斬れるんですか?」


「知らん。斬った事どころか、見た事も無いからな」


 ――でしょうね。

 そんな会話をしていると階段が終わり、私達は大きな引き戸の様な扉の前に立っていた。


「――壊しますか? 王子」


 そう私が尋ねるより早く、王子は大剣を構えていた。

 その時、上の階と同じく、眩しいくらいに灯りが点き始め、再び女性らしき声が響く。


『ア*ウォー*ン アイ**ノッ* ク***レイム キャ**レイショ* オブ* **ゼンティ**ション スィ**ム プ**ズ *ムゥブ ザ アウ**ティ*イション スィ*テ* トウ――』


 またも何を言っているのか不明だが、先ほどのようなビービーと耳をつんざくような音は聞こえない。ただ淡々と女性らしき声が響くのみだ。


「気にするな、進むぞ」


 さすが王子。もう大剣を振り被っている。


「ぬぅん!」


 先ほどと同じく、王子が大剣で破壊し、穴を開ける。その穴から一歩足を踏み入れると、そこは上の階とは異なり、何と言うか――生きていた。

 上手く形容出来ないけど、そう――その空間は上の階のような風化がほとんど見られていなかった。埃は溜まっているものの、埃を払えば下からは使えそうなモノが顔を出しそうだ。

 何に使うのかは……さっぱり分からない。しかし、明らかに人工物であると見受けられる、大小様々な物体。感嘆の声と感想を考えていたが、ひと際目を引くソレらを見て、私は言葉を失った。


「う、わぁ……」


 言葉にならない声を出したのは、私だけではなかった。タカトもリオも、ジンボルさんも――果ては王子まで、眼前に広がる光景を見て言葉を失っていたのだ。

 私の身長くらいの縦長の箱に、小窓がついたモノが、立て掛けられてズラりと並んでいる。一つや二つではない。少なく見積もって、五十くらいはあるか。

 その一つひとつの小窓から、何やらヒトのような顔が見て取れる。その全てが子どものようだ。


「こ、これ――お墓か何か、なの?」


 しばらく放心した後、私は震える声で言った。タカトが言った事は、あながち間違いでは無かったのかもしれない。

 まるで眠っているような少年少女達。ここはもしかしたら、大昔の技術を集めた墓地なのかもしれない。


「す、すげぇ――こ、こりゃまるで、まだ生きてるみてぇだ……」


 お墓?に近づき、震える手で触れるジンボルさん。

 私もそれにならい、感触を確かめたくなった。死者を冒涜するような行為であるとも思ったが、好奇心が抑えられない。

 

「お、おい。不用意に触れては――」


 リオの静止も、いつもより弱い。動揺しているからだろうか。私も震える手でお墓を触る。ツルツルとした感触。小窓部分は、ガラスになっているらしい。

 近付いてみて分かったけど、お墓の後ろに何やら管みたいなのが何本か付いている。管は劣化が早いらしく、穴が開いたり千切れてしまっている。他のお墓も同様みたいだった。

 間近で見ると、小窓の中に眠る少年の顔がハッキリと見える。とても綺麗だ。ジンボルさんの言う通り、ひょっとしたら生きているんじゃないか、と思うくらい。


「ひ、ひぃぃい!」


 ジンボルさんの悲鳴で我に帰る。声の方を見やると、お墓の前半分が開き、中の少年がジンボルさんにもたれ掛るように出て来てしまっている。


「ジンボル殿、落ち着け。む――」


 それを王子が抱き上げ、床に寝かせる。


「なるほど、体が硬直している。確かに死んでいるようだ」


 床に寝かせられた少年は、色白の肌に金色の髪をしている。痩せ細った体には、縫ったような後が何か所か見受けられた。

 所々が腐っており、腐臭が立ち込め、私達は思わず顔をしかめてしまう。


「ふ、不用意に触るのは……止めましょう。ハ、ハルさんも、気を付けて」


 タカトは怖がりね。まぁ、大昔の死体がもたれ掛って来たら、良い気分では無いから気を付けるけど。

 しかし、かなり時間が経っていると思われるのに、この保存状態は異常過ぎる。

 不明遺物、遺跡――私の常識の範疇はんちゅうなんて易々と越えているのでしょうね……


「まだ奥があるようだな……殿下、あちらから奥に行けそうです」


 リオが指差した方には、再び引き戸っぽい扉のようなモノがある。ここまでくれば分かるだろうが、王子がぶち破って進もうとしているのだ。


「行ってみるとしよう」


 王子がそう言って扉に近づいていくと――

 シュン

 という軽い音がして引き戸は勝手に開いた。


「ほぉ」


「あ、開きましたね……」


 不敵に笑う王子に、呆気に取られるリオ。

 その扉から中に進むと、再びお墓が設置されているのを発見する。それほど広くはない部屋の真ん中に、一つだけ。

 先ほどの部屋のお墓よりも一回りほど大きく、小窓も大きめになっている為、胸の所まで見えてしまっている。


「今度は……一つだけ、ですねぇ」


 近付きながら私がそう言うと、タカトが続けて口を開く。


「女の子? 王族とか、貴族とか、そういう身分のヒトなのかな?」


 そう言われてみると、この部屋は前の部屋よりも綺麗な気がする。お墓に伸びる管も、見た感じでは丈夫そうで劣化も目立たない。


「そうなのかもしれんな。何時の時代でも、特権階級というモノは存在していたのだろう。先の部屋の者達よりも、より長く保存されるように仕組まれているのだろうな」

 

 王子も、もしこの子達の時代に生まれ、死んでいたら――こんな風に永い間形を保ったまま、埋葬されたのだろうか。

 ――なんて、そんな事考えてもしょうがないわね。

 ブシュウウウウ!

 突然大きな音を立て、煙を吐きながらお墓の前方が上に開く。思わず王子の方を見ると、王子は何やら色とりどりに光っている箱を弄っているところであった。


「王子――何かしたんですか?」


「む、いや、ちょっと触っただけだが……」


 イタズラを見つけられた子供のように、バツが悪そうにする王子。


「ね、ねぇ! 皆来てよ!」


 タカトが叫び、注目すると、タカトは女の子を抱き抱えていた。

 ビビッていながら、しっかりと女の子を抱き抱えているなんて、タカトもスケベねぇ……

 じゃなくて、よくよく見ればその子はグッタリとタカトに体を預けているようだ。

 ――硬直していない?


「この子、息――してるよ」


 その後の私達の動揺っぷりったら、なかなか見れない光景だったと思う。

 女の子は裸だったから、取り合えず部屋の中にあった白い布で体を覆い、横にして安静にする。





「えーと。どうしましょう?」


 十数分の沈黙の中、王子に問い掛けてみる。

 この横たわった、推定十歳くらいの女の子を、どうするのか。


「うむ――生きている以上、保護するしかあるまい」


 目を覚まさないままの女の子の顔を見て言った。褐色の肌に、珍しい黒色の短い髪。痩せこけてはいるものの、しっかりと呼吸はしているようだ。

 布で覆う時に見えたけど、この子も体中に縫ったような後が残っている。

 ――怪我等で手術を行った。にしては、ちょっと多すぎるんじゃないかしら?


「保護、ですか」


 まぁ、そうよねぇ。まさか見捨てて出て行く訳にはいかないし……

 この子を見た時から、先に感じた予感の、悪い方が弱くなったような気がする。

 この子、何と言うか……違和感を覚えるのだ。私達とは、決定的に何かが違う。そんな違和感。具体的な言葉に表せないのが、こんなにもどかしいなんて……


「ここ、本当は最近の建物とか――そんな訳ないですよね?」


 タカトは女の子の顔を見つめて呟いた。

 シーンと静まっていたこの場には、タカトの呟きも際立って聞こえる。


「そんな訳は無い、と思うんだが。俺ぁ、昔からアーガで鉱山掘っているが、この辺りを発見したのは最近だし、建物内部の埃だって数十年で溜まるような量じゃなかったろ?」


「で、でも――だとすると、この子は何百、ひょっとしたら何千年も昔のヒトって事に――」


 タカトとジンボルさんのやり取りに、一同が唾を飲んだ。

 本当に理解が追い付かない。肉体の老化を抑えるだけではなく、生き永らえさせるなんて……一体どんな強力な魔法なのだろうか?


「う、うぅん――」


 私達が見守る中、女の子は小さく唸り、目を開けた。


「き、気が付いた!? ねぇ君、大丈夫!?」


 タカトが声を掛けると、女の子は上半身を起こし、タカトを見た。


「――キット?」


 かすれた、とても小さな声。


「え? キット? 違うよ、ボクはタカトって言うんだ」


 そうタカトが言うが、女の子は首を傾げる。


「アンナ―ダタタ ハデソン?」


 アンナーダタタハデソン?建物に響いた女性の声のように、何を言っているのか分からない。私達は首を傾げる事も無く固まった。


「えぇっと――ボクは、タカト。タカト。タ・カ・ト!」


 自らを指差し、何度も名前を呼ぶタカトを見て、少し笑ってしまう。

 何て言えば良いかしら――まるで赤ちゃんに喋りかけているみたいで面白いわね。


「タ・キャ・ト?」


 たどたどしい口調で真似をする女の子。可愛いじゃない。

 先ほどまでの変な空気は無く、微妙に和んだ空気がこの場を支配する。

 ぐぅぅ

 静寂の中、女の子のお腹がなった。そりゃあ、お腹も減るわよ。ねぇ?


「アァナァジェイアウァル……」


 とても悲しそうな顔でお腹を押さえる女の子。

 ――今のはきっと、「お腹空いた」でしょうね。


「タカト、何か作ってあげたら?」


 と私が言うと、王子も頷く。


「は、はいっ。えと、ちょっと待っててね」


 そう言って離れるタカトを、女の子は不安そうに見つめている。私は女の子の近くに行き、少し距離を開けて座った。


「ハル。ハ・ル。ハル」


 タカト同様に、自らを指差して言った。

 まぁ、名前くらいなら、お互い覚えるのも比較的に楽そうだ。地上に出れば、騎士団長が確か意思疎通系の魔法を使えたはず。


「ハ・ル? ハル……」


 女の子はゆっくりと名前を繰り返すと、何かに気付いたようにハッとした表情になる。そして自らを指差し、かすれた声でこう言った。


「シャ・リ・ファ。シャリファ!」


 シャリ、ファ。

 シャリファっていう名前ね、きっと。


「ハル♪ シャリファ♪」


 私は自分と彼女を交互に指差し、にこやかに繰り返した。

 パァっと明るくなった彼女は、簡易調理具で携行肉を焼くタカトを指差した。


「タキャト! タキャト!」


「ち、違うよ! タカト! タ・カ・ト!」


 調理しながら、慌てて訂正する。

 ――どっちでも良いじゃないの。


「タ・キャ・ト?」


 不安そうに私を見る。


「惜しいわね。タ・カ・ト。難しいのかしら?」


 発音が難しいのだろうか?もうタキャトで良いんじゃない?


「うぉっほん。我はガンザリアだ」


 王子ってば寂しくなったのか、ずいっと近づいて来て自己紹介。


「ダ、ダッバ?」


 シャリファは驚いたように私の後ろへサッと隠れる。


「あはは。王子、ダメですよ。顔怖いんだから」


「ぐ、む――怖がらせてしまってすまない……」


 王子ってこう見えて面倒見が良いから、子どもには割と好かれるんだけど、さすがに言葉通じないし、目覚めてすぐにこの顔は無理よね。


「大丈夫。怖いけど怖くないよ。えーっと、ガ・ン・ザ・リ・ア。ガンザリア。怖くない。ガンザリア」


 優しく笑顔で教えるが、なかなか伝わらないわよね。うーん。


「さ、出来たよ。どうぞ」


 しょんぼりしている王子は置いといて、タカトがシャリファの前に焼いた肉を挟んだパネを差し出した。


「コゥベッドザ!?」


 嬉しそうに飛びついて食べ始める。

 何を言っているのか分からないけど、美味しそうに食べる姿は、見ていてほっこりする。


「ラディゾン! ラディゾンラディゾン!」


 これはきっと、「美味しい」じゃないかしら?こんなに幸せそうに食べているんだもの。


「良かった。喜んでくれているみたいだね」


 嬉しそうにするタカト。私達は幸せそうに食事をするシャリファを見守っている。


「取り合えず、この子が食べ終わり次第、ここを出るぞ」


 と立ち上がりながら王子が言った。すると、シャリファが王子を見る。目が合ったようだ。


「ダ、ダッバ! イクション!」


 今度はタカトの後ろに隠れてしまった。


「ぷぷっ。王子、嫌われちゃいましたねぇ」


「ぐむ……」


 王子ってば、しばらくこれで弄れそうね。

 しかし、この子は一体何なのだろうか?


 通じない言葉、珍しい黒髪に、あちこち縫った後――

 いや、それよりも感じる違和感の正体が依然として掴めない。ヒトにしか見えないのだけど、ヒトじゃないみたいな?かと言って魔物とも違う……

 そうだ、少しだけど……ミアと似ているんだ。容姿の話ではない。何と言うか……雰囲気、そう雰囲気と言う他無い。

 ――この子がもし、ミアの仲間だったら……次にアイツにあった時、人質にでも使えるんじゃないかしら。

 私は美味しそうにパネを齧る小さな女の子を見て、冷静にそんな事を考えていたのだった。

「ハリ アンタッハ?」

「ジャンデェヴァン♪」

「――アンクゥワハ」


次回「神託の勇者は私だけじゃない!!」六章6話――

「実験って、王子――本気なの?」


「ホント、何なのよ……この子」

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