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3話・地下にこんな空洞があるなんて、信じられないわ

鉱山の奥地に足を踏み入れた一行。不自然なくらいに広い空間に、一行は度肝を抜かれていくのだった。

「うわ、広っ――」


 空洞に入った時、最初の感想はこれだった。私の何十倍はあろうかという天井の高さに、端の見えない奥行き。


「……ここは本当に、地下なのか?」


 リオの呟きに、王子も唸っている。


「あ、王子っ!ドゥニメルがいますよっ」


 タカトの指差す方を見ると、十数匹のドゥニメルが岩に群がってワラワラうごめいている。

 ――気持ち悪いわねぇ。


「何をしているんでしょう?」


 不思議そうに首を傾げるタカト。


「王子、進んでみましょう。見つけたヤツから倒していかないと」


 と、ほうけている王子に提案する。


「うむ。広さに圧倒されて、目的を忘れるところであった」


 そう言って、背負っている大剣に手を掛け、王子は息を吸い込んだ。

 

「目標、ドゥニメルの群れ。目的は殲滅だ。掛かれッ!」


「「「はっ!」」」


 王子の号令で、私とリオは互いに距離を開け、魔法の詠唱を始める。タカトは試したい事があると道中言っていたから、何か狙っているようだ。

 私とリオの得意な系列は相反するから、近くで撃たない方が良い。合体魔法は無理やり合わせているから、反動がしんどいのよ。

 

「――回れ回れ、火の稚児よ。踊れ踊れ、炎の子達よ。猛り狂え、焔の同胞よ!」


「――優麗なる清き流れ。全てを浄化する者よ。眼前の穢れを流したまえ!」


 同時に右手を前に突き出した。


「ストア・メガ・トルガー!」


「ストア・ボドゥ・シャルール!」


 私の手からは燃え盛り爆裂する炎が、リオの手からは全てを飲み込む激流が発せられる。それらの魔法がそれぞれに、魔物の集団を容赦なく飲み込んだ。


「うひぃ、すげぇ……」


 ジンボルさんが感嘆の声を漏らす。


「これだけ強力な攻撃なら、ボクの出番はないかも……」


 タカトが少し残念そうに言うと、王子が一歩前に出た。


「タカト、油断するんじゃない。その油断を突かれれば、全滅だって有り得るのだ」


「は、はいっ!」


 慌てて構えるタカト。


「ジンボル殿は隠れていてくれ。何かあれば大声を出すように」


「は、はい。武運を祈りまさぁ」


 ジンボルさんは来た道を引き返し、岩の後ろに隠れた。


 王子が警戒する通り、たぶん魔物は全滅していないだろう。全く効いていないとは思わないけど、私だって全滅させたような手ごたえは感じていない。

 しばらくすると、魔法の直撃により発生した土埃が晴れてくる。


「――来るぞ」


 王子がそう言って大剣を構えると、一匹の大きなドゥニメルが姿を現した。

 直径も高さも、通常の奴らの倍はあると思われる。


「見るからにコイツがぬし、ですねぇ」


 私が呑気にそう言うと、大きなドゥニメルが大きく口を開けて威嚇してくる。

 シャララララ

 そんな鳴き声が広い空洞内に響き渡る。

 

「ドゥニメルどもの主――ガドルドゥニメルと言ったところか」


 王子がそう言ってニヤリと笑う。

 あ、ガドルっていうのは、その魔物の上位種を示す単語ね。


「雑魚どもと同じく、簡単に潰れてくれるなよッ!?」


 王子が走っていき、大剣の一撃をお見舞いする。

 鈍い音が響くが、ガドルドゥニメルにはあまり効いていないように見受けられた。


「はっはっはぁ! 良い、戦いがいがあるではないかッ!」


 もう王子ったら、嬉しそうにしちゃって。

 ――って、あれ?


「普通のドゥニメル達も集まって来ちゃったわね」


 なるほど、さっきの鳴き声は、仲間を呼んだのか。


「王子っ! しばらくソイツの相手をお願いしますねっ」


「任せろ。と言いたいところだが、ハル、手伝え。リオとタカトは、そのまま雑魚を掃討せよ」


 お?王子にしては珍しいな。私に手伝わせるなんて。

 王子は敵を過小評価したりはしない。それほど、ガドルドゥニメルが強いと判断したのだろう。


「分かりました~。じゃ、リオ、タカト、雑魚は任せたわよ」


 王子からのお誘いなんて、そうそうあるもんじゃないから、戦いだとしてもちょっと嬉しくなる。


「ちっ。殿下の命令ならば仕方あるまい。ハル、殿下の足を引っ張るなよ?」


「分かってるって。リオこそ、タカトの足を引っ張っちゃダメよ~?」


「だ、誰がッ――」


 ふふん、言ってやったわ。自分年齢の半分にも満たない歳の子の足を引っ張るなと言われたら、屈辱よね。

 

「あはは。でもリオさん、ボクだって日々強くなってるんです」


 そう言ったタカトは、魔素を右手に集めている。魔法を放つつもりかしら?


「はぁッ!」


 掌底を魔物の横っ腹にお見舞いする。

 グボン、と鈍い音を発し、ドゥニメルは血を吐き散らして倒れた。


「よっし! 成功だぁ!」


 嬉しそうなタカト。魔力を掌底に込めて、そのまま叩き込んだって事?

 通常、魔素を魔力に変換しただけでは、何の効果も得られない。変換した魔力を、炎やら水やら属性を持たせ、詠唱して魔法名を言って撃ち出さねば効力が無いのだ。

 どうやったのか分からないけど、そんな魔力の使い方が出来るなんて、タカトは意外と天才なのかも……


「ハル! 何をしているッ!」


 あ、ヤバっ。


「すみませんっ! 今行きます!」


 私は王子の元へ駆け出す。ドゥニメル達、動きが鈍いから、どうしても緊張感が無くなっちゃうのよね。

 ミアやブリガンとの戦いのような憔悴感が欲しいとは言わないけど、あれを経験してしまうと――ねぇ?

 とはいえ油断していると、王子が言った通りに全滅を招きかねない。


「――気を引き締めないと」


 よし、ここからは敵を全滅させるまで、気を緩めちゃダメだ。


「王子っ、お待たせしました」


 私が王子の元に着くと、ガドルドゥニメルの爪攻撃を王子が大剣で弾いているところだった。


「遅いぞハル! 通常種よりも動きが早い。油断するなよ?」


「はいっ、王子っ」


 ガドルドゥニメルの大きな体に、王子の大剣が振り下ろされてるが、ガキンガキンと鈍い音を立て、弾かれている。


「ハル、我が時間を稼ぐ。貫通力の高いアレで一気に決めてくれ」


 王子が言ったアレとは、私の魔法の中では随一の貫通力を誇る、私個人の最大魔法だ。

 ちょっと詠唱まで時間が掛かるし、魔力の使用効率悪いのが難点だから、実戦じゃなかなか使えない魔法なのだ。

 ――おまけに地味だし。

 

「了解ですっ! では、前衛おねがいしますっ」


 でも、王子の言わんとしている事も分かるし、文句は言わない。

 私は魔物から距離をとり、周囲の魔素を集め始める。その間、王子は魔物の攻撃を一人で食い止めて居る。

 さすが王子だな、と思う。私やリオでは、あの大きな魔物の攻撃を正面から受ける事なんて、出来るはずがない。


「はっはぁ! どうしたどうしたぁ。まだまだぁ!」


 ――それにしても楽しそうねぇ。

 旅に出てから、王子は格段に強くなったと思う。元々、王子には実戦経験の不足が心配されていたけど、その心配はもう解消されてきている。


「親愛なるそよ風達。我に宿りて共に遊ばん。リフトゥ・コンスタス!」


 王子が強化魔法で身体を強化し、速度を上げて連撃を放っている。

 てか、身体強化魔法も使わずに戦ってたなんて、あの毛むくじゃらは本当に凄いわねぇ。

 とか不敬な事を考えていると、魔素が十分に集まったようだ。私の周りを膨大な魔素が渦巻き、赤く光始める。


「ふぅ――」


 私は深く溜め息をついた。

 これから使う魔法は、使い勝手が悪いせいで、使う者はほとんどいないと聞いている。でも、これくらいの威力が無いとコイツには効かないという判断は、間違っていないと思う。


「太陽よ。全てを見守る優しき紅鏡こうけいよ――」


 ほんのり赤い魔素達が、魔力に変換されて赤さを増していく。


「慈愛に満ちた葉洩れ日が如く、我らの行く末を照らしたまえ――」


 その光が、胸の前で祈るように合わせた私の両手に集まり、凝縮されて小さくなった。

 タカト達の方の魔物達は何かを察したのか、私の邪魔をしようと近づいて来るが――


 グボン!

 そう鈍い音が響き、近づこうとする魔物は倒れていった。


「ハルさん! ハルさんはボクが守りますっ」


 さすがタカト。頼りにしてるわ。私はタカトに目配せする。


「陰りが行く手を遮るのなら――」


 足を肩幅に開き、右手を前にして重ねるように左手を突き出し、意識を腕に集中させ、しっかりと狙いを定める。

 ――反動が凄いのよね、これ。


「苛烈なる天光を以って払い、晴らせ!」


 狙うは魔物の額。


「撃ちますっ! 離れてっ!」


 私の言葉に反応し、王子が魔物から飛び退く。私と魔物の間に居た王子が避けた事で、阻むモノはもう何も無い。


「やれっ! ハルッ!」


「ソアレ・アクティラル――トルガーッ!」


 ピシュン!

 重ねた両腕に集まった凝縮された魔力が、鋭い音と共に右手の真ん中から放たれる。

 一本の赤い光線が、発射とほぼ同時にガドルドゥニメルの額に丸い風穴を開けた。と同時に、私は踏ん張りが効かずに後方へ吹き飛ぶ。


「ハルさん!」


 タカトが私を受け止めてくれたお陰で、私は倒れずに済んだ。


「あ、ありがと、タカト」


 息を切らし気味でお礼を言う。


「い、いえ……」


 照れたように目を逸らすタカト。 

 そうこうしていると、ズドンという音と共にガドルドゥニメルは地に伏した。


「良くやった、ハル」


 王子がやってきて私を労う。


「ふ~。この魔法、本当にしんどいんですからね、王子~」


 ふらふらと王子に近づいていく私。疲れた時は王子を弄って遊ぶのが一番よね。

 さて、何と弄って――


「うむ。感謝している。ここから出たら褒美を取らそう」


 そう言って私の頭を撫でる王子。


「――!」


 一瞬で顔が沸騰したように熱くなる。


「え、ちょ、おぉ!?」


 飛び退いて手をバタバタさせる私。

 何てからかおうとしていたのか、全て吹き飛んでしまった。


「どうした、ハル?」


 訝し気な王子の顔を、まともに見れない。

 本っ当、この王子は今日はどうしたの!?調子が狂うなんてモンじゃないわ!


「あははっ。変なハルさんっ」

 

 面白そうに笑うタカト。


「も、もう、笑うんじゃないわよっ!」


「ごめんごめんっ。でも、ハルさんの表情が面白くって――あははっ」


 尚も笑うタカトを、私は捕まえて脇くすぐりの刑に処した。


「おーいっ! そろそろコッチも手伝って欲しいんだがー!」


 と、ちょっと遠くからリオが叫んだ。

 複数の魔物に囲まれている。


「あ、忘れてたわ」


「ごめんなさい、リオさん、忘れてました」


「すまん、忘れていた」


 私達はこの後、残ったドゥニメルを掃討し、ジンボルさんと合流した。

 リオがぶつぶつと文句を言っていたが、気にするだけ無駄なので、聞こえない事にする。


「聞いているのかっ。馬鹿娘っ!」


「聞いてないわよっ!」


 そんな様子を見て、タカトとジンボルさん、王子までもが笑うのであった。 

「おー。新発見♪ やったわね、ジンボルさん」

「はい。それが、奥の方の岩壁が一部崩れており、まだ奥があるようです」

「王子! これ、入口じゃないです?」


次回「神託の勇者は私だけじゃない!!」六章4話――

「潜入!謎の遺跡!」


「王子、私達は何をしに旅をしているんですっけ?」

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