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15話・待っている

一瞬の油断が死を招く戦い。派手さは無い分死が直ぐ隣に感じられる。そんな戦いの中、アルカリ―ナが戦場へと近づいていた。

 アルトとデッジボード以外の前衛達はほぼ下がり、ボロボロになった体を休ませている。中には致命傷を負い、仲間に抱き抱えられながら眠りに就こうとする者も見受けられた。


「オラオラオラァ!」


 相変わらずの威力……とは言い難い、明らかに満身創痍といった体から繰り出される斬撃を、魔物は冷静に鎌の背で受けたり受け流している。

 アルトが魔物の後方から仕掛けようとするが、鎌のどちらか片方を常に後ろへ向けている為迂闊に手を出せず、アルトの持つ魔法ではダメージを与えられない。

 身体強化魔法で強化された近接攻撃でのみ僅かに傷を負わせる事が出来る、という事がアルトを焦らせてしまっていた。


「くそっ!」


 イラついて声を出すアルト。その声にデッジボードは僅かに反応してしまい、剣の振りが一瞬遅れてしまう。


 ギシャア!


「ぐぉッ!」


 その僅かな隙を突いてデッジボードの長剣を弾き飛ばした魔物は、片膝をついた標的をほふる為に鎌を振り上げる。


「中将!」


「「「――ぁぁぁあああッ」」」


 ドドドドと巨木を揺らしながら、アルトの後方より援軍が現れる。


「援軍っ!?」


 アルトがそう叫んだ直後、ふわりとアルトの頭上を越えて何者かが魔物に襲い掛かった。


「ハァッ!」


 性格に繰り出された刺突が魔物の頭部を穿ち、左側の眼を潰した。


 ギッシャアアアアッ!?


 そのまま魔物を飛び越え、デッジボードの傍らに降り立った時、兵士達が次々に魔物を包囲する。


「ガ、ガーデナ様?」


 アルトはデッジボードの傍らに立つ人物の名を呼んだ。


「生きていたのね。正直死んでると思っていた。アル様も来ているから、一旦下がっては?」


「アルカリ―ナさんも……!? いえ、下がれません。あのヒトの事だから、いつ突撃して来てもおかしくない」


 その言葉にガーデナは少しイラつきながらも、噴出ふきだして笑った。


「ふっは! んんっ……付き合いは短いのに、アル様の性格をよく分かっているようね。でも大丈夫、アル様は魔法班と共に攻撃準備中よ。間も無くウルバリアス軍本隊の魔法集中攻撃が始まるの」


 アルトが周囲を見渡すと、巨木の枝々に大勢の兵士が展開している最中であった。


「これなら……魔物はかなり消耗しています。いくら強固な奴でも、これだけ長い時間魔法攻撃を受け続けたんだ。もう耐えられないはず……!」


「デッジボード。貴方は下がって。その体では戦えないでしょう?」


 剣を支えに、よろよろと立ち上がるデッジボード。そのニタリと笑った顔を見て、ガーデナは溜め息をついた。


「そういう訳には行かねぇんですよ。こんな面白い局面で私だけ除け者だなんて、冷たいじゃないですか? 聖王様?」


「はぁ……私は聖王じゃないって発表したはずだけど」


「ゲハハハハッ! もう貴女に10年仕えているんだ。今更簡単に変えられるはずが無いでしょう!」


 デッジボードが笑うと、もがいていた魔物が怒り狂ったように叫んだ。


 ギシャエエエアアアッ!


「さて、では二人とも。アル様達の詠唱が終わるまで、行儀良く待ちましょう。行儀良く出来ない魔物は私が躾けてあげなくちゃね」


 そう言って片手で剣を構えるガーデナ。綺麗な白銀髪がふわりと揺れ、微笑を浮かべてアーモ・マイデグリア(森を喰らう者)を見据えた。

 

※※※※※※※


 アーモ・マイデグリア(森を喰らう者)から離れた枝の上に展開したアルカリ―ナは、前衛で魔物と対峙するガーデナを見てニヤリと笑った。

 無駄な動きは無く、鎌をスレスレで回避する動きは自身と比べて軽快で見惚れてしまうな、とアルカリ―ナは感じていた。


「本当に上手く戦うなぁ……何だか楽しそうだし。本当に戦うの嫌だったら、あんな顔しないだろ」


 嬉々として戦う姿を見たアルカリ―ナは背筋が少し寒くなり、かぶりを振って指示を出す。


「よし、詠唱を開始しろ! 各自最大威力の魔法を!」


「「「はっ!」」」


 各々が魔素を集め始め、周囲の魔素が乱れ始める。アルカリ―ナはその様子を感じながら、自身がこれから使おうとしている魔法の事を考えた。

 ――王家の文献にあったこの魔法、前回のアーモ・マイデグリアを倒したという魔法だが……

 そう考えて拳をぎゅっと握る。


「――分かる。使った事の無い魔法なのに、魔力の込め方や使い方が分かる……!」


 アルカリ―ナは目を閉じ、魔素を自身の体全身で集め始める。


「ふー……」


 次第に全身が淡く光るほどまで濃く集まった魔素。そうなった時点で兵士達は各々の魔法を魔物に向かって放出した。


「ストア・メガ・トルガー!」


「ストア・キビル・ガルーグ!」


「ストア・ボドゥ・シャルール!」


 爆裂した炎や土石流、高水流などの魔法が魔物に襲い掛かる。

 ――まだ。それじゃあ倒せない。

 アルカリ―ナはそう直感すると同時に、ゆっくりと口を開いて言葉を紡ぐ。


「聖樹に宿りし英霊の残滓よ……」


 ――死した者の魔力を使うというこの魔法、出来れば使わずに済めばそれが一番良かったんだ。


「無残に散った命の灯よ……」


 ――でもオレが弱いから。皆を守れる力が無かったから、この魔法を使わなきゃいけなくなった。


「その手で掴むは未練残る現世うつしよか……」


 ――皆に、死ねって言わなきゃいけなかった。


「はたまた託した者達の未来か……」


 ――ごめん、ごめん! オレが全ての恨み言は引き受けるから。


「今こそ再度集まりて……」


 ――だから、もう一度だけ……力を貸してくれ!


「王たる我に力を与えよ!」


 アルカリ―ナはカッと目を見開き、腰に下げた棍棒を高く掲げた。集まった魔素は一層輝きを増した魔力へと変わり、神々しさを彼女に与えているように見受けられた。

 何かを予感した魔物は、魔法の直撃で舞い上がった埃の中でアルカリ―ナの方を向き、大きく鳴いた。


 ギシャアアアアアアッ!


「ウニク・モルドート・ナディエランサ!」


 アルカリ―ナが唱え終わると、全身に集まった輝く魔力は巨木中へと散り散りに吸い込まれていき、巨木が薄っすらと輝きを放っていく。


「これは……! アルカリ―ナさんが?」


「ふふふ。きっとそうよ。文献にあった魔法だと思う」


 アルトとガーデナが会話をしていると、埃を巻き上げながら魔物が飛び上がった。


「こいつっ!」


「しまった! アル様!」


 高速で動く羽根に巻き上げられた埃がアルト達の視界を阻む。魔物は標的を定めるが、アルカリ―ナは魔法に集中しており動く事が出来ない。


「ゲハハハハッ! 行かせるかぁ!」


 デッジボードが後脚にしがみ付き、魔物はガクンと高度を落とす。普段であれば恐らくヒト一人分の重さなど気にもしないであろうが、疲労困憊といった様子の魔物ではそうもいかないようだ。

 巨木の枝から飛び上がり、その下に落ちれば命の保証は全く無いほどの奈落であった。


「よっしゃ! 俺も続くぜ! だッはッは!」


 更にガイハブもそれに続き、魔物は更に高度を下げたものの、踏ん張りを効かせたようで徐々にアルカリ―ナに迫っていく。


「中将! ガイさん! ぼ、僕も――」


 ジャンプしたくらいでは届かなくなった魔物に対しアルトも身を乗り出そうとしたが、アルトの肩を優しい輝きが静かに撫でた。


『ばーか。お前は生きろよ』


「――っ!? ラ、ラッドさん?」


 アルトから離れた輝きは他の輝きと混ざり、真っ直ぐにアルカリーナの下へ飛んで行った。


「今、確かにラッドさんの声が……」


「王家の文献に乗っている、死者の魔力を使う魔法……魔力が意思を持つなんて考えられないけど――うぅん。無粋な事は言わないでおく」


 よろよろと飛んで行く魔物を見つめ、ガーデナは剣先を向ける。


「アル様、躊躇してはいけません。ここで倒さねば、アーモ・マイデグリア(森を喰らう者)は……」


 呟いた言葉の意味はアルトには分からなかったが、幻想的な状況に飲まれて深く考える事を止めた。

 ――ラッドさん力を貸してください。アルカリ―ナさんに、魔物を倒す力を!

 アルトが心の中念じた時、巨木の輝きは徐々に一つへと集まっていき、やがてヒト一人分ほどの大きさに収束されてアルカリ―ナの前で静かに佇んだ。


「――オレの全てを、お前達に貸す。共に倒そう、アーモ・マイデグリア(森を喰らう者)を!」


 そう言うと輝きはアルカリ―ナの掲げた棍棒に宿り、鋭い切っ先を持つ剣状の神々しい輝きとなったのだった。

「アルト、もう直ぐ終わるな?」


「はい。アルカリ―ナさん」


「そうか。王族に生まれた意味、少しは分かった気がするよ」


次回「神託の勇者は私だけじゃない!!」外章16話――

「森を喰らう者」


――全てのモノは一寸違わず同じ場所に存在する事は出来ない――

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